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まだふみもみず

エッセイがいくつもならんでいるが、どれもよむと、ぐっとくる。ある外国でのできごと、かつての家にあった家族とのやり取り。どれも丁寧な文章で、しかし堅苦しいわけでなく、読んでいてそっと心を揺らしてくる。

題名からわかるとおり、章立ては「あやし」「あさまし」「ゆかし」「すずろなり」「あはれでをかし」「いとかなし」と古文の単語からとってきている。このあたりも、いまのじぶんにちょうどいい。

境遇もなにも、全然違うが、昭和、平成、令和と同じ時代を過ごしてきたひとなら、「ああ・・・」と感じるところが多いのではないだろうか。

十二か月物語という段がある。これも記憶にある季節の光や、香りがならんでいる。まったく同じではなくとも読み手にも同じような記憶がないと伝わらないかも。これから先10年 20年後にも同じようにエッセイがあるか、そもそも本という媒体がどうなるかはわからないが、そのころの共感するこうした記憶とはどのようなものになるのだろう。なんでもくさい、うるさい、と排除し、ディスプレイから流れ出る乾燥無味のデジタル情報だけが大量に押し寄せてくる。果たしてどれだけのことを覚えているだろう。

記憶には2種類あって、瞬間に覚えるがすぐ忘れてしまう短期記憶と、いつまでも覚えている長期記憶。後者はそのほかの外的刺激があるほど覚えているか、忘れたように思えて不意に思い出すタイプ。これからこんな記憶は少なくなっていくのだろうか?

さて,檀さんの著書をもうすこしさがしてみよう。

P.S.
タイトル画は収録されている話から。

街歩きがさらに楽しくなるものがあるといいな