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主役はいつだってあなた。King Gnu、渾身のメッセージを轟かせた5大ドームツアーファイナル公演を振り返る。

【3/23(土) King Gnu @ 札幌ドーム】

King Gnuが昨年末にリリースしたアルバムには、『THE GREATEST UNKNOWN』(偉大なる無名)というタイトルが冠されていた。常田大希によれば、リリースの約4年前からこのタイトルを決めていたという。彼は、昨年9月、アルバムリリース発表のタイミングで、X(Twitter)にこのような言葉を残していた。

King Gnuのライブフォーメーションは中央に人がいない。何故かと言うと、いつだって時代を動かしてるのは名も無き、声無き人達で、そういう人達が人生を強く生きてゆくのをほんの少しだけでも手助けするような御呪いになって欲しいと願って私は言葉を紡いできた気がしているからです。星が5つ。俺達4人と1番上にはあなた。主役はいつだってあなた。言い換えればそれは無我夢中で音を鳴らすおれら。有名無名は関係ない。神格化なんて別にしたくない。ただただ、おんがく、さいこー。

アルバム『THE GREATEST UNKNOWN』の本質、および、同名を冠した1月スタートの初の5大ドームツアーの本質、さらに言えば、King Gnuのライブ観、音楽観を鋭く言い表した、とても素晴らしい言葉だと思う。実際に、アルバム『THE GREATEST UNKNOWN』は、約1時間にわたる壮絶なロック体験を通して、この音楽を聴くリスナー自身に輝かしい無敵感と万能感を授けてくれるような凄まじいエネルギーに満ちた作品だった。前衛的な表現で煙に巻くことは決してしない。それぞれのリスナーが日々の営みの中で抱く喜怒哀楽の感情や心情を、時に奮い立たせ、時に昂らせ、時に優しく包み込む。どんな時も、聴く者を主役に変えてしまうロックの魔法。その有効性を心から信じさせてくれるこの作品は、2020年代を代表するロックアルバムとして日本のロック史に深く刻まれる一枚になると思う。


言うまでもなく、このアルバムの「主役はいつだってあなた。」というテーマは、今回のドームツアーを含む彼らのライブ表現全般にも通底するものであり、ライブでは、4人のライブフォーメーションの妙も相まって、そうした彼らの信念、およびリスナーへのメッセージがより色濃く浮き彫りになる。

その最も象徴的なナンバーの一つが、2023年のKing Gnuの快進撃を大きく加速させた"SPECIALZ"だ。今回のライブのオープニングナンバーとしてドロップされたこの曲では、《U R MY SPECIAL》《WE R SPECIAL》をはじめ、一人ひとりのリスナーを力強く肯定する言葉の数々が歌われる。その混沌としたバンドサウンドは壮絶な覇気や深淵さを感じさせながらも、ただ単に観る者を圧倒するのではなく、一人ひとりの観客に対して、胸の内の衝動を解き放ち、全ての感情を曝け出すように優しく促してくれる。そして、この空間・時間を共に創り上げる観客の生を高らかに祝福してくれる。過激で、過剰なロック表現を追求しつつ、同時に、自分たちのロックを信じるリスナーを誰一人も置き去りにしない。そうした、ともすれば相反するような先鋭性と包容力の両方を兼ね備えていることこそが、King Gnuというバンドが誇る強さである。そう、改めて強く感じる。

今回の公演の熱きハイライトを挙げていくとキリがなくなってしまうが、やはりと言うべきか、アルバムの中でも特に異端な存在感を放つ"):阿修羅:("のライブパフォーマンスは本当に壮絶だった。King Gnu流ミクスチャーロックの最新型にして究極型。カオスとポップがお互いに手を取り合いながら果てしない高みを目指すかのような同曲は、私たちに未知の興奮や高揚感を次々ともたらしてくれて、また、そのサウンドに乗せて届けられる《この人生たった一度きり》《君だけの素晴らしき日々》といった言葉は、やはりどこまでも親密に聴く者の生に寄り添ってくれるものである。なお、ライブでは、ロックバンドとしての肉体性を強く打ち出したアレンジが施されていて、特に、ギターソロとドラムソロが同時に展開するようなパートはカオスの極みで本当に痺れた。この曲がそうであったように、総じて言えるのは、今回のツアーは、アルバムツアーではありつつ単なる音源の再現にとどまらないもので、言うなれば、まるでもう一つの『THE GREATEST UNKNOWN』を観客と共にゼロから創造するかのような大胆不敵さとスリルに満ちていた。ロックバンドとして、常に、果敢に、進化と変化を重ね続ける4人の最新の姿は、やはりとても眩しい。

「主役はいつだってあなた。」その一貫したメッセージが多彩な楽曲を通して爆音で届けられる展開は、ライブ終盤からアンコールにかけてさらに色濃いものとして浮かび上がっていく。音源から何段階もの進化を遂げた"Slumberland"では、一人ひとりの観客の《寄せては返す人の波 それでも繰り返す日々の営み》を熱く奮い立たせ、"Sorrows"では、《この胸の悲しみと 共に生きてゆくよ》という力強く決意を共有する。そして、《いつだって主役はお前だろ》というど真ん中のメッセージを届ける"Flash!!!"では、常田が「シンギング!」と叫びながら観客にマイクを託し、そしてバンドの想いに応えるようにフロアから壮大な歌声が轟く。特筆すべきは、観客が歌うことを主眼に置いたアンコールのラスト2曲。一人ひとりの観客が《明日を信じてみたいの》という微かでも確かな希望を爆音の中で叫んだ"Teenager Forever"。そして、ラストナンバーは、井口理の「この時代に飛び乗っていこうぜってことで」という言葉を添えて披露された稀代のロックアンセム"飛行艇"だ。

この時代に飛び乗って
今夜愚かな杭となって
過ちを恐れないで
命揺らせ 命揺らせ

この風に飛び乗って
今夜名も無き風となって
清濁を併せ呑んで
命揺らせ 命揺らせ

これまで数え切れないほど音源やライブを通して聴いてきた楽曲ではあるが、今回のツアーでは、《今夜名も無き風となって》という一節が特に胸に響いた。冒頭で、『THE GREATEST UNKNOWN』(偉大なる無名)というタイトルはリリースの約4年前から決まっていたと書いたが、やはり、このバンドのメッセージは究極的なまでに一貫している。そして、その一貫性こそが、私たちがKing Gnuというバンドを心から信頼する何よりも大きな理由であるのだと思う。

井口は、アンコールのMCで、「俺たちが5大ドームツアーをするなんて、(昔は)ソニーも俺たちも信じてなかった。」「みんなのほうが信じてくれていたから、こういうことになったんだと思う。」と万感の想いを語っていた。「主役はいつだってあなた。」というメッセージが、4人にとっての本心であることが改めて伝わってくる一幕だった。また、常田は、ツアーファイナル公演の翌日、Xで「1人部屋に引き籠って作った曲なのに、そこに仲間が三人も乗っかってきてくれて、さらに何十万もの人々がその曲に共鳴して大合唱してくれるんだぜ。こんな夢みたいな仕事無いだろ。あんたらもバンドやりなよ。」と投稿していた。「あんたらもバンドやりなよ。」という締めの一言がとても常田らしいし、やはり、全ては一貫しているのだと改めて感じた。


昨年、日産スタジアム公演2Daysを含むスタジアムツアーを成功させ、今回それに立て続ける形で、初の5大ドームツアーを大盛況の中で見事に完遂したKing Gnu。4月には、台北、シンガポール、上海、ソウルを周る初のアジアツアーもファイナルを迎えた。もし今後これ以上に活動のスケールを拡大していくとしたら、いったいどうなるのか今は想像もできないけれど、4人なら、2020年代以降のロック史に、さらに大きな偉業を次々と刻み付けてくれる予感がしてならない。彼らと同じ時代を生きられることを、一人のロックリスナーとして心から誇りに思う。



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