2024 J1 第12節 ガンバ大阪 × セレッソ大阪 レビュー

 「ダービーは結果が全て」であることはさておき、2017年以降の大阪ダービーにおいて「結果」に対する「内容」は先行指数のように動いていたように思う。ミクロに見れば異論も出ようが、マクロに見れば、2017年-2019年前半:「内容」ではセレッソが上回りながらもガンバが「結果」を持ち帰るような時期、2019年後半-2022年:「内容」「結果」ともにセレッソが上回る時期と続き、2023年は「内容」はガンバが上回りながらもセレッソが強かに「結果」を持ち帰った年だった。果たして迎えた2024年一発目のダービーは「内容」「結果」ともにガンバのゲームになった。


レビュー

 序盤はセレッソがガンバを押し込む。Jリーグ公式にビルドアップ特集を組まれるぐらいにイケてるらしいセレッソのボール保持の特徴は左右非対称のサイドバックの運用にあるとみられる。自陣での保持のキーマンになるのは左サイドバックの登里。田中の隣にポジションを移して中盤に顔を出す、CBの間に落ちる、サイドで幅を取るなど柔軟にポジションを移しながらプレスの狙いどころを絞らせず、保持を安定させる。ビルドアップの出口となるのは左右に幅を取ったウインガーだ。ルーカス・フェルナンデスを筆頭に、仕掛けられる・時間の作れるウインガーを配置し、クリーンにボールを届けることでそこからの打開を狙う。

 崩しにおいてスパイスになるのが、ビルドアップの段階ではCBと並んで最終ラインに位置取ることの多い毎熊。ウイングが受けたとみるや、毎熊はハーフスペースを駆け上がっていく。この動きにより崩しの局面でプラス・ワンを生みだすことができるので、そこを活用しながら相手のズレを生み、エリア内で待つ抜群の決定力の持ち主であるレオ・セアラにボールを届ける、という寸法だろう。

 今節のガンバも、12分・13分と立て続けに毎熊のハーフスペース突撃を受けた。12分の突撃は宇佐美がポジションを捨てて付いていく、13分の突撃は最終到達点であるレオ・セアラへのパスコースを読んでいた中谷がインターセプトに出たことでそれぞれ事なきを得たが、危機の前兆であったことは間違いない。

 13分の毎熊突撃直後にウェルトンが倒れ込み、メディカルがピッチに入る。その間、フィールドプレーヤーが集まり何事か話しているようだった。ウェルトンに悪い流れを切る意図があったかなかったかは不明だが、この"青空会議"を経てゲームのモメンタムはガンバに流れていく。

 ガンバの修正は「ビルドアップの出口に網を掛ける」ことだったと思われる。まずは右サイドの毎熊。彼のハーフスペース突撃は強力だが、彼が絶対的な存在であるが故に「使う人(毎熊)とスペース(ハーフスペース)が決まっている」という弱点もある。21:03の鈴木徳真のインターセプトや、26分の毎熊のミドルに対する倉田のチェックなど、使う場所と人が分かっているならそれに合わせて網を張っておけばいい。倉田の守備位置を下げ、ルーカスをケアしながらハーフスペースに網を張れる態勢を整えていた。

 一方の左サイド。今節はカピシャーバの怪我の影響で左サイドに為田が入っていたため、ダブルチームでの対応が必要になりそうな黒川サイドと違って半田陸ひとりでも充分に対応できそうな状況だった。レオ・セアラや香川が頻繁に左サイドのサポートに出ていたのは、為田の単騎突破を計算に入れていなかったからだろう。つまり、張ったウイング・ハーフスペース突撃毎熊という出口がオートマティックに決まっている右サイドと比べると、今節のセレッソ左サイドは即興によるアレンジが必要な様子だった。であれば、受け手を捕まえ続けておけばどこかに綻びは出てくる。奪えればセレッソのポジションも崩れているのでカウンタープレスは機能せず、前残り気味のウェルトンを絡めて一気にエリア内までボールを運ぶこともできる。我慢強くコースを限定し続ける守備のポジショニング、相手にやり直しを許さないプレスバックが求められるプランだが、宇佐美・坂本をはじめとした前線の献身的なプレーによってこれが成立していた。

 開始直後には使えていた前進手法が潰されていく中でも保持にこだわっていたセレッソ。目的地を失ったDFラインでの横パスが増え、ガンバがハイプレスを発動するのにおあつらえ向きの盤面が生まれる。中央を消しながらサイド限定→前線からの連動したプレッシングはチームとして履修済みの動き。24分のハイプレスからのボール奪取→坂本一彩のシュートが示すように、胡乱な保持を許さないだけのプレッシングを今のガンバは備えている。27分に生まれた宇佐美の先制点は毎熊のパスミスが起点だったが、ここまでの文脈を踏まえれば、真綿で首を絞めるようにセレッソの選択肢を消していったガンバの守備によって「起こるべくして起きた」ようにも見えてくる。

 一方ガンバのボール保持。セレッソとの保持率の差は後方の保持安定にどれだけ可変コストを掛けたかの差とみられる。登里が柔軟に動き回るセレッソの保持と比較してガンバの保持は可変コストが少ない。自陣では4バック+アンカー(ダワンor徳真)で回し、ミドルサードでは黒川・ウェルトンが幅を取り倉田が内側に、半田は中谷・福岡にプレッシャーがかかりそうであれば3バック化、プレッシャーが薄い状態であればボランチとSHのゲートの間に入り縦パスの受け手かつウェルトンのサポートができる位置を取った。後ろに枚数をかけるわけではないのでプレスを受けた場合はCB・GKからロングボールを蹴ることも多かった。

 セレッソの守備は基本的には4-3-3のままプレスをかけにきており、レオ・セアラの運動量をセーブする意図もあってか彼が動かない際はボールサイドのIHが前に出てプレスのスイッチを入れていた。ただ、このIHの動きに周囲のチームメイトが呼応していたかと言われると微妙なところで、中盤のスライドが甘く田中駿汰周辺の中央のスペースが埋め切れていないシーンが散見した。前述した通り、ガンバはセレッソのプレスに対してリスクを取らずにロングボールを選ぶシーンも多かったが、それなりのパス成功率(今節:76%、シーズン平均:80%)を記録できていたのは、単にボールを捨てるのではなくこのスペースを起点に敵陣へとボールを繋ぐことができていたからとみられる。

 失点直後の34分に毎熊が負傷。元ガンバユース、ルーキーの奥田が右SBに入る。奥田の投入に合わせてウェルトンと倉田が左右を入れ替える。対面倉田で想定してピッチに入ったであろう奥田を落ち着かせないポヤトス監督のしたたかな采配だろう。

 前進ルートを塞がれたセレッソはウインガーへの対角フィードに活路を見出そうとするが、そこしかないとわかっていればスライドも間に合う。最初の15分を経て対策を固めたガンバが攻守に優勢に試合を進めた前半だった。



 後半両チームに選手交代はなかったが、奥田の途中出場を機に左右を入れ替えていたウェルトンと倉田の位置が戻る。セレッソがボールを持ちガンバが構える構造自体は変わらなかったが、後半は奥田がビルドアップの段階で内側のレーンに入ることが増えていた。この修正によってか、ガンバのハイプレスを呼び込みがちだったセレッソの段差のない自陣での横パスが減り、前半と比べるとDFラインでの保持は安定していた。

 そんな中またしてもセレッソにアクシデント。55分、ビルドアップにおけるキーマンだった登里までもが負傷交代。小菊監督はそのタイミングで3枚交代を決断。為田と奥埜が同時に下がり、上門、柴山、ブエノが入る。ベンチに守備の選手が足りないので右CBに田中駿汰が入り両CBがそのままひとつづつ左にスライド。アンカーを務めるのは代わって入った上門。IHは左にブエノ、右に香川。ルーカスが左WGに移動して右WGに柴山が入る。

 以降、これまで登里が担っていた偽SBのタスクは左右反転する形で奥田が引き受けるようになる。ルーカスを左WGに移したのは、この左右反転によって「左で作って右に流す」方針から「右で作って左に流す」方針に切り替えたことも影響しているだろう。舩木は毎熊ほどプラス・ワンのタスクをこなせるわけではなさそうだったが、ブエノとルーカスという個の力で状況を打開しようとしていたとみられる。ただ、交代選手の配置から意図はわかるもののやりたいことを実現させるには練度に難があった。時折良い動きがはまって前進はできても、続くプレーに即興感が否めずパスが流れたりガンバDFに阻まれるシーンがほとんどだった。

 66分に香川に代わって今シーズンリーグ戦初出場の清武。セレッソの中盤は全員が攻撃的なポジションを本職とする選手で守備が機能しない。カウンターでも保持でもガンバのミスがなければボールを奪えない状況となり、ガンバが次々に決定機を作る。セレッソはキム・ジンヒョンの好セーブとガンバのシュートの甘さによってなんとか1点差でしのいでいる状況だった。

 一方、ここまで走り回ってきたことでガンバの選手も疲弊が目立ち、前半ほどは限定が効かなくなりエリア内に送り込まれたクロスを跳ね返すシーンが増える。福岡・中谷の安定感は前半から際立っていたが、後半になるにつれ半田陸も尻上がりに調子を上げ、左サイドを個で打開しようと試みるセレッソを鬼気迫るプレーでシャットアウトした。後半セレッソに決定機らしい決定機はなく、唯一あるとすれば88分のルーカスのドリブル横断からサイドを振り回されて清武のヘッドに繋がったシーンぐらいだった。

 80分、足が攣った倉田とダワンに代わって山下と石毛が入る。投入直後、山下のスライディングタックルがスタジアムのボルテージを一気に引き上げる。90分には流石に動けなくなっていた宇佐美・坂本を下げ、岸本、中野を投入。ピッチ内の選手たちにメモを回覧し、5-4-1に切り替えて守り切る方針を明白にした。

 アディショナルタイムにはウェルトンに代えて唐山。交代タイミングをずらすことで可能な限り時間を稼ぐ。メモの件といい、ポヤトス監督はじめスタッフ陣のこの試合に賭ける思いが伝わってくるような終盤の立ち回り。セレッソのジンヒョンをターゲットにしたパワープレーも実らず、最後は敵陣でボールをキープし続けたガンバが2019年以来5年ぶりとなる大阪ダービーでの勝利を手にした。



まとめ

 セレッソは、所謂サッカーの4局面「保持・ネガトラ・非保持・ポジトラ」で考えると「保持に全振りしたチーム」な印象を受けた。カピシャーバがいて両翼で単騎突破が使える状態であれば「保持で押し切る」シナリオは有効だったのかもしれないが、そうならなかったことでそれ以外の局面の脆さがあらわになったのではないだろうか。今節においては舞熊・登里というキーマンを立て続けに欠いた影響も大きかったとみられるが、一時首位にいながらここの所勝ち点を伸ばせていないのはこのあたりに理由がありそうな気がする。

 特に、かつてのユンジョンファン⇒ロティーナ⇒初期小菊監督の時に感じていた「ブロック守備の強固さ」が見る影もなくなっていたのがサッカーというスポーツにおいてバランスを取ることの難しさを感じさせるようだった。これはこの記事を読んでおられる数少ない(多分)セレッソサポーターに向けての余談だが、筆者はロティーナが2020年の神戸戦でみせた序盤に退場者を出しながらも5-3-1の強固なブロック守備でしのいでワンチャンスをもぎ取ったゲームにライバルチームながら感動した記憶があるので、今の状況を見るとちょっと寂しい。何なら去年からちょっと寂しかった。


 一方のガンバ。保持の形にこだわってそれ以外の局面が疎かになった結果失点が嵩んだ去年の反省を踏まえて「どのような状況でも戦えるチーム」を目指しているのが今年だとみられるが、ここまでのシーズンでは今節のような守備に重きを置いた試合のほうが結果・内容ともに良いゲームができている。守る試合では健闘し、攻める試合では苦労するかも……と京都戦のレビューで予想したが、今のところその通りになっているのは予想屋の立場であれば朗報だがサポーターとして望むところではない。

 ここで大阪ダービーを終えた後の鈴木徳真のコメントを引用したい。

今シーズンは、チームとして38試合を終えた時の結果を求めて、ある意味、目の前の結果だけに左右されない1試合1試合の『積み上げ』を大事に考えて戦ってきた中で、ここ数試合は、自分たちがボールを持つ中での戦い方を積み上げていたのに対し、今日はボールを持つ相手に対してどう戦っていくのかということを積み上げられた。そんなふうに、対戦相手によってどういう戦いをするのか、という経験を積み上げていくことでもっともっと順位を上げていけるんじゃないかと思っています(鈴木)

<ガンバ大阪・定期便94>「弦太のために」心を一つに。記憶に残る『大阪ダービー』。

 今節古巣相手に随所で良いプレーを見せてくれた鈴木徳真。彼も「ボールを持てる試合」への課題認識を持っているらしい。いちサポーターでしかない筆者だが、こういうコメントを聞くと同じ道を並んで歩いているようで心強い気持ちになる。

 久々のダービー勝利、余韻にたっぷり浸りたいところだが、次は恐らく持たせてくる名古屋が相手なのでまた難しいゲームになりそうだ。せっかくJリーグ公式さんから巨大ロンドだ何だで褒められたところなので、自分たちがボールを持つゲームでの「積み上げ」を「結果」に結び付ける姿を楽しみにしたい。



ちくわ(@ckwisb

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