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朔の日のさくら

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短編小説✴︎朔の日のさくら ①

短編小説✴︎朔の日のさくら ①

月の無い夜

街頭がやけに明るくなった様な気がした。
球を新しく変えたのかと思ったが違った。
夜空に満月が浮かんでいたからだ。

満月の模様が、日本では
うさぎの餅つきと言うが
西洋では、女性の横顔と言われる。

そんな満月の月明かりは、
自分が思うよりも明るくて
ハッとさせられる事がある。

その逆に、月が無い夜は
真っ暗になる。
僕が転勤でやってきたこの街は
少し街を外れると
闇が広がる土地だ

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短編小説✴︎朔の日のさくら ②

短編小説✴︎朔の日のさくら ②

満月の夜

15日後の満月の夜
僕はあのベンチへ座り
さくらちゃんを待った。
紙袋にいっぱいのお菓子と手袋を用意して。

初めて会った時も2回目も
さくらちゃんは同じ服を着ていた。
コートも羽織らず、もう寒そうだなと思い、手袋くらい持ってるだろうけど
ちょっと可愛い手袋を見かけた時、さくらちゃんの顔が思い浮かび買ってしまった。

今日は家族と来るだろうか?
怪しまれないだろうか?
家族にうまく説明

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短編小説✴︎朔の日のさくら ③

短編小説✴︎朔の日のさくら ③

星に願いを

さくらちゃんか?

足早に近づく人影に、声をかけた。

「さくらちゃん?急にいなくなって
びっく……り……」
言いかけたが、近づく人影は明らかに大人だ。
少女ではない。
月明かりを背にして顔がよく分からないが、若い女性だった。

「あの、ツダさんですか?」

その女性は少し息が上がっていたが
はっきりと僕の名前を言った。

「は、はい。そうですが」
「ごめんなさい。迷って少し遅くなり

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