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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第31話

千鳥は張り切ってラベルのデザインを考えた。春翔の事を思い浮かべながら
思考する時間は、楽しかった。
小春もまた、自分に出来ることがあるのは嬉しくて、イベントに向けて
張り切っていた。

ある日の夕飯時
小春、千草、千鳥と3人が揃った日だった。

千草が、この所忙しくしていて
久しぶりに3人揃ったのだった。
千草は老人ホームのケアマネ兼副施設長の仕事をしていた。
最近は入居者も多く、従業員は増やすものの千草自体は相変わらずの忙しさだった。

「千草、体は大丈夫?」
「小春さん、ありがとう。休める時は休むようにしてるから。今日も泊まりは代わってもらったのよ」
「お母さん、無理はしないでよ」
「あら、千鳥まで。ありがと。
それより最近2人して何やら楽しげにしてるよね?なんなの?」
小春と千鳥は顔を合わせて笑った。
「今ね、千鳥ちゃんと一緒に色々企画してて、楽しいのよ」小春が言った。
『あけぼの』でのイベントの話を
千草にも聞かせた。

小春と千鳥はとても楽しげで
千草も嬉しく見ていた。
「そのイベント、私も行きたいわ。あ、うちの施設の皆さんもお連れして行くのどうかしら?」
「え!良いじゃん、良いじゃん!」
千鳥も手を叩いて喜ぶ。

千鳥のラベルのデザインが出来上がり
3人のLINEに披露してみた。
すぐに小春さんが千鳥の部屋にやってきて
「千鳥ちゃん、可愛いのが出来たわね。私も嬉しい!」
「そ、そう?これで良いかな?」
「うんうん、良いわよ」
手で良いねマークを出す小春。
「小春さん、ありがと」
そこに春翔からもLINEが入った。
【すごく可愛いのが出来たね。千鳥ちゃん、ありがとう!後は瓶の大きさを決めないとね】との返事。

「あ!そうよね。ウチのありあわせの瓶ってわけにはいかないわよね」
小春も笑いながら言った。

【そこで、小春さん。瓶を買いに行きませんか?今時はネットでも良いんですけど、せっかくだからちゃんと見て買いませんか?】
春翔の書き込みに、小春が微笑んだ。
【買い物デートしてくれるの?】
そう書き込みをした小春の
横顔に目を向けてしまった千鳥だった。
【もちろんです】
春翔の返事とやりとりの間に
全く入り込むことが出来ず
絵を褒めてもらって、浮き足だっていたはずの千鳥は複雑な気持ちに
なってしまった。

(おばあちゃんの小春さんに何を
ジェラシー感じてるんだろ私)
普段は冷めた方と自認していた千鳥も
ここ最近の感情の起伏に戸惑っていた。


普段はもっぱら自転車派の春翔も
材料仕入れの為に、母親から
車を借りて
小春の家まで迎えに行く。
玄関前で待っていた小春に
手を振ると小春も小さく手を上げた。

降りて助手席のドアを開けに
回り込んだ春翔が
エスコートすると、小春の車に乗る時の軽やかな動きが、昔お嬢様だった名残を感じた。とてもスマートで華麗な動きだった。
春翔も運転席に座るとつい
「小春さん、エスコートされる事に
すごく慣れますよね?流石です」
「あら、やだ、こんなふうにエスコートされる事自体、うん十年ぶりなのに」
「いや、素敵でした」
「喜ばすのがお上手ね」
2人は笑い合った。

瓶はデザインと何粒くらい入れるか、考えながら、選んだ。
2人で選ぶ姿は、おばあちゃん孝行の孫としか見えない。
けれど、春翔の中では
1人の女性としてデートしている気分だった。

「良い感じのが見つかってよかったですね」春翔が言うと
「そうね。あら、もうこんな時間。
春翔くんお腹空いてない?」
「実はペコペコです」
笑う2人は
「そうでしょう?どこかでお昼にしましょう」
周りを見渡した時、小さな食堂があり
外看板にはいくつかの魚の定食が書かれている。
「小春さん、ここはどうですか?」
「良いの?和食でも。若い子にはもっとボリュームのある洋食じゃないの?」
「以前言いましたよね、祖母の作る和食が大好きだって」
「そうだったわね。じゃ、ここにしましょ」

「ここ、段差ありますから」と
入り口で差し伸べる春翔の手に
小春もそっと握り返した。
春翔の手と見上げた顔に
小春の頭の中で千登勢とのあの日が
一瞬フラッシュバックした。
急に恥ずかしくなった小春は
一瞬ビクッとしてしまった。
転ぶかと瞬間、春翔が小春の肩まで抱き寄せて支えた時に
春翔にも小春にも、時空を超えた何かを感じたのだ。

お互い何事もないふりをして
いつものように食事し
イベントのことに触れながら
話をした。

帰りも束の間のドライブを、楽しみ
小春の自宅前まで送った春翔。
ちょうど学校から戻った千鳥が車から降りて談笑する小春と運転席の春翔を見かけた。

(なんか、本当にデートじゃん。
ドライブデートじゃん)
まさか本当に桜井さんは
小春さんが好き?おばあちゃんなのに?
そして小春さんも?初恋の人にそっくりって言ってたよね?え?本気で好き?)
千鳥は2人に声もかけずに、少し遠くから見るだけだった。


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