記事一覧
【掌編】たけのこの里
ときどき、爪をやってもらう。
つまりは爪を磨いたり塗ったりなのだが、
不器用な私はセルフケアができないので、
ネイルサロンで施術してもらうのだ。
早春のある日のネイル担当者は、20歳そこそこの女性だった。
顔のパーツを強調するメイク、金に近い髪の色、小鼻のピアス、
いわゆる「ギャル」という範疇に入るのだろうと思った。
制服のエプロンの肩紐がずり落ちるたびに
蛾の触角のような眉をしかめ、
「ちょお
【掌編】水没ブリヂストン
自転車を買った。2台買った。
私の通勤用と、娘の通学用。
3年前にも揃いで2台買ったのだけれど、
すぐに錆びついたりパンクしたりチェーンが外れたりだった。
以前の購入は量販店で、もう行きたくなかった。
すると知人から、近所の小さな自転車屋を教えられた。
昭和の頃からの個人店だが、そこで買った自転車は15年間も現役だという。
冬の終わりに、娘と店を訪れた。
壁のペンキの褪せた平屋の店頭に、数台の