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「社会全体のDXの推進に、一刻の猶予もない」 香川県が目指すDXとは

人口減少や少子高齢化を抱える香川県。

ニューノーマルによる環境の激変に直面するなか、持続可能な地域を創っていくためには、デジタル施策の取り組みが急務となっています。

2020年11月、若者らが魅力を感じる「働く場」をつくろうと、オープンイノベーション拠点「Setouchi-i-Base(セトウチ・アイ・ベース)」をJR高松駅から徒歩約2分のシンボルタワー内に新設。

そして、2021年4月より「香川県デジタル化推進戦略本部」を設置し、県全体の施策のDX(デジタルトランスフォーメーション)を横断的に推進していくといいます。

「社会全体のDXの推進に、一刻の猶予もない」。

そう語る椋田那津希次長と藤澤朝美室長に、香川県が目指すDXについて訊きました。

このインタビューは、かがわ経済レポート2021年3月15日号のトップインタビューより一部抜粋・再編集してご紹介しています。

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左:椋田那津希次長 右:藤澤朝美室長

香川県がオープンイノベーション拠点を新設したワケ

いま、全国的に地方創生の取り組みが進められていますが、いまなお、地方から都市部への人口流出は抑制できていません。

本県でも1999年の約103万人をピークに毎年減少しており、現在は約95万人になるなど人口減少や少子高齢化が進行し、特に15~29歳の若者の転出超過数が拡大している状況です。
本県が実施した大学生らへのアンケート調査によると、「香川県には希望する企業や仕事がない」や「働きたいと思うような企業や仕事が増えれば県内に就職したい」という回答が多いのです。そこで、若者が魅力を感じる「働く場」の確保が必要と考え、本年度から、情報通信関連産業の育成・誘致に取り組んでいます。

情報通信関連産業は、若者の就業比率が高いほか、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などのデジタル技術が進展し、Societey5.0と呼ばれる”超スマート社会”に向かって成長している産業です。
さらに、新型コロナ感染拡大にともない、DXの重要性は日に日に高まっています。まさにコロナ時代の新たな日常を支える産業の一つとして成長が期待できる分野である情報通信関連産業の育成・誘致に取り組むことは、若者の都市部への人口流出の抑制と、本県の経済活性化につながるものと考えています。

そこで昨年の11月、オープンイノベーション拠点として「セトウチ・アイ・ベース」を新設しました。

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開会式のテープカットの様子。平井卓也担当大臣(右から4人目)、浜田恵造香川県知事(右から5人目)らが出席。当日は報道陣がたくさん来てました。

DX推進に取り組まなければ生き残れない

オープンイノベーションは、組織の枠組みを超えて、知識や技術を結集し、新たな価値やサービスを創出していくビジネスモデルです。

ビジネスの分野に限らず、社会全体のグローバル化が進展し、働き方や価値観の変化にともない、消費者のニーズもますます多様化。さらに新型コロナ感染拡大により、私たちの生活は大きな変化に直面しています。アフターコロナの将来を見据え、DX推進に取り組まなければ生き残れないのが、いま私たちの置かれている現状です。

このような状況に組織の内部だけでの対応では限界があります。オープンイノベーションを活用することによって、流動性や多様性を高めることは、DXを推進するだけでなく、組織内部の人材不足を補うという点においても有効といえ、企業や地域を活性化する手法としてさまざまな分野で活用されています。

セトウチ・アイ・ベースの特長

多様な人材が集い、学び、交わり、共創場所です。いわゆる「コワーキング・コラーニング(共同オフィス・共同学習)スペース」をおよそ110席ご用意しています。テーブル席や一人専用席、ミーティング席など様々なスタイルで、ピンポン台型のテーブルもありますよ。

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ここで生み出されたアイデアの創作活動を促す環境として、NTTドコモ四国支社との連携により5G通信環境を備え、3Dプリンターやレーザーカッターほか、さまざまな工作器具を共同利用できる「創作工房」や「デジタル編集室」も整備。デジタル技術をベースにしたものづくりのナレッジの集積やトライアルの場として、新しいビジネスモデルやサービスを生み出すステップとして役立てていただけるといいなと思います。

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3Dプリンターやレーザーカッターなどの創作機器を共同利用できる創作工房。予約制です。

また、遠方との会議やビジスマッチングなどを行うことができる「TV会議室」や「テレワークブース」も完備していますので、テレワークやワーケーションにもおすすめです。

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ここに集う仲間とのコミュニティづくりを通じ、自らの夢に向かって挑戦する方々を応援します。学校や職場といったいつもの属性とは違う、幅広い世代の仲間と一緒に、新しい香川を創造していきましょう。

コワーキングは1時間300円で利用できます。学生会員は月2000円、一般会員は月8000円で使い放題。一般会員はナイト・ホリデー月4000円コースもあり。イベントは無料で参加できるものが多いですよ。

ビジネスマッチング支援

専任のコーディネーターが、会員一人ひとりが目指すイノベーションの創出に向けてサポートします。「デジタルスキルを活かして就職したい」、「新規事業を立ち上げたい」、「起業したい」といった、それぞれのニーズにあわせ、創作活動やリアルな実践の場の提供、交流の促進、ビジネスアイデアコンテストなどのビジネスマッチングの環境を提供。
必要に応じて「ワークサポートかがわ」や「かがわ産業支援財団」といった関係機関と連携し、さまざまな相談に応じ、共に考え、アイデアを新たなビジネスにつなげていくことを支援します。

また、東京大学大学院の松尾豊教授をはじめとし、本県に縁があり、さまざまな専門性を持つ19名によるアドバイザリーチームも組成。アドバイザーが有するネットワークを活用したマッチング支援、会員向けのセミナーや個別相談への対応など、拠点利用者の課題解決に向けた支援を行ってまいります。

セトウチ・アイ・ベース アドバイザー(敬称略)
岩本 晃一(独法)経済産業研究所 リサーチアソシエイト
江島 健太郎 米Quora社 エバンジェリスト
岡﨑 直観 東京工業大学情報理工学院 教授
倉田 正芳 NTTコムソリューションズ㈱ 取締役 ICTイノベーション本部長
國土 晋吾 (一社)TXアントレプレナーパートナーズ 代表理事
小西 昌伸 百十四銀行㈱ 地域創生部長
髙木 知巳 88 Partners 代表取締役
高橋 正彦 香川銀行法人コンサルティング推進部長
瀧川 重理登 四国電力㈱事業開発室 新規事業部長
竹林 昇 ㈱DXA 代表取締役社長
中山 洋平 大手責任監査法人 マネージャー
原 真志 香川大学大学院地域マネジメント研究科 教授/研究科長
古市 克典 ㈱Box Japan 代表取締役社長
細川 慎一 GMOリサーチ㈱ 代表取締役社長
松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科 教授
真鍋 康正 ことでんグループ代表
宮本 吉朗 ㈱アムロン 代表取締役会長・CEO
山口 功作 合同会社側用人 代表社員
吉本 浩二 ㈱STNet 理事 経営企画室長

事業創造や交流促進をうながす仕掛け

人材の育成による情報通信関連産業の底上げのため、デジタル技術や事業創造に資するさまざまな講座やセミナーを開催しています。
特徴的な講座として、未経験からプロのITエンジニアを養成する「かがわコーディングブートキャンプ」を昨年の11月から開講し、30名の方が受講されました。プログラミング言語の習得からwebアプリの制作まで、拠点に常駐する専属講師の指導を受けながら、約600時間のコンテンツを約4カ月間でやり遂げるものです。

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そのほか、東京大学松尾研究室などからご提供いただくAI技術を、基礎から応用まで体系的に学ぶことができる「かがわAIゼミナール」や、IoT技術を活用し、課題解決に資する試作品まで制作する実践的な講座「かがわIoT実践ゼミナール」、情報通信関連産業に関する先端技術セミナー、さらには事業創造をうながす「アントレプレナーシップ講座」などを順次開講予定です。

また、拠点活動の活性化に向けた取り組みも行っています。地域課題を解決するビジネスアイデアを発表する「瀬戸内チャレンジャーアワード」や、瀬戸内地域で活躍する若手起業家らとの交流をうながす「U35 SANUKIプレゼン&トーク」、ことでんグループと連携した「ことでん新グッズ開発プロジェクト」、さらには香川県よろず支援拠点と連携し、中小企業などが抱える課題や悩みの解決に向けた「よろず支援拠点セミナー」など、事業創造や交流促進に資する多様なイベントを開催しています。

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瀬戸内チャレンジャーアワード2021の参加者。

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ことでんグッズの試作品。吐血してる?ように見えることちゃん(右奥)は、ティッシュケースです。

なぜ、DXの推進が急務なのか

DXは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。
単なる電子化、オンライン化に留まらないDXは、デジタル技術を活用した新たなサービスやビジネスモデルの開発、組織風土の変革など社会経済システムに変革をもたらすことで、県民生活の利便性の向上や、県内企業の生産性向上、競争力強化などに資することが期待されます。「デジタル」より「トランスフォーメーション」の方が重要ではないでしょうか。

新型コロナ感染拡大による経済への影響は甚大です。これまで経験したことのない、まさに国難とも言うべき局面に直面し、テレワークやオンライン会議、遠隔授業など、私たちの生活は大きく変わりました。
これらの変化、不測の事態をむしろ「チャンス」ととらえ、柔軟に対応し、スピード感を持って働き方や業務フローを見直し、それぞれの立場で変革への取り組みを始めること、いわば社会全体のDXの推進がニューノーマルによる環境の激変に直面するなか、持続可能な地域を創っていくために急務となっています。

香川県全体のDXの現状

県ではこれまでも「かがわICT利活用推進計画」を策定し、申請・届出のオンライン化や電子入札の実施、AIなどの活用による業務効率化などにより、県民の利便性の向上、行政運営の効率化などを図ってまいりました。

先端技術を活用した「スマート農業技術開発・実証プロジェクト」や、製造現場のスマート化・先端ロボット技術の実用化に向けた「かがわsociety5.0(超スマート社会)推進事業」、介護や障害福祉分野におけるICT・ロボットの導入支援などを推進。AI・IoTなど最先端のICTや官民データの効率的かつ効果的な利活用に取り組んできました。

県内各市町も積極的にDXの推進に取り組まれています。高松市では、「スマートシティたかまつ」の推進や「スーパーシティ構想」への取り組みみなどを実施。防災・福祉・交通分野などの分野で、ICT・データ利活用などによる地域課題の解決のための取り組みを進めています。

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三豊市は、「粟島スマートアイランド推進プロジェクト」として遠隔医療・ドローン配送実現や電動カートを使ったグリーン・スロー・モビリティの実証実験を行っています。さらには、AIを用いて地域課題を解決し、新たな地方創生を目指す拠点となる「みとよAI社会推進機構MAiZM(マイズム)」も設置。

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みとよAI社会推進機構MAiZM(マイズム)

このほか、県内企業においてもそれぞれの企業の強みを活かしたさまざまな展開が始まっています。

しかしながら、県をふくめ、取り組みはまだ途についたばかり。進化し続けるデジタル技術に的確に対応し、アフターコロナを見据え、ますます高度化・複雑化する社会ニーズに対応していくためには、これまで以上に積極的にDXを推進しなければなりません。

これからのDXに向けた動き

昨秋以降、国はデジタル化を急速に展開しています。県としても、国や社会のスピード感に合わせた対応を進めるべく、来年度は積極的に施策展開を図ります。

①全県的な医療情報ネットワークやレセプト(診療報酬明細書)情報を活用した診療支援システムの運営支援
②県内大学などにおけるデジタルなどを活用した教育環境の整備の支援
③テレワークによる移住や企業などの県内転入の支援
④デジタル化を推進する企業への個別コンサルティング支援などによる県内企業の生産性向上や競争力強化

また、今回のコロナで、特にデジタル化の遅れが浮き彫りとなった行政においては、次の取り組みを積極的に進めてまいります。

①システムの標準化・共通化の実現に向けた調整やデジタル人材の確保
②デジタル技術の共同導入など県内自治体全体のコスト削減に向けた検討
③デジタル社会の基盤となるマイナンバーカードの普及促進

これらの施策展開を図りながら、今後は、デジタル技術の利活用が単なる電子化・オンライン化に留まらず、社会経済システムに変革をもたらし、さまざまな課題の解決につながるよう、部局横断的に各施策分野におけるデジタル化の企画・立案、総合調整などを行う体制を整備するとともに、デジタル化に関する各種の施策を体系的に整理した「かがわデジタル化推進戦略」を来年度に策定し、戦略的に取り組んでいくことが重要と考えています。

各市町や企業、団体などと連携しながら、生活・産業・行政のあらゆる分野におけるデジタル化を一層推進することにより、誰もが安心して、豊かさを実感しながら暮らせる社会の構築に向けて、全力で取り組んでまいります。

Setouchi-i-Base 香川県高松市サンポート2-1 高松シンボルタワー タワー棟4・5階 情報通信交流館(e -とぴあ・かがわ)内




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