2024 J1 第10節 ガンバ大阪 × 鹿島アントラーズ レビュー

レビュー

 この試合でまず言及しなければいけないのはスタメンの顔ぶれだろう。連戦の中で前線の並びは最前線に宇佐美、二列目が左に坂本・山田康太・ウェルトンという並びになった。宇佐美・坂本・山田康太とトップ下/前線をこなす3名が並んだことで誰かが普段と違うポジションをやらなければいけないが、その役目は坂本が左サイドで担った。

 鹿島のキックオフから始まったこのゲーム。鹿島はロングボールで手数少なくDF裏に蹴り込みラインを押し下げる。ロングボールの的は誰か一人に決まっているわけではなく、最終ラインで回しているタイミングで前線4名の中の誰かがラインブレイクの動きをする→その誰かに向けて蹴る・残りのメンバーはセカンドに構える、といった方針のようだった。開始5分はその流れでガンバを自陣に押し込む。

 ガンバはボール保持でモメンタムを取り戻す。鹿島の守備は、奪いどころを決めて網をかける、というよりは誰かがスイッチを入れたらみんなでついていくという雰囲気。ガンバとしてはボランチが2トップの脇・間に落ちながらプレスを引き出せばどこかにスペースが空くので、そこに山田や坂本が落ちてきて前向きの選手に落としてサイドに展開、という流れで何度かチャンスを作る。

 一方の鹿島ボール保持。前半5分を過ぎてからはキックオフ直後に見せたロングボール攻勢は影を潜め、地上戦での前進が目立った。鹿島の前進はCBと知念でボールを握るところから始まる。彼らがボールを握れば前線の4枚がサイドバックを引き付けながら縦パスを受けにくる。鈴木優磨が積極的にサイドに流れるなど配置は流動的で使うスペースが被ることもみられたが、キャスティングとして誰がどこに入っても無理がなさそうな組み合わせだったので多少歪でもボールを収められるのは鹿島の強さと感じた。ボールをキープできれば、ガンバのサイドバックが開けたスペースを鹿島のサイドバックが駆け上がる。ウェルトンも坂本もプレスバックには出てくれるが駆け上がるサイドバックにべったりついていくわけではなかったので鹿島はサイドバックがウイングの背中を起点に前進を行っていた。

 ただ鹿島の先制点は知念のロングボールから生まれた。直接的には仲間の裏抜けに対する岸本の対応ミスに原因がある(知念がフリーでタイミング決められる状態なんだから背走優先でいいはず)が、先制点までのシーンを流れで観ていると、地上戦を意識付けられていたなかの突然の裏抜けで「アラートさが欠けていた(※この表現あんまり好きじゃないんだけど選手の皆様はよく使うよね)」ところを狙われたようにも感じる。これを「鹿島らしい」と表現する――のは、ちょっとバイアスが過ぎるかもしれませんが。

 先制した鹿島はガンバの保持に対してより狭く構え、前線から積極的なプレスに出ることがなくなった。一方、ガンバは失点前と同じように鹿島がプレスに来てくれた前提で前進を行おうとしていたように感じる。鹿島のブロックを広げるまで我慢できず狭いエリアを無理やり攻略する形になり、これまではスムーズに受けられていた中央で潰されてショートカウンターを受けるシーンが目立ってくる。

 すわ鹿島のペースか、といったところで試合は振り出しに戻る。相手が狭く構えてくるなら最終ラインでプラスワン作って回しながらスライドさせて空いてる逆サイド使えばいいじゃん、とダワンからのロングボールに抜け出したウェルトンが安西と並走する形になり、接触して倒れるもいち早く立ち上がってクロス。マイナスに構えていた坂本がゴールに流し込んだ。あきらめずにクロスを届けたウェルトンも素晴らしければ、ボールの軌道を読んで左足でのダイレクトシュートを選ぶ坂本のとっさの判断も素晴らしかった。3試合連続ゴールは伊達じゃない。



 後半、ガンバは岸本に代えて福岡を投入。失点にも繋がった前半の守備が気になったとみられるが、連戦かつ本職右SBが不在の現状で出場時間をセーブした、といった理由も考えられる。

 鹿島が後半54分と早い時間帯にリードを奪う。後半入ってすぐの鹿島は再びプレッシングの勢いを前面に出していく方針に切り替えていたが、そこに対してガンバはボールを捨てることも厭わないスタンスを取っていた。結果論でしかないが、この「受け」のスタンスが押し込まれるシチュエーションを作り、失点のきっかけになったと感じる。前半も同じような状況だったが保持からペースを握り返すことができていたので、後半も同じようにしのいでペースを握ろう、という腹積もりだったのかもしれない。

 失点はクロスが流れたところに飛び込んでいた濃野が合わせた形。寄せが甘くいいクロスを蹴られてしまったことにも問題がありそうだが、ここ数戦の濃野の調子や押し込まれている状況を踏まえれば坂本が濃野を放してしまったのはまずかった。

 得点後もプレスの勢いを緩めない鹿島。ガンバとしてはボール保持の糸口を見いだせない中、唯一明らかな違いを見せていたのはウェルトンだった。前からくる鹿島の背中に広がるスペースで加速し、一人でポケットまでボールを運べてしまう。ただ、少ない人数で運んでしまっているので敵陣でボールを落ち着かせることは難しくなる。敵陣に押し込むことができずなかなか流れを掴めない。

 69分、山田&鈴木徳真→山下&倉田。坂本がトップ下(後にCF)、倉田がボランチに。鈴木徳真はルヴァンでもフルタイムだったので、連戦を意識した出場時間管理の意味合いが強いだろう。倉田はボランチとして入ってきたが2トップの間でボールを引き出すような動きが少なく、ブロックの外側やサイドに出てプレーするシーンが多かった。彼の変わりにブロックの間でボールを受けるのは坂本と入れ替わってトップ下に位置取るようになった宇佐美。だが、彼をここに置くということは前で崩しに関与できる選手が少なくなるということでもある。ボールは持てるが、アタッキングサードでは人が足りず、ピンポイントでなければシュートまでは繋がらないようなプレーに終始してしまった。そのまま試合は動かず1-2で敗戦。


まとめ

 試合の設計としては悪くなかったと思うが、ディテールの部分で差を付けられてしまったように感じる。「ディテールで差を付けられた」とはマリノス戦のレビューでも書いた。あの試合で差が付いたのはフィニッシュワークのディテールだったが、この試合で差が付いたのはいつアクセルを踏むのかをはじめとするゲーム運びのディテールだろう。得点シーンはもちろん、デュエルやファウルなど、プレーをぶつ切りにして流れを掴ませない鹿島の強かなプレーを感じた。

 ふと思い立ってFootball labで公開されているアクチュアル・プレーイング・タイムを眺めていると、勝てている試合ほどアクチュアル・プレーイング・タイムが長い傾向にあることが見えた。今のガンバはプレーを「し続ける」ことで自分たちのペースを掴んでいくチームなのかもしれない。

2024シーズン10節まで アクチュアル・プレーイング・タイム(APT)と試合結果の一覧

 ゲームをぶつ切りにしてくる相手は今後も出てくるとみられる。次の対戦相手である福岡も恐らくそんなチームのひとつだろう。短いアクチュアル・プレーイング・タイムでも勝てるチームになるためにセットプレーを強化するとか、できるだけ長いアクチュアル・プレーイング・タイムを得るために保持の形を工夫したりとか、色々と伸びしろはありそうだ。


 連戦の中で怪我人が多発し厳しい台所事情が続いている。加えてルヴァンカップでの厳しい敗戦もあり、ポヤトス監督が信頼して送り出せる選手プールがどんどん狭まっていっているような印象を受ける。今節、本職でない坂本が左SHで起用されたのはその象徴のようだ。逆風は吹くが、泣いても笑っても次の試合は来る。この危機を乗り越え、チーム全員で強くなっていく姿を見せてほしい。


 最後になるが、三浦弦太の一刻も早い復帰を祈る。



ちくわ(@ckwisb

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