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短編小説✴︎朔の日のさくら ②

満月の夜


15日後の満月の夜
僕はあのベンチへ座り
さくらちゃんを待った。
紙袋にいっぱいのお菓子と手袋を用意して。

初めて会った時も2回目も
さくらちゃんは同じ服を着ていた。
コートも羽織らず、もう寒そうだなと思い、手袋くらい持ってるだろうけど
ちょっと可愛い手袋を見かけた時、さくらちゃんの顔が思い浮かび買ってしまった。

今日は家族と来るだろうか?
怪しまれないだろうか?
家族にうまく説明出来るだろうか?
その前に、本当にさくらちゃんは
来るのだろうか?
色々考えているうちに
白いうさぎのぬいぐるみを手にした
少女が、歩いてくるのが見えた。

僕は手を挙げて
「さくらちゃん!」と声をあげた。

ニコニコしながらそばに来たさくらちゃんは、黙って僕の隣に座った。
明るい月明かりの下で、はっきりとさくらちゃんの顔を見ることができた。
可愛らしい少女だった。
すごく透明感のある佇まいに
長い髪はツヤツヤとして
大きな瞳には長いまつ毛が並ぶ。

ただ、1人だったので僕は
「あれ?1人なの?」
「ううん。後で来ると思う」
「お母さん?お父さん?」
「妹のももちゃん」
妹?さくらちゃんより小さい子が
来るんじゃ本末転倒だ。
びっくりした顔をみて思ったのか
「妹は双子だから。私より小さく無いよ」
「いや、さくらちゃん、やっぱり大人と来てほしかったな」
正直に言うとさくらちゃんは
大きな瞳から涙を流した。
「ごめんなさい」
「あ、泣かなくていいから、僕がちゃんと説明しなかったのもいけなかったね」

ならば今日は、姉妹を家に送ることにしようと思った。
まずは、泣かせてしまったさくらちゃんに泣き止んでもらおうと、買ってきた手袋を出した。

「さくらちゃん、これどうかな?手袋。持ってるだろうけど」
「え?私に?」
「うん。可愛い手袋見つけたんで」
「わぁ!嬉しい!手袋は持ってないから。あったかーい」

そういえばまた、同じ服だ。
やっぱり育児放棄されているのかな?
小さな手に手袋をつけて両手を広げ、ニコニコするさくらちゃんの姿を横目に
「後ね、お菓子もたくさん持ってきたよ」
そう言ってベンチ下の紙袋を取り出しお菓子を隣のベンチに並べて
振り返ると、さくらちゃんの姿が無かった。
「あれ?さくらちゃんどこいった?」
キョロキョロしてみたが、ベンチ以外に何も無い公園の広場に隠れる場所などない。

座っていたはずの場所には
ぬいぐるみと手袋が片方だけ残されていた。
「おーい!さくらちゃーん」
呼びかけても返事はない。
神隠しって言葉、聞いたことあったけど本当にそれが目の前で起きた。
僕はかなり焦って
より大きな声で名前を叫んだ。
「さくらちゃーん!どこだーい!」

どうしよう。寒さだけではない。
体が震えてきた。

警察に連絡するべきか?
スマホを出そうとした時
こちらに走ってくる人影が見えた。




#満月
#双子
#手袋
#神隠し

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