『猿蟹弔合戦』で変体仮名に打ちのめされた記録と『みを』
最近の昔話は『やさしい世界』になっているらしい。
かちかち山でババア汁をおじいさんに食べさせる描写はなくなり、桃太郎では動物は家来ではなく仲間という扱いに変更して、鬼退治も鬼説得になってるとかなんとか。
実に平和な世界だ。
自分はこの流れに対して文句を言うつもりはない。
物語はその時代に応じて変えられていくものだ。
前に巌谷小波版の桃太郎を紹介したが、当時の世相を反映しているのか暴力要素マシマシすぎて、正直子供に見せたいものではないし。(面白いが)
そんなある日、自分は例によって国立国会図書館オンラインを使って適当に本を漁っていた。
図書館に行く気力すら湧かない日は、家で国会図書館にかぎる。
そして見つけたのがこちら↓
『猿蟹後日譚 : 一名・猿蟹弔合戦 (幼年文学 ; 第2)』である。
あの猿蟹合戦に後日譚が!?
そしてまたもや巌谷小波。
日本昔話では定番なのかもしれない。
これは幼年文学なのでふりがなが振ってあるというのがまた素晴らしい。
これならきっと自分でも読め……
???
さるうふぢふちものがさり……?
ふりがなが……読めない!!
そう、これが現代日本人を古典から突き放す『変体仮名』である。
自分はゆる書道学ラジオを見ていたから詳しいんだ。(詳しくない)
変体仮名とは、『漢字から変化させたひらがな』である。
いやひらがなはそもそもそういうものだったか。
まあ文字で説明するより文字を見たほうが早い。(?)
しっかり画像付きでまとめてくださっているサイトがあったので、ちょっとだけ見てみよう。
これが「あ」と読む変体仮名の一覧だ。
現代人おなじみの「あ」は「安」から生まれたものだとわかる。
そして他の「阿」「愛」「悪」「亜」という漢字から生まれた謎の文字も、みんな等しく「あ」と読む。どう考えても別の文字にしか見えないのに。
こういう現在自分たちが使用している「あ」の形と違うものは、変体仮名と呼んで区別しているというわけだ。
そしてこの別の文字にしか見えないということが実は重要だったりする。
変体仮名の誕生には、「同じ音でも色んな書き方が出来たほうが、文章を美しく彩れるよね^^」という美的感覚を重視したことが大いに関わっているらしいのだ。
(つまり学習の簡便さは考えていない)
昔はこれらが全部対等に「ひらがな」だった。
「あ」を書こうと思った際、どの「あ」が一番美しいのかなと考えながら使っていたと思うと、日常使いには致命的に適さない気がする。
教育コストもマシマシである。
ではちょっとクイズタイムといこう。
以下の変体仮名をどう読むのかを当ててみよう!!
そう!!
『あおさぎ』だね!!
読めるわけがない。
もはや元になった漢字すら認識不可能である。
ではもう1問!!
今度は単語とかじゃないので難しいかも……!?
こんな似たような字ばっかりで昔の人はヤバいと思わなかったのだろうか?
いや、それをわかった上で使い分けていたのか。
美しさを求めて。
(やはり正気の沙汰ではない)
さて、この謎の文字列の答えは……
全てがわからん!!
このように、もはや無駄に難しくして勉強する暇のある人間以外の識字率を低下させようとしてるんじゃないかという疑惑すら湧いてくる変体仮名。
だが明治33年(1900年)の『小学校令施行規則』によって、漢字の数の制限や、仮名を1字1音に決めたことで、変体仮名は教育現場からは追放されることになる。(使う人はまだまだ世の中には居る状態だったが)
そんなかつての日本では、こんなことを言われていたという……↓
こんな今では考えられない日本語を捨てる議論を大真面目にしていたのだ。
……でも、なんとなくわかる気もする。
変体仮名にまみれ、地方は方言も残りまくりで、標準語の普及が進んでいない頃の日本に生きていたら、もう全部捨てて一つにしようと思っても仕方ないのかもなと。
結果的に日本語は残ったが、別の未来もあり得たのかもと考えると妄想が捗る。
そして結局読む気が起きない『猿蟹後日譚 : 一名・猿蟹弔合戦 (幼年文学 ; 第2)』。
自分の国の文字のはずなのに読めないとは、なんとも悲しい話だ。
これ、たった18ページなのに。
……まあでも、今は便利なものがある。
使おう、『みを』を。
このアプリさえあれば、スマホで撮影するだけで……。
こんなもんである。
まあ100%良い感じに解読できているわけではないものの、これでかなりの読解補助になるのは間違いない。
やはり時代はAI……!!
実は博物館でも使ったりするのだが、内容が理解できるともっと楽しい。
(撮影OKの場所じゃないとあれだけど)
文明の利器に頼りつつ、理解できない古典も乗り越えていこう。
……?
なにこのキャラ!?
〜完〜
【追記】
興味が湧いた方へ↓
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