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体重計が教えてくれた【音声と文章】

山田ゆり
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お見合いをしてその後2回だけその方と喫茶店でお話したりドライブしただけ。


紹介してくださったおば様から「どう?」と言われ、数回あっただけでは分からないとお答えしたのり子は、先方が言う「キメザケ」をしたら次回も会えるという条件を飲んで、またその方と会うことになった。

これまでは喫茶店でお話をしていたが当日は先方のお宅に招待された。


通された座敷を見てのり子は驚いた。

なんと、結納のセットがそこにあった。
「キメザケ」とは「結納」のことだとその時初めて知った。


お見合いの日を含めて僅か3回しか会っていないのに結納が決まってしまう。結婚ってそんなに簡単なものではないとのり子は思っていた。



のり子はとても慎重な性格だと思っている。
お気に入りの靴を買うために休日の一日をお店回りで終わることはしょっちゅうだった。

半端なものは持ちたくない。
それは貧乏だったのり子の家ではできないことだったが、のり子が社会人になり自分のお給料から出せる範囲で、納得のいく一点を持つことを美徳としていた。
安物買いの銭失いにはなりたくなかったから。


だから靴ひとつ購入するのにも、いろいろなお店を見て回ってから購入していた。
1980年代はまだPCは普及していなかったから、今のようなネットで購入なんて全くない時代だった。


靴を購入するだけでもそれほどの時間と労力を要するものだから、人生の伴侶を選ぶのに僅か3回会っただけで、しかも相手に対して特に思い入れもない状態で結婚を決められるものではないと、のり子は思う。


あとで分かったことだが、お見合いを何度も紹介して下さったご近所のおば様は、「決め酒」まで行けば〇万円、結婚まで行けば〇万円という報酬のために独身の女性がいるお宅に話を持っていっていただけ。

つまり、のり子のためにお見合いの話を持って来てくれたのではなく、お金欲しさに独身女性のお宅に話を持って行っただけだった。

だから、お見合いの話が来た時にはもっと気楽にお断りできたということをのり子は後で知った。

生真面目で馬鹿正直でそういう世間の事に疎いのり子だった。



座敷に通されたのり子は脳内がグルグルしていた。


相手の話だと、私が結納をしてもいいと言っていて、先方の親は嬉しくて嬉しくて、私の嫁入り道具の着物を数種類とダイヤの婚約指輪を既に購入したそうだ。

婚礼用の立派な箪笥は今、物色中だということ。


気弱なのり子は一生懸命考えた。
今ここでお断りしたら嬉しさを隠し切れない状態の相手のお母様は悲しむだろうな。
お相手は特に可もなく不可もない。
一番いいのはこのまま結婚してしまえば波風が立たない。


でも。。。

自分の人生、こんなことで決めていいのだろうか。自分だって選ぶ権利がある。
買い物と違うんだ結婚は。
考えろ、のり子。



のり子は決心した。


そして、相手のお母様に、「キメザケ」の意味を全く知らずに今日、ここに来たことを話した。
そして、まだ、結婚の意志はない事を伝えた。

だから今回の話は無かったことにしてほしいときっぱりと言った。



恐らくのり子のそれまでの人生で、一番、相手の事ではなく自分中心に考えた結果を口にしたと思う。

この時、のり子の心の奥に小さな火が付いたのだと思う。自分の人生を本当に意識しだしたのは、この時だったと思う。



そして、相手が勝手に購入した着物数点とダイヤの婚約指輪を強制的に渡され、その代金をのり子が払うことになった。

この数点の着物もダイヤの指輪も、着物のお店に勤務する、お見合いのお話を持って来たおば様から買った物だったのは、着物を包んでいるたとう紙を見て分かった。



もしかして、それは間違っていたのかもしれないが
世間知らずののり子は相手の方に代金をお支払いすることを承諾した。


ダイヤの指輪は結納用だけあって数十万円する見た目も立派なものだった。



のり子はそれをずっとジュエリーボックスにしまっていた。
一度も指にはめることはなく、最愛の人と結婚が決まった時に、その指輪を姉に理由を言ってタダで引き取ってもらった。



私は縁談を破談させた人。
知らなかったとはいえ、たくさんの人を悲しませてしまった人。


のり子はそのセルフイメージをずっと引きずり、心の中は真っ黒な緞帳が上がることは無かった。



会社でののり子は仕事が面白く、周りの人はのり子を肯定してくださる方ばかりで楽しかった。


しかし、帰宅して自分の部屋に入ると、破談した自分を嘆いた。
毎日部屋では枕を口元にあてて、周りに聞こえないように泣いていた。

ご飯も喉を通らないようになり、のり子はどんどん痩せていった。



会社では口角をあげ、ピンクの頬紅を少し多めに塗り、目の下のクマはファンデーションでかくしていたが、それでも頬がこけてきて激やせしてしまった。


仕事という公の場では元気な自分を繕っていたが、自宅に帰り「素の自分」になると、自分に自信がなくて死にたいと思っていた。




ある日、温泉に出かけた。
鏡に映る自分の姿は人体模型のようだった。
何気なく体重計に乗ってみたら、40㎏を切っていた。



その数字を見てのり子は目を丸くした。

これではいけない。
こんなことしていたら自分は駄目になってしまう。


体重計の数字を見てのり子はやっと目が覚めた。





長くなりましたので、続きは次回にいたします。


※今回はこちらのnoteの続きです。

https://note.com/tukuda/n/n8c8904cb4ae6


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~体重計が教えてくれた~
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