潮田クロ

ポンコツ小説、他に文芸書や昭和歌謡の感想文などを書いてます。投稿にはフォトギャラリーを…

潮田クロ

ポンコツ小説、他に文芸書や昭和歌謡の感想文などを書いてます。投稿にはフォトギャラリーを使わせて頂いてます。クリエーターの皆さま、いつも有難うございます。 趣味で書いてますので、厳しいご批評はご容赦ください。オヤジをいじめないでください。仲良く、楽しくがモットーです。

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記事一覧

奥泉光「清心館小伝」

奥泉光は企の人である。著書から見てもわかる。"石の来歴"から始まって、"「吾輩は猫である」殺人事件"、"グラント・ミステリー"、"ノヴァリースの引用"、"神器-軍艦「橿…

潮田クロ
17時間前
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桐野夏生「聞こえたり聞こえなかったり」

連載第二回。一回目は読んでない。二回目だけで何か書こうなど、失礼極まりないが、新潮全部読む、のマイ企画の為、ご容赦願いたい。 漱石の「猫」だったと思うが、苦沙弥…

潮田クロ
1日前
32

金井美恵子「夢の切れはし」

金井美恵子くらいになると、何を書いてもいいのだろう。文学的感性の乏しい僕には、サッパリ分からんものだった。 私は通りで死んだ母と出会う。その通夜の夜見たポニーに…

潮田クロ
2日前
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島田雅彦「Ifの総て」

こちらも新連載の一回目。舞台設定から始めるのではなく、題名の謎解きから入る。つまり、歴史のIfを考えることには意味があると。なぜならば、語られた歴史を受け入れるだ…

潮田クロ
2日前
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宮本輝「湾」

連載の一回目。小説の舞台になる舞鶴湾の形状、歴史。登場人物たちの説明、関係が語られる。物語は殆ど動かない。人物の関係性は一度読んだだけでは頭に入らない。なんだか…

潮田クロ
3日前
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川上未映子「わたしたちのドア」

ふたつならんだ平屋造りのアパートの部屋にわたしは住んでいる。隣には孤独な不幸そうな女が住む。交流は全くない。ある日、わたしは泣いている女を見る。何も声をかけられ…

潮田クロ
4日前
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村上春樹「夏帆」

ある女性が、友人の紹介で会った男に、君のような醜い女性に会うのは初めてだ、と言われる話である。 村上春樹は、悪意が現れる様を、よく小説に書く。初期は、デートした…

潮田クロ
5日前
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「新潮」創刊120周年記念特大号

「新潮」が、120周年とかで、分厚い号を出した。たくさんの作家たちが、エッセイや短編を載せている。特別号だそうだ。僕はこうした特別号がでた時、毎回ではないが、買っ…

潮田クロ
5日前
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サンドイッチとウィンナー 3

 日曜日、後ろ髪を引かれる思いで、私は図書館に行く。お弁当作りはずっと続いている。行って関口君と勉強して、お喋りして、それで一日が終わる。帰ってお母さんと昇だけ…

潮田クロ
11日前
26

サンドイッチとウィンナー 2

 惜しい試合を落としてもっとガッカリするかと思ったのに、頼子はいたって元気だった。みんなが慰めても「なんのなんの。高校行って国体出るから」なんて叫んでる。相変わ…

潮田クロ
11日前
26

サンドイッチとウィンナー 1

 あらすじ  私立中高一貫の女子校に通う知子は、自分の居場所を見つけるために、都立高校の受験を決意する。図書館で同じ受験生の関口と出会い、二人は共に勉強する仲と…

潮田クロ
11日前
26

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅲ

 翌朝は、早めに京都に立った。昼前には京都について、駅ビルで腹ごしらえした後、東寺を尋ねる。警察手帳の効果は絶大で、すぐに寺務所に通され、事務方の人と、年輩のお…

潮田クロ
2週間前
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捜査員青柳美香の黒歴史Ⅱ

家に帰ると、ドアの前に、昨日の婦人警官が立っていた。警察が何の用だ。僕は勝手に行動する。そう言ったはずだ。無視して玄関のドアノブに手をかけると、婦人警官が突然歌…

潮田クロ
2週間前
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捜査員青柳美香の黒歴史Ⅰ

あらすじ 伊勢神宮に参詣に行ったはずの妻と娘と義母が失踪した。三人は密かに憑神教という新興宗教に入信していた。夫の大石司は単身その本拠地に乗り込む決意をする。同…

潮田クロ
2週間前
24

小説精読 少年の日の思い出10(最終回)

ラストに来ました。言いたかったことたくさんありすぎて、言えないことも多かったけど、とりあえず今回て終わりです。 謝罪を受け入れてもらえなかったぼくは、夜中、一人…

潮田クロ
2週間前
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小説精読 少年の日の思い出9

さて、母親の登場です。 不思議なことに、このお話、父親が出てきません。大人の男性は、冒頭のハイソ二人組だけです。この二人が、このお話の父親像なのか、まぁ、よくわ…

潮田クロ
2週間前
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奥泉光「清心館小伝」

奥泉光「清心館小伝」

奥泉光は企の人である。著書から見てもわかる。"石の来歴"から始まって、"「吾輩は猫である」殺人事件"、"グラント・ミステリー"、"ノヴァリースの引用"、"神器-軍艦「橿原」殺人事件"などなど、話題作問題作にことかかない。芥川賞をはじめ各種文芸誌の新人賞の審査員に軒並み名を連ね、R-18新人賞の審査までしそうな勢いである。これだけ審査員を行うのは、推察するに、新しい才能にいち早く触れ発見したいという

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桐野夏生「聞こえたり聞こえなかったり」

桐野夏生「聞こえたり聞こえなかったり」

連載第二回。一回目は読んでない。二回目だけで何か書こうなど、失礼極まりないが、新潮全部読む、のマイ企画の為、ご容赦願いたい。

漱石の「猫」だったと思うが、苦沙弥先生が適当に本を開いて読んでると、そんな読み方で面白いのかと訊かれ、面白いと答える場面がある。苦沙弥先生は筋を追ってるわけではないのである。筋以外にも小説の読みどころはあるのである。

桐野さんの第二回、読んでて上手いなぁ、と思う。植物人

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金井美恵子「夢の切れはし」

金井美恵子「夢の切れはし」

金井美恵子くらいになると、何を書いてもいいのだろう。文学的感性の乏しい僕には、サッパリ分からんものだった。

私は通りで死んだ母と出会う。その通夜の夜見たポニーに跨った猿の競馬の夢を思い出す。また母のワンピースの生地の連想からズロースの話になって、その作り方が延々語られて、それが子供の頃母が銭湯帰りに見たお化けの話になって、その銭湯の話があった後、小僧のお化けを見た母はその母さんと家に帰って布団に

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島田雅彦「Ifの総て」

島田雅彦「Ifの総て」

こちらも新連載の一回目。舞台設定から始めるのではなく、題名の謎解きから入る。つまり、歴史のIfを考えることには意味があると。なぜならば、語られた歴史を受け入れるだけなら、そこに停滞と麻痺が広がり、歴史に対する責任を放棄する者が出てくるから。だから私たちは、常に澱んだ歴史を掻き回し、激しい渦を生じさせなければならない、と。

で、語られ始めるのが、御巣鷹山の日航機墜落事故である。会社名や機体名を変え

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宮本輝「湾」

宮本輝「湾」

連載の一回目。小説の舞台になる舞鶴湾の形状、歴史。登場人物たちの説明、関係が語られる。物語は殆ど動かない。人物の関係性は一度読んだだけでは頭に入らない。なんだかやたら登場人物が多い。途中で何度か読み返しても頭に入らないんで、諦めて読み進める。電子書籍だと、人物がわからなくなると、すぐ前ここで出てきましたよ、と遡れるので便利である。が、今回は紙で読んでるので、もし続けて読むとしたら、難儀である。まし

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川上未映子「わたしたちのドア」

川上未映子「わたしたちのドア」

ふたつならんだ平屋造りのアパートの部屋にわたしは住んでいる。隣には孤独な不幸そうな女が住む。交流は全くない。ある日、わたしは泣いている女を見る。何も声をかけられず、わたしは部屋に入る。それから、二人を隔てる壁をドアに見立てて、何度もノックし続ける。

僕は今、賃貸のマンションに住んでいる。隣の人の名前も知らない。たまに会って挨拶くらいはするが、すぐに忘れる。どういう顔をしていたか。幾つくらいか。思

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村上春樹「夏帆」

村上春樹「夏帆」

ある女性が、友人の紹介で会った男に、君のような醜い女性に会うのは初めてだ、と言われる話である。

村上春樹は、悪意が現れる様を、よく小説に書く。初期は、デートした女の子を逆の電車に乗せてしまったとか、身内にひどい不幸があって注文したケーキのことをすっかり失念するとかいった、偶然の、想定外に犯してしまった悪意を書いた。それは悪意とも呼べない、普通に考えれば過失といった類のものだ。そしてその過失を起こ

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「新潮」創刊120周年記念特大号

「新潮」創刊120周年記念特大号

「新潮」が、120周年とかで、分厚い号を出した。たくさんの作家たちが、エッセイや短編を載せている。特別号だそうだ。僕はこうした特別号がでた時、毎回ではないが、買って頭からお尻まで全部読むことをする。勿論ひと月では収まらない。一日一編、小説とエッセイを交互に読んでいく。面白くてもつまらなくても、毎日日記のように読む。なぜそんなことをするのかというと、リハビリのためだ。いろんな作家のいろんな作品を読む

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サンドイッチとウィンナー 3

サンドイッチとウィンナー 3

 日曜日、後ろ髪を引かれる思いで、私は図書館に行く。お弁当作りはずっと続いている。行って関口君と勉強して、お喋りして、それで一日が終わる。帰ってお母さんと昇だけだと家の空気が重かった。日曜日もお父さんは仕事に出ることがある。なるべく家にいてほしい。そう思っても言えなかった。お母さんも言えないようだった。
 今日の日曜日はお父さんがいた。救われるような気持ちで私は家を出た。午前中関口君と勉強して、お

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サンドイッチとウィンナー 2

サンドイッチとウィンナー 2

 惜しい試合を落としてもっとガッカリするかと思ったのに、頼子はいたって元気だった。みんなが慰めても「なんのなんの。高校行って国体出るから」なんて叫んでる。相変わらず素振りと腕立ては欠かさないようだ。受験のことはまだ頼子には黙っていた。自分の心は決まったが、夏休みが終わって胸を張って勉強したぞと言えるまで、秘密にしておくことにした。
「うちは中高一貫だが、高校入学はひとつのけじめとして考えてほしい。

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サンドイッチとウィンナー 1

サンドイッチとウィンナー 1

 あらすじ

 私立中高一貫の女子校に通う知子は、自分の居場所を見つけるために、都立高校の受験を決意する。図書館で同じ受験生の関口と出会い、二人は共に勉強する仲となる。国語の苦手な知子に、関口は「トロッコ」を勧める。同じ頃、弟の昇の虐めが発覚する。昇もまた自分の居場所を見つけられないでいた。親友頼子の助力で昇は徐々に立ち直る。一方、家族の内情を知られた関口は、知子の前から姿を消す。自分を鼓舞し勉強

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捜査員青柳美香の黒歴史Ⅲ

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅲ

 翌朝は、早めに京都に立った。昼前には京都について、駅ビルで腹ごしらえした後、東寺を尋ねる。警察手帳の効果は絶大で、すぐに寺務所に通され、事務方の人と、年輩のお坊さまとで対応してくれた。
 ひと通り話してみても、あまりよい反応はなかった。随分昔の話ではあるし、しかし、捨て子があったことが事実なら、覚えている者もいるはずだ。山田昇が見せた和歌も見てもらった。お坊さまは、すこし拝借してもよろしいか、と

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捜査員青柳美香の黒歴史Ⅱ

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅱ

家に帰ると、ドアの前に、昨日の婦人警官が立っていた。警察が何の用だ。僕は勝手に行動する。そう言ったはずだ。無視して玄関のドアノブに手をかけると、婦人警官が突然歌い出した。正直ギョッとした。

 お月さまいくつ
 十三ななつ
 まだ年や若いな
 あの子を産んで
 この子を産んで
 だアれに抱かしょ
 お万に抱かしょ
 お万はどこ往た
 油買いに茶買いに
 油屋の縁で
 氷が張って
 油一升こぼした

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捜査員青柳美香の黒歴史Ⅰ

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅰ

あらすじ

伊勢神宮に参詣に行ったはずの妻と娘と義母が失踪した。三人は密かに憑神教という新興宗教に入信していた。夫の大石司は単身その本拠地に乗り込む決意をする。同じ頃、自宅に差出人不明の手紙が届く。中には読解不能の和歌が一首。思案していると、警察官青柳美香が現れ、同行を申し出る。二人は憑神教の本拠地和歌山を目指す。憑神教の教義とは。三人が憑神教に入信した理由は。憑神教二代目代表を名乗る山田昇とはい

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小説精読 少年の日の思い出10(最終回)

小説精読 少年の日の思い出10(最終回)

ラストに来ました。言いたかったことたくさんありすぎて、言えないことも多かったけど、とりあえず今回て終わりです。

謝罪を受け入れてもらえなかったぼくは、夜中、一人で起きて、自分の蝶の収集を全て粉々に潰してしまう。一度起きてしまったことは取り返しのつかないものだと知り、自分で自分を罰するんです。んん。なんというか、こうしてぼくは少年時代と決別するんです。苦いですな。

子供時代は誰もが天才でしょう。

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小説精読 少年の日の思い出9

小説精読 少年の日の思い出9

さて、母親の登場です。

不思議なことに、このお話、父親が出てきません。大人の男性は、冒頭のハイソ二人組だけです。この二人が、このお話の父親像なのか、まぁ、よくわかりませんけど、物語の時間軸の中には、ぼくの母親しかいない。

母は、ぼくの話をすっかり聞いて、毅然と言いますね。エーミールのところへ謝りに行け、と。今日中でなければならない、と。自分の息子が間違いをしでかした。12歳であっても、自分のケ

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