2024 J1 第11節 アビスパ福岡 × ガンバ大阪 レビュー

 連戦を意識してかスタメンをいじってきたポヤトス監督。トップに坂本、トップ下に山田康太、左にウェルトン、右に岸本。ボランチはここ数戦馴染みの鈴木徳真とダワンの組み合わせだが、バックラインは三浦の怪我を受けて福岡と中谷がコンビを組み、サイドバックは左が黒川・右を中野が務めることになった。

 アビスパ(こっちにも福岡がいてややこしいのでアビスパで)はボールを持たせ、ガンバがボールを持つ、という展開が続いた。後から書くのがレビューなのでネタバレもなにもないがこの試合は0-1でガンバが負けることになる。試合が終わってから見ると「アビスパがガンバに狙い通りボールを持たせた」なんてことを言い出す人がいるかもしれないが、ニュートラルに見れば前半21分の失点シーンまではガンバのワンサイドゲームだった。

 そこまでのガンバは前進に苦しむことはなかった。ポイントになったのはアビスパの1トップ2シャドーの守備。恐らく、ザヘディにプレスのスイッチを入れる仕事を期待していないからか、CBに対するプレスのスイッチを入れるのはシャドー(佐藤・紺野)の役割になっていた。一方で、ミドルサードまで押し込まれればシャドーはガンバのSBを見なければいけない。つまり、アビスパのシャドーは「CBに対するスイッチも入れるし、戻ってSBも見る」というかなりしんどいタスクが与えられていることになる。

 そのタスクのしんどさにいち早く目を付けたのはガンバの右サイドだった。アビスパ左シャドーの佐藤はCBに寄せる意識を残しているためか、かなり内側に寄って守備をする。その意識を逆手に取り、CBに来るならサイドを使う、来ないなら運ぶ、形が整わないなら左に振ってやり直す、といった形でシャドーの動きを逆手に取って前進していた。

 特に白眉だったのはこの日右SBに入った中野。昨年、大外を駆け上がってクロスを上げるクラシックな役割を与えられた時の中野は正直言ってパッとしなかったが、岸本が張って内側を使う局面では両足使えて色んな角度に選択肢を持てる彼の特性が存分に発揮されていて良かった。鈴木徳真もサポートに来る中でアビスパの左サイドはかなり手を焼いていたのではないかなと思う。惜しむらくは山田や坂本との連動の部分。二人とも降りて受けにくるシーンが多かったが、中野があれだけ内側で受けられるのであればそこは彼に任せてもう少しフィニッシュを意識する動きを増やせればより脅威になったのではないかなと思う。

 右を意識してスライドしてこれば左のウェルトンをアイソレーションで使う、みたいな形もあり、押し込んでゴールを奪い切れるかな~と意気込んだ(サポーター感情的な意味で)矢先にザヘディの冗談みたいなゴールが決まって先行を許す。

 それ以降も構造自体は変わっていなかったとみるが、失点したことで少し丁寧さが欠けてしまったように思う。ロングボールで相手にボールを渡してしまったり、受け手が準備できていない状態で渡してしまったり、強引な突破を狙ったりと、博打っぽく見えるプレーが増えていく。



 後半も前半と同じガンバがボールを持ち、アビスパが受けるという構造が続いたが、アビスパのファーストプレスの勢いが強くなった。ガンバとしては、それを逆手に取ってロングボールで前進を試みるシーンが多くなった。前進はできるものの、少人数でのチャレンジになるのでピンポイントでなければシュートには繋がりにくく、かつ、ミスがあれば相手ボールになるので、波状に畳みかけることもできない。

 アビスパのプレスを見れば、前線からのプレスは強くなったが、中盤以降がそれにしっかりついてきているかというと微妙なところで、恐らく、前半と同じように丁寧にやれば、もうすこしチャンスをたくさん作る余地はあったと思う(そのようなシーンもいくつか見られた)。ただ、そうした時間があったのも60分ぐらいまでで、それ以降の時間はなかなか試合を動かせず0-1での敗戦となった。


まとめ

 中谷はインタビューにおいて、ポヤトス監督を評して"相手に対してのやり方とか、戦術はしっかりしている中で、個人の裁量も大きい"と述べたが、今日の試合についてはまさにそんな感じが悪い方向に振れた試合で、ボールを持つロジックとしての"戦術"は示されていながらも、それを選ぶ"個人の裁量"の基準がすこしずつズレていくことで、時間が経つにつれガンバの方がちぐはぐになっていったように感じる。

 こういう時間が進んでいくほど虚無になっていく現象(琉球戦とか福岡戦)は、大体ガンバがボールを保持している時に起きる。"個人の裁量"が必要になりにくい守備と、"個人の裁量"が必要になりやすい攻撃。ボールを握りながら相手の嫌なポイントを見つけて研ぎ澄ませていく、というゲーム運びができていないのは、"個人の裁量"周辺に要因がありそうに感じる。

 相手に保持を許し、守備から動かすような試合(広島戦とか浦和戦)で良いゲームを作れるのは明らかになったが、上を目指そうとすればするほど、今日のような問題に向き合う機会は増えていくはず。これをどのように解決していくのかが、今期の大きなテーマになりそうな気がする。



ちくわ(@ckwisb

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