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小説精読 少年の日の思い出2



さて、続きですが、このお作、日本でしか読めないって知ってました? なんでも本家ドイツには、原本がないそうなんですね。どういう事情かわかりませんが。まぁ、そんなこといいんで、続けます。冒頭問題。話かわりますが、皆さん、映画は好きですか。やっとコロナも収束に向かいつつあり、映画に行く人も増えつつありますね。映画、いいですよねぇ。2時間、映画のストーリーに酔いしれて、至福の時間を過ごす。テレビドラマとは、また違った味わいがありますな。テレビドラマ見てると、カァちゃんが、いい時に限って話しかけてきたり、洗い物したり、はたまた、ドアのピンポンがなったり、スマホのメールがきたり、集中できませんな。まぁ、それも含めてテレビドラマなんですけど。ちゃちゃ入れながら見るのが、正しい見方かもしれませんな。

でも、映画は違いますな。邪魔する奴は基本いません。そして何より、あの暗闇。あれこそが物語に我々を誘う装置なんですな。

て、ことで戻ります。冒頭の仕掛けについて。ヘッセはここで読者を物語に誘うために、灯りをひとつずつ消していくんです。

まず、最初に消えるのは、窓の外の景色。いつのまに、すっかり暗くなったと、私はランプに火をつける。するとたちまち窓の外の景色は闇に沈む。パチン。ひとつの灯りが消えた。

次に、客はランプの炎でたばこに火をつけ、ホヤを乗せる。ホヤのせいで私と客の顔は闇に沈む。パチン。二つめの灯りが消える。

客はランプの灯りから離れ、窓の縁に腰掛ける。彼の姿は闇に紛れ見えなくなる。パチン。客の姿が消える。

私の目には、暗闇のなか、客の吸うたばこの火だけが見えている。私の目は自然たばこの灯りに集中する。そんな中で、客は、少年の日の思い出を語り始める。

いや、なんというか、心憎いまでの演出ではないですか。真っ暗闇に、灯りがひとつ。私は、読者は、否が応でも、客の話に集中せざるを得ない。

そして、物語は語られ始めるのです。



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