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【読書メモ】『甦るロシア帝国』(著:佐藤優)

少なくとも12人のインド人があっせん業者にだまされ、ウクライナと戦争中のロシア軍のために戦わされており、うち1人はミサイル攻撃で死亡した――。インドでそんな報道が出ている。

出典:「インド人、「だまされて」ウクライナ戦地へ ロシアのため戦うはめに」
(『BBC NEWS JAPAN』2024年2月28日)

今朝(4月26日)のニッポンジャーナルでも取り上げられていたネタ、インドの根深い「カースト制度の闇」とも関連付けた内容で興味深く拝聴しました、、(語り口の面白さも含めて)いい人材みつけてくるなぁ、で、ロシアと言うと思い出すのが、すっかり変節した感のある佐藤優さんのお名前。

なんというか、最近だと高橋洋一さんもその界隈に入りつつあるのを見ながら感じるのが、いわゆるインテリ層が「(明文化されていない)モラル軽視」、「結果ありきで根拠を示さないロジック構築」等々を始めてしまうと、ほんと戦前に「左右問わずの全体主義者」に引っ張られてしまった現象を思い出してしまいます、結構真面目に、、東京15区補選の世紀末っぷりに嘆息しながら。

左右の全体主義たちによって帝国憲法そのものが骨抜きにされ、選挙によって示された民意を重んじる憲法習律も否定されていった

出典:『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』

佐藤さんは公明党(創価学会)と距離をつめ始めた2015年頃から、高橋さんは日本保守党と距離をつめ始めた2023年頃から、なんというか、単純な主義主張の差分だけではなく、どうにも排他的な傾向、情弱層への扇動が垣間見られて、どこかオウム真理教(現・アレフ)がいわゆるインテリ層を取り込んでいた現象にも通じるものを感じてしまいますが、、懸念で終わることを祈っております。

憲法改正によって取り戻すべきは「保守自由主義」であって、「右翼全体主義」でも「左翼全体主義」でもないと明確に答えることができるようになっておくべき

出典:『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』

あらためて、個々人がリテラシー(自分の軸)をもってフラットに、そしてまた排他的にもならずに、各種情報にあたれるよう意識しておかないとなぁ、なんて感じながら佐藤さんの昔の著作『甦るロシア帝国』をふと思い出してみたりも(2012年発行)。

佐藤優さん、2002年の鈴木宗男氏の事件に連座する形で現場を追われるまでロシア外交のキーパーソンの一人として活躍されていた方です。一線を退いてからは、ご自身の経験やインテリジェンスをベースに魅力的で読みごたえのある著作(『国家の罠』や『自壊する帝国』、『日米開戦の真実』etc)を精力的に出されていて、私も2015年頃まではよく拝読していました。

本書はその佐藤さんが、ソ連崩壊後の1992年9月から、日本の外交官として初めてモスクワ大学で教鞭をとられた時の経験を横糸に、崩壊前後にまたがって人脈のあったソ連科学アカデミー民俗学研究所との政治思想についての議論を縦糸に、ロシアが近代国家として甦っていく過程の要素が綴られています。文中からは、大学生などのこれから日本を背負っていくであろう若い世代に向けたメッセージも強く感じました。

ロシア人の祖国、学問、さらに超越性に対する真摯な姿勢から学んで欲しい。そこから日本の復興を、類比の方法を用いて学んで欲しいのである。

出典:『甦るロシア帝国』

こう呼びかけているのは、佐藤さんが教鞭をとられていた時にモスクワ大学で出会った学生達が、ソ連崩壊から復活した(とみられていた)2010年前後のロシアを支えていると、強く感じていたからだと思います。

佐藤さんの担当講座はプロテスタント神学のため、それをベースとした論旨の展開は神学的素養を持たない身としては観念的についていけずに、正直難しい部分も多くありました。

それでも、一つの国家が壊れていく過程とその結果、その後の復活の萌芽が連綿と綴られていく様子に、今の日本では失われてしまった「古き良き価値観」をも感じ、非常に興味深く読み入ることができました。

モスクワ大学の学生たちは、エリートとしての自負を強くもっていた。そして、自らの能力を、自己の栄達のためだけでなく、世のため、人のために使いたいという意欲を強くもっていた。

出典:『甦るロシア帝国』

そして当時、崩壊直後で国家として混乱の極みにあったにも関わらず、こちらのような資質の強さ、恐ろしさは今現在、プーチン氏の下でナショナリズムの煮詰まった「エトノクラチヤ」として結実してしまっており、ウクライナ侵略につながっていってしまっているのかな、とも。

ファシズムに対する耐性をつけるためには知的訓練が必要だ。その意味でマルクスの知的遺産が重要だ

出典:『甦るロシア帝国』

当時(2012年頃)に興味深く感じた点で、佐藤さんの講義の軸にあると見受けられたのですが、、これがモスクワ大学においては失敗してしまったことはウクライナ侵略戦争を見る限りは明らかでしょう、歴史を繰り返してしまっている。

そういった意味では、ここ10年位のエネルギー危機や経済危機などで揺れている世界状況も先の第二次大戦前夜に非常に似て、混沌としてきています。

日本としては、近づく台湾危機などへの警戒を整えながら、戦前の「左右の全体主義者に保守自由主義が破壊されてしまった」との過去を繰り返さないためにも、内部的にその相克はどうなっていったのか、超克出来たのかどうかを、丁寧に読み解いていく必要があると感じます。

ロシアのために一生懸命努力している者が真のロシア人だ

出典:『甦るロシア帝国』

ロシアを日本に置き換えれば、当時、文庫版帯の「日本の大学生に是非読んでもらいたい。」との言葉が示していた大学生だけに留まらず、佐藤さんのロシアへの思いの強さを差し引いても、社会の中核世代である(はずの)30-50代にも響く内容だと、そんな風に感じた一冊でもあったのですが、、

やはり、公明党(創価学会)に近づいていってからの佐藤さんは正直ちょっと、、「ファシズムに対する耐性をつけるためには知的訓練が必要」と話されていた在りし日の姿に戻ることは、もうないのかなぁ、との寂しさとともに。

なんというか、(佐藤さんに限らず)インテリ層が左右問わずの全体主義者に引き込まれてしまうのは、結果を予測してしまうからこその知識人(インテリゲンチャ)のある種の宿命なのか、なんて思いながら、少なくとも根拠を示せない合理的推測なんて言葉に踊らされないようには気をつけないとなぁと個人的には、、まぁ、余談です。

革命はさ、いつもインテリが始めたんだよな?
しかし、観念的な理想論だけで革命をやるインテリは、実践ではいつも過激なことしかやらない。悪い癖だ

革命が勝利して、組織を整備されていくと、革命の理想は、官僚と大衆の中に吞み込まれていくのがプロセスだ。そうすると、それを嫌って、世間から逃げ出すのが、インテリなんだよな?

シャア、それが、あんたのことだって、分かっているのかい?

出典:『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』

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