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川上未映子「わたしたちのドア」


ふたつならんだ平屋造りのアパートの部屋にわたしは住んでいる。隣には孤独な不幸そうな女が住む。交流は全くない。ある日、わたしは泣いている女を見る。何も声をかけられず、わたしは部屋に入る。それから、二人を隔てる壁をドアに見立てて、何度もノックし続ける。

僕は今、賃貸のマンションに住んでいる。隣の人の名前も知らない。たまに会って挨拶くらいはするが、すぐに忘れる。どういう顔をしていたか。幾つくらいか。思い出せない。思い出す必要もないと思っている。そう言えば、両隣より、僕の方の入居は早かったが、挨拶はなかった。

割と大きいマンションなのだが、先日来、奇妙なことが起こっている。外出するたび、同じ男と出会うのだ。エレベーターが開くと男がいる。外出から帰るとエントランスに男がいる。外廊下を歩いていると男とすれ違う。どうやら同じ階の住人らしいのだが、ひどい時には、日に二度三度会う。そんなに頻繁に外出するわけではないのに、ドアを出ると、ものすごい的中率で男に会う。こんなにたくさん人が住むマンションで、なぜ男にばかり会うのか。怖くなった。そんなはずはないのに、何か見張られている感じがした。あまり気持ちが悪いので、外出の際には非常階段を利用するようになった。
ある日、いつものように非常階段を降りて、マンションの裏口から外にでた。少し行くと公園があるのだが、その前の通りまで歩を進めた。ふと、視線を感じて顔を上げると、公園にあの男がいて、僕をまっすぐに見ていた。
驚いて、心臓が止まるかと思った。すぐ部屋に逃げ帰った。なんなんだ、なんなんだ、と頭がパニックになった。近年、あんなに怖かったことはない。
そして、なぜかその日以来、男と会わない。なぜなのかはわからない。

川上さんの小説とは関係ないことを書いてしまった。すまんことだ。
少しだけ感想。このお話、村上春樹なら、ノックされた、と書くだろう。ノックされ続けた、と書きそうな気がする。川上未映子は、はノックする、と書く。川上未映子は間違いなくノックする側の人間なのだと思う。

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