潮田クロ

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潮田クロ

ポンコツ小説、他に文芸書や昭和歌謡の感想文などを書いてます。投稿にはフォトギャラリーを使わせて頂いてます。クリエーターの皆さま、いつも有難うございます。 趣味で書いてますので、厳しいご批評はご容赦ください。オヤジをいじめないでください。仲良く、楽しくがモットーです。

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  • 小説精読

    アイスネルワイゼン/桃/故郷/走れメロス

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  • 神木町  

    「神木町」シリーズ。 一話完結方式。どこからでも読めます。

最近の記事

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅲ

 翌朝は、早めに京都に立った。昼前には京都について、駅ビルで腹ごしらえした後、東寺を尋ねる。警察手帳の効果は絶大で、すぐに寺務所に通され、事務方の人と、年輩のお坊さまとで対応してくれた。  ひと通り話してみても、あまりよい反応はなかった。随分昔の話ではあるし、しかし、捨て子があったことが事実なら、覚えている者もいるはずだ。山田昇が見せた和歌も見てもらった。お坊さまは、すこし拝借してもよろしいか、と奥に消え、代わってご老体のお坊様が出て来られる。座につくや、メモ書きを私に返し、

    • 捜査員青柳美香の黒歴史Ⅱ

      家に帰ると、ドアの前に、昨日の婦人警官が立っていた。警察が何の用だ。僕は勝手に行動する。そう言ったはずだ。無視して玄関のドアノブに手をかけると、婦人警官が突然歌い出した。正直ギョッとした。  お月さまいくつ  十三ななつ  まだ年や若いな  あの子を産んで  この子を産んで  だアれに抱かしょ  お万に抱かしょ  お万はどこ往た  油買いに茶買いに  油屋の縁で  氷が張って  油一升こぼした  太郎どんの犬と  次郎どんの犬と  みんな嘗めてしまった  その犬どうした  

      • 捜査員青柳美香の黒歴史Ⅰ

        あらすじ 伊勢神宮に参詣に行ったはずの妻と娘と義母が失踪した。三人は密かに憑神教という新興宗教に入信していた。夫の大石司は単身その本拠地に乗り込む決意をする。同じ頃、自宅に差出人不明の手紙が届く。中には読解不能の和歌が一首。思案していると、警察官青柳美香が現れ、同行を申し出る。二人は憑神教の本拠地和歌山を目指す。憑神教の教義とは。三人が憑神教に入信した理由は。憑神教二代目代表を名乗る山田昇とはいかなる人物か。二人は和歌を頼りに京都東寺へ。そこで語られる和泉式部伝説。解明され

        • 小説精読 少年の日の思い出10(最終回)

          ラストに来ました。言いたかったことたくさんありすぎて、言えないことも多かったけど、とりあえず今回て終わりです。 謝罪を受け入れてもらえなかったぼくは、夜中、一人で起きて、自分の蝶の収集を全て粉々に潰してしまう。一度起きてしまったことは取り返しのつかないものだと知り、自分で自分を罰するんです。んん。なんというか、こうしてぼくは少年時代と決別するんです。苦いですな。 子供時代は誰もが天才でしょう。子供の描いた絵は、間違いなく天才的に素晴らしいです。中学生くらいから、描いた絵は

        捜査員青柳美香の黒歴史Ⅲ

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        記事

          小説精読 少年の日の思い出9

          さて、母親の登場です。 不思議なことに、このお話、父親が出てきません。大人の男性は、冒頭のハイソ二人組だけです。この二人が、このお話の父親像なのか、まぁ、よくわかりませんけど、物語の時間軸の中には、ぼくの母親しかいない。 母は、ぼくの話をすっかり聞いて、毅然と言いますね。エーミールのところへ謝りに行け、と。今日中でなければならない、と。自分の息子が間違いをしでかした。12歳であっても、自分のケツは自分でふかせる教育ですな。すばらしい。12才つうと、日本で言えば、小学校6年

          小説精読 少年の日の思い出9

          小説精読 少年の日の思い出8

           ああ、筋追いしてませんでした。簡単にやっつけましょう。といっても、皆さん、もう読んでる物語ですが。 ぼくはエーミールがクジャクヤママユを蛹からかえしたことを知ります。矢も盾もたまらず、ぼくはエーミールの部屋へ行く。部屋には入れますが、エーミールは不在。ぼくはここで、エーミール不在の中、クジャクヤママユを見てしまう。そして欲望に負け、盗んでしまう。階段から降りる途中、女中とすれ違い、咄嗟に、ぼくはクジャクヤママユをポケットにしまう。女中をやり過ごした後、激しい後悔の念に駆ら

          小説精読 少年の日の思い出8

          小説精読 少年の日の思い出7

           ぼくは欲望に負けて、エーミールのクジャクヤママユを盗む。 この「盗み」という問題について。 「盗み」とは、他人の所有物を、断りもなく、秘密裡に奪うこと。勝手に自分の所有物にしてしまうこと。 法ができるずっと以前から、殺人と同じく、犯してはならない社会的なルールである。 では「所有」とは何か。いつでも、気の向くままに、どうとでもできること。ずっと秘密にして誰にも見せない。好きな時に眺める。壊したり捨てたり、或いは譲ったりできる。なんでも、自分の意思で自由に出来ること。所

          小説精読 少年の日の思い出7

          小説精読 少年の日の思い出6

           エーミールはコムラサキという蝶に20ペニヒという値段をつけるわけだが、ぼくもエーミールの蝶に値段をつけている。エーミールがクジャクヤママユを蛹からかえしたという話が、今、ぼくの友人が100万マルクの遺産を受け取ったと聞くよりも衝撃的だった、と言う。「今」とはいつか。無論、社会的成功を成し遂げ、友人の別荘でくつろぎ、思い出話を披露している「今」だ。大人になった僕は、その衝撃の度合いを金で表現する。少年のぼくは、コムラサキが20ペニヒと言われて、たぶん戸惑っただろう。たぶん金銭

          小説精読 少年の日の思い出6

          小説精読 少年の日の思い出5

          ぼくがコムラサキを見せると、エーミールは20ペニヒの値打ちがあると言う。エーミールは、自分の価値観を持っていない。金の価値とは社会的な価値だ。自分以外の、その他大勢の欲望の価値だ。誰も道端の石ころに価値を求めない。このコムラサキは20ペニヒ出しても欲しいという人間が社会にいるということをエーミールは言っている。同時に、コムラサキを20ペニヒ以上出して欲しい人間は、いないとエーミールは言っている。20ペニヒ以上だすのなら、その欲望は他に行くと言っているのだ。 果たして、そうか

          小説精読 少年の日の思い出5

          小説精読 少年の日の思い出4

          主人公のぼくは、貧相な装備しか与えてもらえない。だから、それを引け目に感じて、自分の蝶の収集を他人に見せなくなる。自分の世界に閉じこもり、自閉する。 ここで、2年後にエーミールと紹介される教師の息子が登場する。彼は非の打ち所がない子供として描かれる。その完璧さゆえ、ぼくは彼のことを賞賛しながら憎むようになる。無論のこと、彼も蝶の収集をしていた。 ある日、ぼくは珍しいコムラサキを捉える。得意になったぼくは、エーミールにだけには、その獲物を見せようと思う。何故か。何故、憎んで

          小説精読 少年の日の思い出4

          小説精読 少年の日の思い出3

           客は自分が十歳の頃の話を始めます。客の一人称は「ぼく」です。ぼくは蝶集めに夢中です。  子供の頃のある時期、何かに夢中になるのはよくあることです。仮面ライダーカード。ビッグリマンシール。筋肉マン消しゴム。遊戯王やらポケモンやら、なんだかんだ、今でもあります。その昔は昆虫採取なんですね。そうそう切手集めなんてのもありました。私が小学生の頃は、切手の一大ブームで、みんな集めてましたな。なんかそれ用の本とかあって、「見返り美人」が何千円とか、取引き時価が載ってたりしました。  

          小説精読 少年の日の思い出3

          小説精読 少年の日の思い出2

          さて、続きですが、このお作、日本でしか読めないって知ってました? なんでも本家ドイツには、原本がないそうなんですね。どういう事情かわかりませんが。まぁ、そんなこといいんで、続けます。冒頭問題。話かわりますが、皆さん、映画は好きですか。やっとコロナも収束に向かいつつあり、映画に行く人も増えつつありますね。映画、いいですよねぇ。2時間、映画のストーリーに酔いしれて、至福の時間を過ごす。テレビドラマとは、また違った味わいがありますな。テレビドラマ見てると、カァちゃんが、いい時に限っ

          小説精読 少年の日の思い出2

          小説精読 少年の日の思い出1

          言わずと知れた、青春の巨匠ヘッセのお作でございます。まずは、冒頭の場面、これ必要のか問題から進めましょうか。 別にこの冒頭部分がなくても、物語としては成立します。冒頭が作中の現在で、この後客の少年時代の回想に入るが、回想に行きっぱなしで、現在には戻ってこない。で、この場面いるのか。いるんです。激しくいるんですな、これが。 このお話、客が夕方の散歩から帰って、私の書斎で雑談するところから始まります。もう夕暮れ近くで、窓の外には湖が見えている。 湖の側で書斎のある家。二人のベシャ

          小説精読 少年の日の思い出1

          マイブーム読書

          時折、嵐のように巻き起こる読書ブーム。成瀬が引き金になったな。只今、絶賛三冊同時進行中。読むとなったら、1日一冊じゃ、なんか勿体なくて。つっても、そんな難しいやつはもう勘弁。まあ、たまに純文も読みますけど。今回はこの三冊。 「同志少女よ、敵を撃て」 ソ連少女を主人公にしたの作者の卓見ですね。日本人主人公にすると、物語評価以前に"戦争反対イデオロギー"で評価されちまいますからね。 「わたし、定時で帰ります」意外と骨太。ドラマ見てたんで、ちょっと読んでみようかぐらいの気持ちだった

          マイブーム読書

          【昭和歌謡名曲集64】おいでよ 吉田拓郎

          名曲集と銘打ちながら、歌謡曲と違うやんけ! こんな歌、流行ってないやんけ? などなどお怒りの向きはございましょうが、今回はことにコアな曲です。吉田拓郎は、これはもう大看板。ですが、全部が全部皆様の心に残る曲とは言いづらい。しかし、ですね、アルバムの片隅にあって、皆様がスルーしてしまった曲の中にも、個人的に大好きな曲がございます。今回が、なんと64回。昭和も64年目。この節目の回に、私の極く極く個人的に好きな、まるで流行らなかった歌を紹介致します。 上京して、知り合いも誰もおら

          【昭和歌謡名曲集64】おいでよ 吉田拓郎

          成瀬は天下を取りにいく 宮島未奈

          本屋大賞、おめでとーございます。いや、取るって思ってましたよ。抜群に面白うございましたもの。誰でも読めるし。嫌味がないし。読んで、気持ちいいし。そりゃね、人間の暗部を抉り出すのが文学かもしれませんけど。まず、読んで面白くないとね。別に人間の暗部なんて、知りたくもない人も多いだろうし。文学なんていらなくて、読んで元気と勇気と生きる希望がもらえたら、もうそれでいいし。ああ、それにしても、読めばみんな滋賀に行きたくなっちゃいませんか? 膳所駅、行きたい! ミシガン、乗りたい! 持論

          成瀬は天下を取りにいく 宮島未奈