ショートショート『さわがしいとき』


曇りの日が続いている頃、温もりの中を駆け巡っていた。
足に傷をつけて、白いスカートは汚れたままの足取りになりながらもとにかく早く今はどこかへ消えてしまおうと駆け出していた。
しばらくすると森の中の湖に来た。
ほんとうに、ほんとうに、透き通っていた。
鳥の声しか聞こえないような中で傷んだ髪の毛を結わえ直していっそ溺れてみたいと思ってつま先を付けてみる。

おばあちゃんちには、埃まみれの水晶玉があった。
「あれは私たちを守ってくれる神様なのさ」
といいながら触らなかったもの。
なんだかその意味が分かった気がして、それより深く入るのを辞めた。

孤独なままでいたくはない。
かさぶたになりたての皮膚を眺めるたびに、ずっとずっとそう思う。

何もない草原に寝転がるように、ただ触れることのできている事実だけに
みんなでいっしょに目を輝かせていたい。
そんな、混沌の中の思い出。

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