「日本を旅する文具店」が北海道を突っ走ってきた話
「来年の夏は北海道で涼しく過ごす」
そんなバカバカしくも切実な誓いを立てたのは2022年、つまり昨年のことだった。
お店の入っているビルが古いがゆえに、夏場は暑く冬場は寒い。
クーラーを付けようにも室外機の置ける場所が遠すぎて、色々と問題が起き、設置することが叶わないと来ている。
ならばいっそ、涼しい場所で商売をすればいい。
母の愛するフーテンの寅さんの如く、風の向くまま気の向くまま。
過ごしやすいところで過ごす「ノマド」的な生活を、文具店がしたっていいじゃないか、21世紀だし……
そんな暑さで脳をやられたような妄想も、一年かければ実現できる。
2022年8月。
移動販売車を作り、2週間弱をかけて北海道3箇所で「旅する文具店」に実際にチャレンジしてきた。
今回はそんな記録を皆様にお届けしたいと思う。
旅日記としてみてもらうもよし。
移動販売にチャレンジしたい人の人柱日記としてもらってもよし。
文具店の一つの挑戦と食べ歩きの記録をご覧いただければ幸いである。
一日目 8/2(水) フェリー乗船
初日…とはいっても、今回の旅は北海道がメイン。
大阪の実店舗から北海道へは、「新日本海フェリー」での移動を選んだ。
京都をずっと北の方に上がっていったところにある「舞鶴(まいづる)」という場所に港があって、そこから乗船すること「21時間」かけて目的地である北海道の「小樽港」に到着することとなる。
実はこのフェリーは、関西のバイク乗りには結構おなじみのルートだったりする。
かくいう自分も北海道でのバイクツーリングを2回経験しており、フェリーの使用も3回目。
バイクの代わりに車を使うという点は違うけれど、イメージもしやすいルートだったので採用した。
とはいえ、瀬戸内海の方が近い大阪から舞鶴港へのアクセスは、100km近い道程でもありまあまあ時間もかかる。
フェリーの出向時間は23時半ととても遅いのだけど、実際の集合時間は何時間か前になることもあって、早め早めの行動が求められるので、基本的に荷物の詰め込みは前日に済ませ、当日は忘れ物をピックアップする程度に留めて19時頃にはお店を車で出た。
途中、山道の中で子鹿に出くわしたり(ちなみに北海道では逆に鹿には出会えなかった)、google mapのナビゲーションが頑なに有料道路をすすめてくるのを交わしきれずに余計な費用を重ねながらも、無事舞鶴に到着。
フェリーに乗り込んですぐ、お風呂に突入し、2等寝台(ドミトリー式)で就寝することにしたのだった。
二日目 8/3(木) ひたすらフェリーと小樽上陸
フェリーで目覚めたのは8時頃。
しかし、フェリーで目覚めても出来ることなら二度寝をしておいたほうが個人的には良いと思っている。
なにせフェリーではやることがない。
ネットサーフィンをしようにも通信回線そのものが、陸から離れた航路では届かないのだ。
具体的には日本海のこの辺を航行している頃には電波がピクリとも反応しなくなる。
頼りになるのは乗船前に買い込んだ食べ物、書籍、ゲーム、ダウンロードしておいた映画や音楽という感じになってくる。
3回目のフェリー乗船とはいえ、暇なものは暇だ。
とりあえずお風呂に入り直してみたり、ニンテンドースイッチに電源を入れたりしながらボーっと過ごし続けることになる。
とはいえ、フェリーのこのデジタルデトックスな時間は、情報にさらされ続ける現代人にとっては貴重な時間とも言えるのかもしれない。
いや、そう思ったほうが健やかに過ごすことが出来る。
こんな調子で窓から見える海を眺めながら、20時頃まで過ごし続けた。
入港が近づくとアナウンスがかかり、車に戻って待機する。
かつて自分もそうだったように、バイクで乗船している人もたくさんおられた。
彼らの下船を懐かしく眺めながら、いよいよ北海道の地に降り立つ。
とはいえ下船した時点で21時近いため、ご飯を食べにいくところも限られている。
北海道といえばセイコーマートということで、簡単な食事を購入して大人しく宿に向かうことにする。
たどり着いたお宿は「和の風」さん
昔ながらの銭湯の上にゲストハウスがあり、インターハイの学生たちに紛れるような形で宿泊をする形となった。
お部屋の雰囲気もとてもよく、室内には昔ながらのマッサージチェアと、下の銭湯にそのままもっていけるお風呂セットまで貸してもらえる。
個人的にエアコンに貼られた「和の風」ステッカーがツボだった。
なんてくだらないことを考えながら、翌日に備えて就寝することにした。
三日目 8/4(金) 小樽〜函館への移動日
さて3日目。
いよいよ本格的に北海道の地を移動していくことになる。
目指すのは北海道の南の玄関でもある「函館」だ。
ここで、翌日から2日間の移動販売車での営業を予定しているのだから、トラブルなく確実にたどり着かなければならない。
とはいえ北海道は広い。
小樽から函館までは、230km近い距離がある。
なるべく費用をおさえるために、時間に余裕を持ちながら下道での移動を想定しているために、確実なルート取りが必要となってくる。
ただ、直線ルートだけを旅していたのでは、とてもじゃないが北海道を満喫できない。
小樽から少し西に寄り道をして、積丹半島に足を伸ばせば、美味しいウニがたっぷりのったウニ丼のお店がわんさかあるのだから、足を伸ばさないわけにはいかない(70kmほど遠回り)。
しかも、前回立ち寄った際には売り切れてしまっていた「エゾバフンウニ丼」がまだ残っていたため、思い切ってチャレンジ。
(この時点から食への妥協は捨てて、美味しい北海道の食材を追い求め始めることになる)
海沿いの道を走り抜け、夕方までには余裕をもって函館に到着。
ポップアップイベントを開催させていただく無印良品シエスタ函館さんにもご挨拶をさせていただき、翌日の出店場所も確認を行う。
イベント開催場所からは路面電車の駅や横断歩道が見えるのだが、そこで気になる看板を見つけることになる。
そう。ちょうど「ゴールデンカムイ展」を開催していたのだ。
これは時間にも余裕がある以上、立ち寄らざるを得ない。
ちょうどイベント会場で、主人公の杉元のシンボルでもある襟巻き柄の長タオルを発見し、イベントのお供として購入することにした。
ゴールデンカムイの壮絶な旅路ほどではないが、この旅を不死身の如く走り切ることができるように願をこめての選択だった。
白石メダルは実用性の観点から泣く泣く諦めたのであった。
そして夜には現地で働く元上司の案内で函館の景色と食を堪能させて頂く。
振り返れば本当に食べて移動してを繰り返す旅路だった。
四〜五日目 8/5(土)〜8/6(日) 無印良品シエスタ函館前 出店
さあ、このまま食い倒れの旅レポで終わってしまうと思いきや、4日目にしてようやく移動販売がスタート。
実はこの移動販売車でのポップアップは「土日営業」が集客的にもメインとなってくるのだけど、平日どうしたらいいんだろうというのが滞在費用面でも大きな問題になってくるのが判明したのも、北海道という広大な遠方の大地で思い知らされた問題点だったりもする。
函館は新幹線で東京からも訪れることができることもあって、東京からの観光のお客様も面白がって立ち寄ってくださることもとてもおもしろい立地であった。
また、時には路面電車が目の前を走っていく中営業するのは初めての体験。
どこでもお店にすることができる移動販売車ならではの景色を実感することが出来た。
中でも330円の小物入れや385円のオリジナルボールペンといった小物系の売れ行きが良かったことからも、SNSなどでは見てなかったけど、現地で見かけて寄ってくださったお客様の多さが感じられた。
しかしここで早くも、移動販売車の最大の問題点が浮き彫りとなる。
「北海道に行っても、夏は暑かった」のである。
これは元上司が2日連続で連れて行ってくださった炉端焼き屋さんで、齢八十をこえるお母様が作ってくださった絶品の卵焼きなのだけど、そのお母様をして「八十年で一番今年が暑い」と言わしめる記録的暑さが北海道を襲っていたのである。(数日後函館が記録的猛暑を実際に記録。 80年どころか過去151年で最も暑い一日を記録するほどの夏となっていた)
もう、どこに行こうと日本の夏は暑いのだ。逃げ場などないということを、避暑地を求めて移動販売を始めようとしているあなたに伝えたい。
もちろん対策として、最新のポータブルクーラーも持って行っていたのだけど日中の扉を開け放った移動販売車では文字通り「焼け石に水」
ポータブル電源の電気をガンガン食いつぶす割に、局所的に冷やすことも難しい状態であった。
結果として、移動販売中はたくさんの水分を差し入れしてもらいながら汗をかき続ける苦しい戦いとなった。
きっと来年の夏も熱くなりそうなので、移動販売を志す方にはここだけでも参考にしていただけたらと思う。
とはいえ、移動販売車での出店と売上そのものは想像を超えて好調だった。
暑い中お立ち寄りいただいた皆様、本当にありがとうございました。
ただ、めでたしめでたし……とは終わらない。
翌週末には旭川と札幌で出店しなければならないのだ。
ゴールデンカムイのクライマックスで登場する「五稜郭」にそびえるタワーの下でお寿司を食べながら、次の目的地への準備を進めることとなった。
六〜七日目 8/7(月)〜8/8(火) 函館→八戸→苫小牧
さて函館での移動販売を終えた翌朝。
朝五時に起床した私は、函館のフェリーターミナルに車で並んでいた。
次の目的地の旭川は、もちろん函館より北にある。
にも関わらず南に向けてのフェリーに乗ろうとしていたのである。
というのも、北海道に行くと決めた時点で、せっかくだから青森の知り合いにも会いに行こうと思ったからである。
そう、青函トンネルは車で渡れると思っていたアンポンタンだったがゆえに、何も考えずにルートを組んでしまったのだ。
結果として、北海道からフェリーでしか本州に渡れないことを知った私は、八戸にいる知り合いのところまで上の図のようなルートでアクセスすることで解決を図った。
まず函館港から朝に出るフェリーで青森港に移動。
その後陸路で八戸市まで移動し、八戸にて一泊。その後夜まで八戸で過ごし、八戸から苫小牧に深夜に移動する深夜バスならぬ深夜フェリーで苫小牧まで移動することで、旭川までの距離を縮めつつホテル代とフェリー代を兼ねて節約することにしたのだ。
そんなわけで朝から函館港についた私は、移動販売車をオフィスモードに切り替えて少しだけ仕事をしていた。
移動販売車として空間を広くとるために、運転席をキャンピングカー用のパーツで回転させられるようにしていた車は、こんなふうにオフィスのように使えるのが工夫した点でもある。
出港までの時間にメール作業をポケットWi-Fiでのインターネットで片付けることが可能となっている。
更に、ルーフキャリアに取り付けているソーラーパネルも、ポータブルクーラーの使用電力を賄うことは難しいけれど、パソコンやスマートフォンの充電量は十分に賄ってくれた。
生まれた電力をこのポータブル電源に蓄電をしておくことで、いつでも電源については悩むことなく移動生活ができたのも、今回のチャレンジを支えてくれた一つの要素だと言える。
旅の装備で役に立ったものとしてもう一つ上げるならこのモバイルマットレス。
フェリーや安価な宿においては、宿のマットレスが自分の体に合わないケースも多い。
はじめは車中泊を想定して購入したこのマットレスだけど、車に積んでおくことで毎日の体力を回復する睡眠の質をしっかりと確保できたのは大きかったように思う。
さて、話は戻ってフェリーに乗船した私は青森へ。
こちらでも現地の知り合いの案内で、美味しいものや観光を楽しませていただくことができた。
そして早くも3回目となるフェリーに乗り込み、苫小牧へと戻っていくのでありました。
八〜九日目 8/9(水)〜8/10(木)旭川に向けて北上
苫小牧へ向かうフェリーで朝5時には館内放送で起こされた。
理由は明確で6時には船が港について、乗客は車で下船をしないといけないからだ。
とはいっても、朝6時に下船してもそんなに急いで車で走り出すほど急いでもいない。
朝から開いている有名な食堂で海鮮を美味しくいただけばいいか……という見通しは甘く、お盆シーズンでごった返したマルトマ食堂さんは2時間以上の行列。
それでもめげずにしっかりと名物のホッキカレーを朝ごはんとして食べて、腹ごなしをするのでした。
さてここから旭川までは230km程度。
旭川までには2泊を挟んで、当日たどり着くことにした。
というのも旭川。
ビジネスホテルが1泊18000円以上という高騰ぶりで、とてもじゃないけど動物園にいってゆっくりというムードでは(費用的に)なかったのだ。
道中は支笏湖を眺めながらどこでもオフィスを楽しんだり。
富良野ではジンギスカンやメロンを楽しんだり、食にはやはり事欠きません。
また、ここまで走ってくると、北海道でバイク乗りが喜ぶ「ただただ真っ直ぐな道」がこれでもかと現れます。
美瑛では、ケンとメリーの木やセブンスターの木といった定番のスポットを中心に北海道の美しさにベタに感動することが出来ました。
十勝岳温泉湯元凌雲閣さんでは、長い山道を走り抜けただけの価値がある絶景と素晴らしい泉質の温泉(ぬるめで長いこと入れるのが最高)、更にはようやく道中でキツネの姿も拝むことが出来ました。
再び美瑛に戻って夕焼けを眺めて穏やかに一日が終わる……と思いきや、ここで事件発生。
夕焼けスポットを探して走っている途中、路肩に突っ込んで動けなくなっている車を発見。
運転席から手がのびていたので、慌てて車を降りて駆け寄る一幕もありました。
幸い運転手さんには何事もなく一安心しましたが、改めて安全運転しないとなと実感することにもなりました。
北海道名物のザンギもここで実食。
そして、旭川のホテルが高いということで、近場の美瑛で宿泊したのですがここで北海道らしい洗礼「扇風機しかない部屋」を受けることに。
北海道はこれまで涼しかったために、クーラーがついてないことも多いとは聞いていたのですが、ここまで温度が上昇していると夜もなかなかこたえます。
もし、来年北海道を夏に旅する方が読んでいらっしゃっていたら、ぜひ部屋にクーラーがついているかのご確認もお忘れなく。
十日目 8/11(金) 旭川での移動販売
さて、移動販売生活もついに十日目。
とはいってもほとんどは移動と観光なので、移動販売としては三日目となりますが、営業日数と滞在日数をどうバランスとっていくのかが今後の悩みにもなりそうだと思い知り始めた頃でもある。
無印良品旭川花咲さんの駐車場をお借りしての出店だったのですが、函館と違ってスペースが広く取れたため、今回はサイドオーニングを展開。
太陽の光を遮ることが出来る分、お客様にとっても自分にとっても少し涼しく感じられる売場環境を展開することができた。
商品の展開も、お客様との会話の中でだいぶパターンができてきていましたが、函館と違って旭川は現地のお客様が多く、購入される商品も少し違っていたのがとても興味深かった。
SNSを見て来てくださったお客様の中には、なんとロックアイスの差し入れまでくださることも笑
飲み物も凍ったものをいただいたおかげでなんとか生き延びることが出来ました。
X(旧ツイッター)を見てお立ち寄りいただくことや、ネットストアを元々ご利用いただいていたお客様もご来店いただき、今の時代ならではの行商の可能性を少しずつ実感することが出来た。
そして、旭川では「蜂屋」さんでラーメンを。
この独特な味わいに、また旭川に来たくなってしまうのでありました。
十一日目〜十三日目 8/12(土)〜8/14(月) 札幌出店から北海道脱出
旭川での営業の翌日、いよいよ旅は最後の目的地「札幌」へ
下道を使って3時間ほどかけて昼過ぎには到着し、ホテルの提携駐車場に車を泊めてしばし観光。
すすきのといえばな風景を見て、
何度行ってもみつけにくい時計台をみて、夜は知り合いと飲みながら札幌を堪能しました。
そして、いよいよ札幌での出店。
さすがに都市部では車での出店が難しいということもあり、無印良品札幌パルコさんの店内でのポップアップをさせていただきました。
開店時間からたくさんのお客様にお越しいただきありがたい限り。
車での出店ではないため、SNSやネットストアでうちのお店のことを知っていただいている方が狙って来店されるケースがほとんどだったのも面白い点だった。
やはり、移動販売車という存在は、店舗そのものがひとつの「コミュニケーション」の手段として成立しているのだと思う。
暑いのに大変ねとか、どこから来たんですか?とか、そういったきっかけで会話が始まる面白さを改めて店内での出店で痛感しました。
ただ、北海道での出店で間違いなく「涼しかった」のが札幌でした(クーラー最高)
最もニッチなアイテムが売れたのが札幌でしたが、意外と売上は都市部でも他の場所でも大きくは変わらなかったのが結果としては非常に面白かった。
そういう意味では移動販売車は、どこでも一定の売上を期待できるのかもしれない。
それは今後の東京や九州などでの移動販売でも引き続き検証していきたいと思う。
さて、無印良品札幌パルコさんでの出店が終わった瞬間、30分ほどで迎える小樽へ即移動を開始。
ホテルでの宿泊も考えましたが、フェリーの出港が夜遅いため、出店して片付けたあとでも、十分フェリーには間に合うため、節約のためにもその日に変える道を選んだ。
最後の最後まで寿司を食べ、
フェリーでの風呂争奪戦に行くパワーもないため、近場の入浴施設で準備万端。
再び21時間かけて、北海道から関西へと向かうフェリーで帰路に付きました。
ちょうど発生した台風7号の影響で少し揺れましたが、翌日のフェリーが遅延、翌々日のフェリーが欠航となったことを考えるとギリギリセーフだったように思います。
実質営業日4日。
3箇所での移動販売を行う13日の旅は、これにて幕となりました。
旅は続くよどこまでも
さて、7000字に及ぶ北海道移動販売の旅。
いかがだったでしょうか。
ほとんど飯テロだったと思ったあなた。
来年は北海道でおいしいものを食べながら移動販売をする資質がありますね。
ですが、「日本を旅する文具店」の挑戦は、まだここで終わりません。
8月26日(土)と8月27日(日)にはなんと東京に参ります!
新宿駅から西へ歩いて行ける文具店「ライトアンドドロー」さんは、セレクトが際立ちまくっているお店なので、うちのお店が好きな人は魅了されること間違いなし。
ぜひ、関東の皆様。
ドケットストアの移動販売車に会いに来ていただければ幸いです!
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