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高級ブティック【音声と文章】

山田ゆり
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入社したての頃ののり子は通勤着にどんな服装をしていけばいいか分からず困っていた。

のり子の勤務先は衣料品も扱っているから最初、売り場の方が勧めて下さったものを購入していた。

しかし、「あれは〇〇円の服だ」とすぐに分かってしまうのが恥ずかしく感じてその内、社外のお店から買うようになった。

貧乏な家に育ち、いつもおさがりの服しか着ていなかったのり子は自分で服を選ぶことができず、お休みの日に探し歩いても服一着、自分で選ぶことができなかった。


次の出張までには服を買いたい。

ある休日、地域の繁華街をウインドウショッピングしていて、真っ黒なマネキンが来ている服装にのり子は目が行った。
さりげなく流行を取り入れていながら品のある服装がのり子の胸を射止めた。そこは地域でも有名な高級ブティックだった。


のり子はこれまで、デパートなど大衆向けの場所でしか洋服を買うことはなかった。
そして、デパートの中で、ちょっと高価そうな雰囲気のテナントには店員さんと目が合わないようにして足早で過ぎ去ってしまうほど小心者ののり子だった。


だからブティックなんて入ったことがない。
一旦お店に入って店員さんに声を掛けられたら逃げ場がなく、買わないわけにはいかない。そんな雰囲気になりそうで怖かったからだ。


これまでだったら素通りしていたのり子だったがその時はとにかく自分が納得する服を早く購入しないといけないという、切羽詰まったものがあった。


のり子は勇気を出してブティックのドアを開けた。



「いらっしゃいませ」
奥の方から声がした。

のり子はその声に背を向けながら、ただ見ているだけというそぶりをしながらゆっくり店内を歩き始めた。


のり子がいつも行っているお店とは全く違っていた。

いつものお店なら、同じ商品の同じサイズのものがズラリとハンガーにかけられているが、ここは、同じサイズのものが無いか2点までしかなかった。

恐らく、1点売れたらバックルームから1点補充するのだろうが、事務職しか経験していないのり子にはその想像は出来なかった。


「どんなものをお探しですか?」
ショーヘアの店員さんが声を掛けてきた。
まだ全部を見ていないのり子はその店員さんに
「ただ見ているだけですから」と言ってほほ笑んだ。



店員さんはどこかにいなくなった。

のり子は大きく息を吐いた。

「あぁ、ここ、良さそうなんだけれど、でも、自分に合うかどうかだよなぁ。」

その頃ののり子は、お店でマネキンが来ている服と同じものを買うことが多かった。

そして、すらりとしたマネキンが来ている洋服は、身長150㎝無い小柄なのり子にはいつも大きすぎていた。


一通り見回したのり子に、別の店員さんが近づいてきた。
優しく品のある声でのり子に声を掛けてきた。

一言二言交わし、この方にお任せして大丈夫な気がした。


名札を見たら店長さんだった。店長の高橋さんは
「このブラウスにはこちらのスカートが合います。」とおっしゃって、スカートを提案して下さった。
なるほど。試着してみるとイイ感じである。

そして、別の雰囲気のスカートも数点、勧められ試着してみるとそちらも素敵である。

その格好にはこちらのジャケットが合います、と勧められる。


そして、いろいろ試着してみて、最終的にはブラウススーツとジャケットを購入することにした。

次は補整に入った。
9号は大きすぎる。でも7号はぴったり過ぎる。
ということで9号を着て袖丈、スカート丈などをつまんでマチ針を刺していった。


ここまでだったら普通のお店と同じだったが、高橋さんは、華奢なのり子の肩のラインを見て、肩が少し下がっているからと肩の線も少しつまみ、そして、肩パットを少し厚めなものにしてくださった。

補整したらさっきまで「着せられていた」感が強かった洋服が、自分のものとして見えてきた。


ブラウススーツとジャケットで数万円になった。
のり子はこれまでこんな高価な洋服をかったことが無い。

だから一着数万円の買い物は想定外だったがしかし、縫いしろの後始末の仕方やボタンの縫い付け方、ボタンホールの糸がしっかりしていることなど、確かな仕上がりである洋服への信頼度は大きかった。

そしてそれよりも増して高橋さんの接客にのり子は大満足だった。


数週間後にそのお直しができた洋服を取りに行き着てみたらのり子にぴったりだった。

それはのり子のために作られたオーダーメイドされた洋服のようだった。


のり子はその後、高橋さんから洋服を買うようにした。

次の出張は〇月〇日だから、それまでにこんな感じの服がほしい、のり子は事前に高橋さんに電話をしておいて洋服を選ぶようになった。


高橋さんの素晴らしいところは、以前にのり子が購入した商品を全て記憶していた。
数年前に購入したブラウスのことを取り上げて、「こちらのスーツにはあのピンクのブラウスを着たらきっとお似合いですよ」という風に勧めて下さり、高橋さんの言った通り、それはぴったり雰囲気がマッチしていた。


もう、洋服選びで迷うことはなくなり、のり子はどんどん、自分に自信がついていった。





長くなりましたので、続きは次回にいたします。


※今回はこちらのnoteの続きです。

https://note.com/tukuda/n/nf9dce52655fd?from=notice



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~高級ブティック~
ネガティブな過去を洗い出す

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