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気ぜわしい年度末の風景【音声と文章】

山田ゆり
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「ジャーン!」

右手にシャープペンシル、左手に製図を持った営業のニシヤさんがデザイン部門のヨウコに近寄る。

「何!」
ぎろりと睨んでいるような音が聞こえそうなほど強い口調でヨウコが返す。

「いや~。お客さんさぁ、ここ、ここをもうちょっと丸くしたいんだって言ってきてさぁ~。」

ニジヤさんがひょうひょうと話し始める。
製図の修正依頼である。

「えーっ、またぁ~。これで3回目じゃないのぉ~。やだぁ~。」
声だけ聴いていたら怖い。
しかし、2度や3度のデザイン修正は想定内のことだから彼女はニシヤさんに微笑んでいる。

「ほんとに、これっきりにしてほしいよなぁ。
♪これっきり
これっきり
これっきり、もう
これっきり~ですか~♪」

ニシヤさんはすかさず山口百恵さんのプレイバックパート2を歌い出す。

「さすがニシヤさん。今日も冴えてるねぇ~」とヨウコが笑いながら返す。



プレイバックパックパート2でオチが付いたニシヤさんはそれを口ずさみながら自分の机に戻っていった。




少しすると営業のセイトウさんがレシートを片手に事務係のミサキに近づいてきた。

「すみません。今、行ってきたA現場の立ち合いのための駐車場代です。急がないのでよろしくお願いします。」

ミサキが答える。
「いいですよ。すぐお支払いします。220円ですね。」
「あ、僕、これを出すので千円札でもらえたらありがたいです。」
そう言って、レシートと一緒に小銭をミサキに渡した。

ミサキは机の上の金庫から千円札を出しセイトウさんに渡した。




10:30、メインバンクの支店長がお見えになった。

事前に用意していたスリッパをはいて社長室へ入って行かれた。




「毎度様です~!」
青色の制服の宅配便の方が入り口の戸を開け、荷物2個を持って来た。
いつ見てもカッコイイと思う。


戸を開け閉めするたびに社内に新しい風が入る。今日はとても風が強い。

温かい風が大きく渦を巻いて冬の風を抱え込んで遠くに持って行っているようである。
春特有の突風が吹いていた。
風は強いが温かさが鼻の奥をくすぐる。


まだ駐車場の片隅には雪の山が積まれているが、それでも雪国のこの地方にもやっと春がやってきたようだ。


3月もあと2日で終わり。
気ぜわしい年度末である。

あと2日で新年度が始まる。
夜寝て朝になり暦がめくられる。

ただそれだけなのだが
「新年度」というだけで自分でも生まれ変われるかもしれない、そんな気がする季節だ。


これまでの一年間、よく頑張りました。
新しい一年もきっといいことがある。


ちょっとした勇気で未来が変わる。
希望を持って頑張ろう。




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気ぜわしい年度末の風景

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