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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第12話

結里子ーホワイトリリー


こうして、猫との暮らしを始めたけれど
この子のおかげで、家族のように
寄り添ってくれる人達に出会えた。
猫には、前の飼い主のおばあちゃんが
つけた名前がある。
「チョビちゃん」という
鼻の下にチョビ髭みたいな模様が
ついているから。
チョビは、猫のわりには人懐こくて
すぐにウチにも馴染んでくれた。

引っ越しの日
捨てられずにいた紘太の荷物。

紘太が抱きしめてくれた
あの感覚よりもっと
シャボン玉さえ割れないんじゃないかと
思える位、優しく優しく
包んでくれた佳太さん。
そして、言葉は
じんわりと心の中に
広がっていった。

私は、佳太さんへの
想いが変化してしていく事に
戸惑っていた。
最初のうちは、通勤で会う時
普通にしてるけど
本当は、並んでいると
紘太がそばに居るようだと 
思っていた。

でも、佳太さんから
吹く風は、私の心を穏やかにしてくれている。
好きという感情は、どっちなんだろう?

アキコさんに相談するには
弟さんの事を言うのも変だし、照れ臭い。

それに以前に気になっていて
紘太と比べてしまうと話した事。
覚えているのかな?
考えると恥ずかしくなって
一人で赤くなってしまう自分がいる。

チョビを撫でながら
上の階が気になってしまう。
こんな近くに住むのって初めは嬉しかったけどやっぱり難しい。
明日も仕事なのになんだか眠れない。
♢♢♢♢♢
陸くんがまた、熱を出したからと
大地さんが来院していた。
もう受付業務では無くなったので
来院中とは知らなかったけれど
たまたま、担当の患者さんの頼まれ物で
院内売店に行ったときに
大地さん親子と、鉢合わせになった。

「お久しぶりですね。陸くん背が伸びた?」
「結里子さん、久しぶりです。陸が
また熱出して。男の子は、病院通いが
多くて大変ですね」
「お仕事休んだんですか?」
「ええ。いつも見てもらってる僕の母親も、持病もありますし最近は
世話もキツくなってきて」
陸くんが
「おばあちゃんね。腰が痛くて
僕を、自転車に乗せて行けないって!」
「ああ、そうなんだね」
「うん、だからパパ、会社お休みしたの。ごめんね、パパ」
陸くんは、こんなに幼いのに
事情を察している。
良い子に育っていて良かったと思いつつ
健気さに心も痛む。

「あ,そうだ。陸くん。
今度、お姉ちゃんの住んでるところの
近くにある公園に来る?
ミニSLが走ってるんだよ」
「え!行く行く!パパ、いいよね?
頑張って、お薬飲んで早くお熱治すから!」
「ありがとうございます。
陸は、ヒーローものやアニメより
乗り物が好きなんですよ」
「良かったです。今度一緒に
お姉ちゃんと遊ぼう」
陸くんの笑顔。
ネイルでお世話になった
少しのお返しつもりで
声をかけたけれど
紘太の命と引き換えに
助けた陸くんの健やかな成長は
私と紘太の願いだ。

引っ越したマンションは
目の前に、児童公園があり
週末はミニSLが、走る。
アキコさんもお誘いして
みたらどうかな?
この話を、佳太くんに
電話してみた。
大地さんの事は
アキコさんから少し
聞いていたようだった。

「僕も一緒で良いかな?」
「もちろん!ダブルデートしよう!」
「え?」
「あっ」

ダブルデート。
勢いで言った自分の言葉に
自分で恥ずかしくなってしまった。

「う、うん、そうだね」と
佳太くんが、笑う。
電話越しに大きく口を開けて
真っ白の歯を見せて笑う
顔が思い浮かんだ。
LINEグループを作って
日程調節しようとの事で
佳太くんがグループを作ってくれた。
グループ名は
「WDtrain」
ダブルデートって意味?
恥ずかしいなぁ。
もう、聞き流して欲しかったのに。
くすぐったい気持ちで
スマホを眺めていた

大地さんやアキコさんとの
日程調整してみると
結局みんなの休みが合う日が
来月の8日の土曜だった。

紘太の命日。

全員がOKとの返事が来たけど
通勤で会った時
佳太くんが
「命日の日だよね」と
と切り出してくれた。

朝いちで、紘太の墓参りをしてから
買い出しすればいいと言ってくれた。
なんて優しんだろう。
いつでも、佳太くんは
相手に、寄り添おうとする気持ちがある。穏やかで、彼との時間は
本当に心地よく、何も気を使わずに
居させてくれる。

8日の早朝、マンション玄関に
車をつけてくれて
霊園へ向かう。
紘太のお墓には
初めて来た佳太くんが
「僕が結里ちゃんを守りますから。
安心して下さいね」
なんて言うものだから
ドキドキしてしまって
朝つけた、紘太からもらった
香水の香りが、体温で温められて
ふわっと香ってきた。

これは紘太からの返事?
「僕の事、忘れないで」なのか
「佳太くん、よろしく!」なのか
分からないけれど
耳が赤くなってる自分は
明らかに佳太くんの言葉に、反応している。
車の中では、余計に香水の香りが
立ち込めてしまって
窓を開けてみた。
涼しい風と流れる景色。
さっきの言葉が
繰り返し頭に響く。

そんな時、佳太くんが
「結里子ちゃんのつけている香水。
いい香りだよね。僕は好きだな」
「ありがとう。普段仕事では
つけられないし、消毒液のにおいが
体に染み込んでいるみたいで
プライベートの時は
少し付けたいなと思っていて」
「うん、良いね」
「良かった。こういうのって
好き嫌いある物だから」
「なんていうブランドなの?」
「シロのホワイトリリー。
紘太からのプレゼントだったの。
結里子だから、百合の香りって」
「それはピッタリだね!」

紘太の選んだ香水に
良いねと言う佳太くん。
それは、私に対して
特別な感情は無くて
ヤキモチみたいなのが 
起きないって意味なのかな?
いや、守ってくれると
紘太に誓ってくれた言葉は
嘘じゃ無いはず。
真意は掴めないけど
彼のどこにも、影のない
言葉と振る舞いは
柔らかい日差しのようで
凍りついていた
私の心を、少しずつ
溶かしてくれる。
そんな存在に思えていた。


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#恋愛小説
#公園
#月命日

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