一本のペンから始まった
近頃、仕事に対するモチベーションが上がらないでいた。
そんなとき、自分が尊敬する何人かの先輩や友人に相談をしてみた。
その中には、就活期に出会ったある一人の女性がいた。
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ちょうど一年と四ヶ月くらい前だろうか。新宿駅から徒歩10分くらいの場所でメディア系の会社が集い、大規模説明会を行うという話があった。
当時、私は映画業界一本に絞って就職活動をしていたので参加するほかなかった。
基本的には、興味のある企業のブースに行って話を聞くというスタイルだったのだが、抽選で当選した人は大手映画配給会社の社員が対談する形式の特別イベントに参加できた。
「これは行くしかない!」と思い、すぐに予約し、抽選もなんとか当選した。
当日。
到着すると、すでに結構な人がいた。
席に座り、一息ついてメモ用紙とペンを出そうとしたとき、大変なことにが気がついた。
「え...ペンがない。てゆか、筆箱がねぇよ...」
鬼バカすぎた。俺はなぜ早起きした?俺はなにをしにきた?
まさに、瀧くん状態だった。
「ダメ元で隣の席の方に貸してもらうか...」
左の席の方は友達と参加しているようで、なんやら盛り上がっていた。
「これはきついな...」
もう右の女性しか選択肢はなかった。
「あの、すみません。筆箱忘れちゃって...だから、ペン貸してもらえませんか...」
「あっ、全然いいですよー!はい!」
まさかまさかの展開に、胸熱だった。
「申し訳ないです...ありがとうございます!!」
(なんて優しいんだ...泣)
それから、無言というのも変なので少し話しかけてみた。
「映画業界受けられてるんですか?」
「一応、映画業界もみてるって感じです!」
「そうなんですね!大学は東京ですか?」
「いや、それが...愛知なんです(笑)」
「え!?うそ!僕、地元愛知なんですよ!」
凄い偶然に一人で興奮していると、やがて説明会が始まり、2時間ほどで終了した。
なんとなくその日の説明会を一緒に回ることになって、お互いが気になっている企業の説明会には全て参加した。
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気がつくと夕方で、そろそろ帰ろうという話になった。
「帰り道、ご飯でも食べて行かない?」
「いいよ、お腹減ったし行こう!」
新大久保の韓国料理のお店に寄った。
とにかく、色んな話をした。就活の話、恋愛の話、大学の話。
彼女は夢や目標に向かってひたむきに頑張っている人だった。素直に、凄い人だなと感心した。私もそれなりに頑張っていたと思うけれど、もっともっと頑張らないといけないと刺激された。自分のモチベーションを高めてくれる存在って本当に大切だと思う。
誰かが応援してくれるって、本当に励みになる。だからこそ、自分と同じように頑張る人は本気で応援したいなって思う。
店を出て、新宿駅まで二人で向かった。
「俺、新宿で乗り換えだ」
「そっか。今日は本当にありがとう!就活頑張ろうね」
「うん。頑張ろう!そいや、ペン返さないと!(笑)」
「あー、それあげる!そのペン使って頑張って(笑)」
「いいの?(笑)わかった!頑張る!」
それから、約半年後。
その人はやがて、映画業界の志望を辞めて、もともと興味のあった別の業界を目指すことにしたらしい。
ある日、LINEをしたときその報告を受けた。少し驚きもあったけど、彼女の選択を心から尊重しようと思った。
人一倍頑張っているのを知っていたから。
あのときもらったペンはインクがすり減るまで使った。
必死に必死に頑張ったつもりだったけど、私は映画業界に行くことができなかった。
きっと、努力が足りなかったんだと思う。
悔しい思いもしたけれど、彼女はそれでも、いつの日か私が映画関係の仕事に就くことを願ってくれている。
たった一本のペンから始まった出会い。
真っ黒のインクが次の空白を埋めるように、私たちの時間にも鮮明な色がついて過去となってゆく。
一本のボールペンが、滲まず、綺麗な曲線を描くように
私も自分の想いに正直に、一歩一歩、進んでいきたい。
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