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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第7話

佳太ー彼女の真実

土曜日
奏と待ち合わせて、病院に向かった。

結里子さんのいない受付。
並んで待合室で待っていると
少し恰幅のいいナースが
「久しぶりね〜。奏ちゃんー!」
と言いながら、話しかけてきた。
「あ!師長さん!」と奏は答えた。
この人も、奏が入院していた時
お世話になっていたナースだそうだ。

「今日はリハビリ?」
「はい」
「クラッチ(松葉杖)外せたんだ」
「お陰様で!でも今日は結里子ちゃんいなくて
寂しいっすよ〜」
「ん?あー。今日は8日だもんね」

「なんか理由あるんすか?」

ここで初めて、僕たちは
紘太さんの話を聞いた。
奏は知らなかったとはいえ
悪い事をしたと凹んだ。

「どんな顔して会えばいいんだよ。
謝るべきかな?佳太!どうしよう?」
「奏はいいよ。俺、月曜の朝には
会うかもしれないんだぞ!
そんな大変な事実を知って
どんな顔して挨拶すれば。
聞きましたって言うのも変だし」
思いあぐねていた、僕に向かって奏は
「亡くなった恋人は
やっぱり忘れられないんだろうな。
だから、イケメンと同棲中って
答えたんだろうな。
俺が、もし彼女を突然亡くしたら
生きて行けないよ……
入院中も、いつも明るくてさ
そんな大変な経験してるとは
思わなかった。
しかも、恋人の相談なんかして
ほんと、悪かったなぁって思ってる」

最愛の恋人を亡くす。
しかも突然の別れ。
そんな辛い事があったなんて。
僕は、次に会った時
結里子さんの顔が
まともに見られるだろうか?

8日は、亡くなった紘太さんの
命日だから、必ず休みを取って
墓参りに行くんだと、教えてくれた。

でも、それなら
あの泣いてた男は、誰?

紘太さんが亡くなったのは
1月8日 午前8時
彼女の運命が、変わってしまった日。

又一つ
彼女の事を知る。
♢♢♢♢♢
奏も僕も
そろそろリハビリは卒業になりそうだ。
腕の装具も外した。

もう、通うことも無くなれば
結里子さんとは
電車で会うだけになる。

紘太さんの事を、聞いてからは
話しかける事にも、何をどう言えばいいか
分からなくてこのまま日々は過ぎて行く。
奏もいつもなら
「告白しちゃえ!付き合っちゃえよ〜!」って
ハッパかける奴だけど
今回は、ちょっと違った。
だけど、奏は
ある提案をしてきた。

「来月から、歌織と二人で
暮らす事なったんだ。部屋が見つかってさ。引っ越しが済んだら
新居で食事でもしないか?
こんな時期だから、外食は厳しいけど
怪我も良くなって
リハビリも終了で
病院通いも無くなるし
色々相談に乗ってもらって、俺
結里子ちゃんに、お礼とお詫びしたいから、佳太も一緒に四人で飯食おうよ」

あれから、結里子さんも僕も
車両を変える事なく
いつもの朝の風景の中
僕は座席には座らず
いつも彼女が立つ
場所の横に立つ様になっていた。

「おはようございます」
「おはようございます」

いつもの挨拶の後
「あの、少し話しかけてもいいですか?」と僕が切り出した。
僕の腕の下から覗き込む瞳に
僕はドキッとして少し視線を外す。

奏からの提案を伝えてみた。
「仕事柄、外食はNGですが
マスクしての会話など
気をつけて頂ければ大丈夫かしら?」
「気をつけます!もちろん!
消毒液もばっちり用意します!
なんならアクリル板も用意します!」
「ふふふ。ありがとうございます。
そうですね。では、連絡取りたいので
よろしければ、LINE
交換させて頂いてよろしいですか?」

“LINE交換を”結里子さんの方から
言ってくれてホッとした。
怪しい奴とは思われていないって事だよね?
まぁ、患者として
カルテに僕のパーソナル部分は
出てるわけだから
安心はしてくれてるかな?

又一つ、彼女の事が
書き加えられる。

早速、その日の夜
LINEを送ってみた。

『こんばんは』
『お疲れ様です』
『今朝は、ありがとうございました』
『いえいえ、最近
 一人で食事ばかりなので
 久しぶりに誰かと食事なんて
 すごく楽しみです』
『感染予防は最大にしますから!』
『ありがとうございます(笑)』
『僕はこれでも、
  料理好きなんですよ。
  腕を振るわせていただきます』
『え?そうなんですか?
   それは期待します!』
『何か食べられない食材とかありますか?』
『好き嫌いは特にありませんよ』
『ちなみに、カルボナーラとかどうですか?』
『わ!私、大好物です♪卵載ってるのが
  特に好きです。」
『良かった。1番の得意料理なんですよ』
『きゃー。嬉しいです。
  お腹空かせて行きますね〜』

意外に会話(LINEだけど)が
滑らかに続いて、楽しい時間を過ごす。

電車内では、ほぼ無言だけど
LINEでは饒舌な彼女。
奏が言っていた
明るいキャラは、本当だったと
改めて思った。


#創作大賞2023
#恋愛小説
#カルボナーラ
#LINE交換

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