トラウマ治療のためのスキーマ療法(1)
スキーマ療法(スキーマセラピー)はトラウマの治療に使われる王道の心理療法です。
国内でも精神科等で行われており、書籍も多く存在します。
僕は臨床心理士の伊藤絵美さんの本でこれを知り、クリニックを探して受けたことがあります。
この人の本は、トラウマと心理状態の関係や、どういった治療をするのかを、患者目線で説明してくれるのでとても有用です。
治療例も豊富に載ってます。
僕自身スキーマ療法の応用のような心理療法を受けて、心理状態や人間関係が劇的に改善した経験があります。
では、どんな治療をするのか?
その前に理解したい概念があります。
トラウマ
発達障害/精神疾患の当事者は、ほぼ確実にトラウマを蓄積させています。
「トラウマ」という言葉は性的暴行や児童虐待などの悲惨な体験だけを指すのではありません。
家庭環境の不和、小さな失敗体験の積み重ねからの自己否定、無能感、それによる感情の不安定、これらは全てトラウマです。
実際、僕はうつ状態が酷かったとき、自分のメンタル面の弱さを気にして心理療法を探しました。
が、 ↓ の本を読んだ時に自分には関係ないと思ってしまいました。
出てくる治療例が性的虐待などかなり悲惨なものだったからです。
(これ自体はものすごく良い本なので、気になる人は読んでみてください。)
ですが、自分のような「小さなトラウマ」の積み重ねで感情生活を害するケースの方が実は多数派だと思います。
そして当人は、そのトラウマにほとんど無自覚です。
(いま思い出すと少し恥ずかしいですが、自分の体験です。 ↓ )
早期不適応スキーマ
スキーマは「枠組み」という意味です。
物事を理解する枠組みです。
たとえば、誰かに否定的なことを言われた時、
・どの程度自分に非があるか?
・相手は自分の事をどう思い言ってるのか?
・相手の主張と言い方に納得すべきか?
…
これらを、
起きたことの因果関係、相手との関係性、周囲の状況、などを鑑みて、冷静かつ公平に解釈する必要があります。
スキーマは本来、そういうものを限られた情報からすぐ判断するための思考の枠組みです。
が、ここで厄介になってくるのが個人の中のトラウマの蓄積です。
たとえば、頭ごなしに否定された経験が多い人は、反射的に相手を敵視したり、過剰な自己否定や謝罪をくり返して相手の態度を硬化させます。
あるいは、ネットなどの文章のやり取りで、大したことない発言を「勝手に」否定的に解釈して問題が起きたりします。
現実とは解離した「思い込み」で感情を制御できなくなります。
人間関係についての困り事といえば、これに尽きるのではないでしょうか?
トラウマから、社会生活を邪魔するスキーマが形成されているのです。
これが知識レベルの思い込みならば、他人に説明を受けて解消することが出来ますが、スキーマは感情・無意識レベルの思い込みです。
そういった悪いスキーマは心理学で「早期不適応スキーマ」と呼ばれ、18種類に分類されています。
なので、スキーマ療法を行う前にはアンケートのようなものを書き、患者の中にどのスキーマがあるか簡易的に調べたりもします。
認知の歪み
早期不適応スキーマを持っていると、社会生活を妨げる「認知の歪み」が生まれます。
頭をよぎった感情に振り回され、正しい判断や行動をとれず、居場所を作れない。
そんな深刻な事態に陥り、その失敗体験からまたトラウマを積み重ねる悪循環が止まらなくなります。
(※トラウマは、体験そのものより、後から折にふれて思い出すことによって形成されるようです。参考:つらい記憶のフラッシュバックは「テトリス」をやると減る、研究 @ナショナルジオグラフィック)
認知の歪みについても心理学ではきちんと分析され分類されています。
いわゆる「0か100思考」、「レッテル張り」、「~べき思考」などです。
トラウマやスキーマといった深層意識レベルのものを先に解説したのは、それによって生まれる認知の歪みこそが、表に出る「症状」だからです。
頭では分かってても反応してしまう、とか、後から冷静になってみるとあり得ない行動だった、とか、そういう心の現象を自分も嫌というほど経験してきました。
この認知の歪みを、様々な心理学テクニックを使用し日常の行動を通して矯正していくのが認知行動療法です。
(こちらも解説記事を書く予定です。)
自動思考
トラウマは経験を思い出すことで形成されていくと書きましたが、ふとした瞬間に何が頭をよぎり、何を思考するか、自分の意思で制御できるのはごく一部です。
心理学で有名な「シロクマ効果」のように、「今から、シロクマのことだけは考えないでください」と言われると、どうしても考えずにはいられません。
しかし、
このパターンに行きついている人は、対人関係が悪化するだけでなく、一人でいてもネガティブ思考の反芻をしつづけ、泥沼にはまります。
思い返せば、僕の場合はこれが重篤なうつ状態の一端になっていたと思っています。
また、仕事など何かに集中をしなければいけない時に切り替えることが難しくなります。
これが困りごとになって発達障害を疑い、精神科を受診する人は多いと思います。
このネガティブ思考の反芻を受け流すために一番手軽な方法はマインドフルネスです。
マインドフルネスはスキーマ療法の入口として併用されることが多いので、次章ではその点をからめてスキーマ療法が一体どんなことをするかに踏み込んでいきます。
※追記:ちょっと調べたらこんな論文も見つかりました。
成人期の高機能自閉スペクトラム症者に対するスキーマ療法—ASDの自己理解、トラウマへの対処、自閉特性に対する機能的な対処方略の構築までを行った一事例—
頂いたお金は新しい治療法の実験費用として記事で還元させていただいております。 昔の自分のようにお金がない人が多いと思いますので、無理はしなくて結構です。