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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第9話

佳太ー素顔の笑顔

奏達の引っ越しも、無事終わり
いよいよ結里子さんを招く日。
僕はアクリル板の衝立を手作りして
パーティションを分けてた。
そこには“喋る時はマスクをしよう‼️”と
付箋も貼った。
全てのテーブルは、消毒済み。

部屋に通され、間隔を空けて
並べた椅子を見た結里子さんは
「こんなにしっかり対策していただけて
ありがたいです。
下手な飲食店より万全ですね」
マスクの上の目は笑っている。

台所では、僕と奏の彼女の歌織ちゃんで
料理をする。
奏は、結里子さんと入院中の話や、ドクターのモノマネなど大笑いしながら話していた。
その様子を眺めながら、歌織ちゃんが
「佳太くん、色々ありがとうね。
奏とね、結里子ちゃんを幸せにしてあげたいね。って
いつも話してるんだ。
亡くなった恋人の事は、簡単に忘れられる事じゃないけど、佳太くんが幸せにしてあげられたら良いねって」
「うん、僕も結里子さんには
幸せになってもらいたいって思う。
辛い経験したけど、だからこそ
幸せになって欲しい。
僕に何が出来るかは分からないけど」

出来上がったカルボナーラを
四つに取り分けて、テーブルに運んだ。

結里子さんは、キラキラと瞳を輝やかせて
「いただきます!美味しそー!」と
言ってマスクを外した。

初めて見た、彼女の素顔。

小さな鼻と口。
フォークで丸めたパスタを
口に入れて、弧を描く唇。
目もまん丸にして、満面の笑顔。

僕はこの笑顔を、待っていた。
だけど、いつかきっと見る事が出来ると
いや、笑顔にしてあげたいと
願っていたんだと思う。

その後の、歌織ちゃんの作る料理も
美味しくて、食べるたび
おしゃべりは無くても
笑顔のオンパレードだった。
最後のコーヒーや紅茶も出されて
結里子さんが持ってきた、スイーツを並べて
マスクをしながらの雑談。

奏が作ってくれたこの時間は
とても温かな空気が流れた。
何より、結里子さんの笑顔を見ることが出来て
最高に良い日だ。

「あの、佳太さん、私の事
結里子さんじゃ無くて
“結里子ちゃん“で良いかな?
奏くんと一緒で」
「あ、じゃあ僕も“佳太さん“じゃなくて
“佳太くん“でお願いします」
「あはは、そうね」
そんな会話の後。
「佳太くんは身長いくつ位?」
と結里子ちゃんが尋ねてきた。
「僕?最近測ってないけど
188センチだったと思う」
「やっぱり!紘太と同じだなって思ったの。隣に立った時、腕を横に伸ばした所が、ちょうど私の頭がぶつかるのよ」

紘太さんの話が出て
一瞬、時が止まった気がした。

「あっ。ごめんなさい。
紘太の事、師長さんが奏くん達に話したって私も聞いてるから。
あのね、皆さん気を遣って紘太の話とか
NGとか思われるかもしれないけど
私、大丈夫だから!
私から紘太の話しちゃうよ〜!」
明るく話し始める彼女に奏が
「よし、わかった!下手に気を使う方が
嫌だよね。入院中もノロケ話聞かされたけど」

「うふふ。そう!紘太が、いなくなっても私が忘れなければ良いし
私が落ち込んで、泣いてばかりいたら
きっと空の上で悲しむからさ」
と結里子ちゃんは笑顔で話す。

そして、何故病棟担当でなく
受付に変わったか教えてくれた。

「ウイッグ、気がつかなかった?私みたいのを
キャンサーサバイバーって言うんだよ。
かっこいいよね?サバイバーってひびき」

結里子ちゃんの言葉に、全員が返す言葉もなく
押し黙ってしまった。
「あ、ほら、黙っちゃうー。
大丈夫だから、私。
今時、がんじゃ簡単に死なないんだから!重くならなくて良いからさ」

笑顔で話す彼女の
過酷な運命に、立ち向かう強さは
どこから来るのだろうと思った。

前から気になっていた
恋人かもしれない存在だった。

そんな時、奏が切り出した。
「結里子ちゃん、強いよね。
誰か寄り添ってくれる人とかいるの?」

「そんな風に見える?
強いかぁ。そんな事ないよ。
突然、涙出ちゃう時もあるよ。
人間だもの。byみつお?」
結里子ちゃんは、笑いながら続けた。
「寄り添ってくれる人ねぇ。うーん。
変な話かもしれないけど、紘太の助けた
男の子のお父さんがね。
何かと気にかけてくれて」
彼は、奥さんを乳がんで亡くしているので、私が乳がんになった事話したら、目の前でポロポロ泣かれちゃって〜。
ビックリした。
でも、それから何かあれば、連絡欲しいって。実際、色々お世話になってもいるんだよね。
それとね、治療で真っ青になった
爪にサロンでネイルしてもらってるんだけど
そこのネイリストさんも
最近、話を聞いてもらって
だいぶ助かってるかも」
きれいになった手を見せながら
微笑む彼女。

あ、あの時の自販機で見かけた人か?
恋人じゃ無いんだ。

結里子ちゃんはナースだけあって
自分の病の事も、淡々と話す。
こちらの方が、動揺を隠せないのに。

でも
結里子ちゃんに寄り添いたい
幸せになってもらいたいと
思う気持ちが、どんどん大きくなっていく。

僕が出来ることなんて
あんまり無いかもしれないけど
少しでも力になれたら、僕自身も嬉しい。


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