見出し画像

小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第1話

【あらすじ】
佳太  
高身長で周りからはイケメンと言われるが、いたって平凡に暮らしてきた。
あの日、通勤電車で恋をした相手は、運命の人なのか?闇の中の彼女を、明るく照らしていけたなら……

結里子  
一緒に暮らす紘太との暮らしは、平凡ながら幸せな日々だった。あの日を境に、心砕けた私は闇の中で生きることになる。偶然出会った彼は、私を明るい方へ導いてくれるのだろうか。

それぞれの目線で、物語は進んで行く。

佳太 ー心寄せ

僕は、彼女の本当の顔を知らない。

コロナ禍で、皆がマスクを
常用する様になってから
彼女の存在に、気づいたからだ。

毎朝の通勤時。
僕は、始発駅から乗るので
必ず、座ることが出来る。
三番車両。進行方向側。
いつも日の光を背にする場所だ。

そして彼女は
その三番車両、進行方向側のドアから
乗り込み、端から吊革二つ分の場所に立つ。
僕から観るとやや斜めの場所。
そんなに混んでいないけど
空席も無いこの時間。
駅8個分、同じ空間にいるわけだ。

その日、静かな車内で
突然、彼女のスマホが鳴った。
慌てた彼女が、急いでミュートにするのを
何気なく眺めていた。
その時、何故だか彼女の横顔に
妙な懐かしさを感じた。
そして、ほんの少し
見つめてしまったんだ。
とっさに目が合いそうになり、そらした。
『気がつかれたか?』
焦る自分がなんだか
中学生みたいでおかしくもあった。
他の場所で見かけたのか?
記憶を辿ってみるが、思いつかない。
なんだよ。ありきたりな漫画やドラマみたいじゃないか。
自分にツッコミながら、スマホに目を戻すが
やはり気になる。
そして、彼女は何事もなく
八つ目の駅で、降りて行った。

その日から、僕のスマホは
ただの小道具で
スクロールもせず
手のひらに乗せているだけになる。
ストーカーみたいになりたくないが
彼女の一つ一つを確認したくなる。
いや、これストーカーだろ。
と、またもや自分にツッコミ。
毎回見かけるたびに
彼女の情報が
僕の脳内に蓄積される。

きっかけなんてそんなもので
特に特徴があるわけでもない
ごく普通の彼女に
勝手に『片想い』し始めていた。
もちろん、今まで何度も
恋愛はしてきた。
失恋もしたし
別れを、こちらから告げて
泣かしてしまったこともある。
モデル並みのスタイルの子もいたし
金持ちのお嬢様とか
下町の元同級生とか
だいぶ年上の人とも付き合った。
まぁ今から考えると
いろんなタイプの女性と
付き合ってきたと思う。

中学からつるんでる
友達の奏(ソウ)は
「お前って女の好みってねぇな。雑食」
って言われたことあったっけ。

電車で乗り合わせる彼女とは
ほぼ毎日会えるので
知る得ることが
増える度
ささやかな喜びとなっていた。
気が滅入りがちな仕事に向かう
この時間が
僕にとっては、楽しみの時間とも
なっていった。

マスクをしていても
分かることはある。
額にかかる前髪。
スマホを見つめる瞳。
時々上下する眉毛。
伏せた目のまつ毛。
マスクのゴムのかかった耳。
ごくごく小さなピアス。
左首筋のホクロ。

逆に素顔が分からない部分。
顔の輪郭。
(ま、かなり小さい気もする)
鼻の形。
(そんなに高くも、無い)
顎。
(丸いのか、尖っているのか)
くちびる。
(大きいのか小さいのか。
    厚ぼったいのか薄いのか)

顔半分が隠されると
外した時の印象って
相当変わるものだ。
去年入った新入社員も
コロナ禍でマスク顔でしか
知らないから
社員証の顔写真を見ると
別人に思うことがある。
想像のでしか素顔を知らない彼女に
惹かれていく僕も
かなり変わってるよな。

今度、奏と会う約束をした。
久しぶりだ。
この片想いし始めの彼女の話を
してみようと思う。

今日も彼女は同じ電車に
乗り込んできた。

手首にいつも
髪を束ねるためのゴム
がかかっていて
肩にかかる髪の毛は
いつも外に跳ねている。
仕事中は
いつもゴムで、束ねているのだろうか?

化粧は、ほとんど
していないように見える。
そばかすが、頬に少しある。
爪はいつも短く切り
何も付けていない。
指輪もしていないけど
独身かな?

弁当を作っているようで
弁当箱がトートバッグから
少しはみ出ている。
(実は同居している僕の姉の使っている
“アフタヌーンティー“の弁当箱と色違い)

時折、手首や手のひらに
黒いマジックで文字が書かれている。
薄くなっていて判読はできないが
よく目にする。

マスクはいつも
「Takatora」というメーカー?
のエンボスがついている。

朝、行きあわない日
僕が帰りの電車で反対ホームに
降りた時
彼女が佇んでいるのを見つけた。

夕方から出掛けるのか?

不規則なシフトの勤務なのだろうか?



#創作大賞2023
#恋愛小説部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?