沼尻つた子

短歌をよみます。着物をきます。編みものをします。2015年生まれの元保護猫♀と暮らして…

沼尻つた子

短歌をよみます。着物をきます。編みものをします。2015年生まれの元保護猫♀と暮らしています。塔短歌会所属。牡丹の会同人誌「ないがしろ」( @71ga46 )世話役。第一歌集『ウォータープルーフ』(青磁社)書店・Amazon他で取扱い中。 ツイッターアカウント@numatsuta

最近の記事

【掌編】たけのこの里

ときどき、爪をやってもらう。 つまりは爪を磨いたり塗ったりなのだが、 不器用な私はセルフケアができないので、 ネイルサロンで施術してもらうのだ。 早春のある日のネイル担当者は、20歳そこそこの女性だった。 顔のパーツを強調するメイク、金に近い髪の色、小鼻のピアス、 いわゆる「ギャル」という範疇に入るのだろうと思った。 制服のエプロンの肩紐がずり落ちるたびに 蛾の触角のような眉をしかめ、 「ちょおウッザー」 と直していた。 ギャルはミニーマウスの水玉リボンが描かれた長い爪で

    • 【掌編】水没ブリヂストン

      自転車を買った。2台買った。 私の通勤用と、娘の通学用。 3年前にも揃いで2台買ったのだけれど、 すぐに錆びついたりパンクしたりチェーンが外れたりだった。 以前の購入は量販店で、もう行きたくなかった。 すると知人から、近所の小さな自転車屋を教えられた。 昭和の頃からの個人店だが、そこで買った自転車は15年間も現役だという。 冬の終わりに、娘と店を訪れた。 壁のペンキの褪せた平屋の店頭に、数台の自転車が置かれていた。 <SALE!>の札の値段は、どれも量販店より高かった。

      • 「売名」

        買う人を待つ 中央卸売市場で待つ 買う人が来る 曇天のした汗をぬぐいながら 買う人はスーツのジャケットを脱ぐ わたしは厚いカーディガンを羽織る わたしは売る人 売る人は売るものを まもるうつわ 買う人と歩く 山梔子の甘い匂い 鉄工所の酸い匂い 隅田川の饐えた匂い わたしの匂い 白い建物に入る 白い衣を買う人が着る 白い台にわたしは横たわる はだけられたカーディガンの下 皮膚に走る線路のような縫い目 何本も 何本も わたしは腹をさばかれて いろいろなものを売りはらってきた

      【掌編】たけのこの里