材料の信頼性②

こんにちは
材料技術者のつんちゃんです。
私の仕事は主に工業の世界でどこにどんな材料を使っていくのか、調子よく使うためにはどんな工夫をすればいいのか、ということ実験したり調べたりしています。
工業にしても農業にしても、何かものづくりをする人にとって材料の信頼性というのは必ず付きまとってきますよね。このnoteでは、安全安心な製品をお客様に届けるために、気を付けなければならない材料の信頼性について書いていきます。

さて今回は、規格の話をしてみたいと思います。


金属の取り扱いがある人は、純アルミと言ったらA1050といった規格番号を思い出すかもしれません。そうですね、アルミニウム純度99.5%の板状アルミニウム合金の規格がA1050です。99.5%なら、まぁ純アルミと言っても差支えの無い純度ですね。もちろん、業界によって異なりますが。

さて、純アルミはアルミ合金の中では強度は弱く、しかしながら割れるよりも凹んだり伸びたりする性質を持っている合金で、アルミの中では錆びにくく、また耐熱性も比較的高いという特徴があります。被削性という面では、伸びるので厄介だと思う人もいれば、とはいえ所詮はアルミよ、と思う向きもあるかと思います。不純物が少ないので、アルマイトなどの表面処理はやりやすい合金にはなります。
詳しくは、少し検索してもらうといろんな情報が出てきますので、そういうところを読み込んでもらうとして・・・

規格に書いてあること

例えば、上記のアルミ合金のような金属材料では、規格には化学成分が書かれています。アルミが何%でマグネシウムが何%でシリコンが何%とかですね。
では、少しだけアルミニウムの板のJIS規格 JIS H 4000を紐解いてみましょう

純アルミとして知られている合金番号1050の合金は化学成分としてAlが99.50%以上と書かれています。それ以外の元素はSi、Fe、Cuなどそれぞれにおいて混入してもよい上限の数値が指示されています。つまり、アルミの純度が高ければ1050と言って売ってよく、トータルの不純物の量が0.5%未満であればよいわけですね。
そうすると、Siが最大の0.25%含まれていて、Feは残りの不純物として許される0.25%含まれるという合金でもよければ、Feが最大の0.4%含まれていてSiは0.1%しか含まれていない合金でもよいわけです。
重要なことは、このように不純物元素の量や割合が異なっていても、同じものとして取り扱うのがJISの規格というわけです。

ですから、1050のアルミを注文して、お互いにJIS規格だと思っていて、ある時までFeがほとんど入っていなかったのに、ある時から(例えば原料の一部がリサイクル材になったとかで)Feが上限付近まで入るようになったけど、全くそんな変化は知らされていなかった、ということも起こるということです。

ついでなので、この1050というアルミ合金がどのくらいの強度なのかもJIS規格を見てみましょう。
1050の板で厚さが6.5mmよりも薄いものは、引っ張り強さで85MPa以上と書かれています。従って85でも90でもよく、メーカーとしては保証するために平均的な強度を90とか95MPaとかになるよう作るわけですね。それでも、塊のどこからとっても全く同じ強度にすることは難しく、ある程度のばらつきは出るわけです。

JIS規格の強度は信用してよいか

このとき、どのくらいのばらつきなら許されるのでしょうか?
例えば、切り出したサンプルの、100個に1個くらいはこの85MPaを少し下回って、83MPaくらいのものがあってもいいと思えますか?それとも、規格を下回ることは10000個に1個くらいにしてもらわないと困りますか?

自動車や家電など、何万個も作る工業製品の場合、規格外れを完全に0にすることはできないので、例えば1000個に1個の規格外れを許してしまうと、世界のどこかのお客さんが、規格よりも強度の低い材料で作られた製品を「掴まされて」しまう可能性があるわけです。

しかも、この強度は引張試験をした場合の強度なので、実際の部品として使われる時の強度とは同じではありません。力のかかる向きや、繰り返して力がかかる場合はその影響を考慮していないからです。
実際、優秀な設計者ならそのくらいの数値は織り込むことができますが、材料がどんなばらつきを持っているかまで気にして設計できる人はほとんどいません。
せいぜい、よくわからないけど安全率を2割くらい持たせておけば、よほどのことがない限り壊れないだろう・・・くらいな話です。

日本人だと、おそらくこんな風に考える人が多いと思うのですが、実は日本以外の国では違う感覚を持っている場合もあります。私がフランス人と仕事をしているときなど、彼らはN=3(サンプルとして3本とるということ)の強度試験の平均値が規格を下回っていなければOKだと主張するわけです。
確かにそれでも、強度として規格を満足しているとは言えます。
つまり、規格に書かれている化学組成の数字や強度には、平均値としてそれ以上あればよいのか、〇〇%以上の保証値としてその数値が必要なのか、そういった頻度や確率の話は書かれていないのです。

機械部品を取り扱ったり、設計をされている方は、一度材料のメーカーや商社に、この材料の強度規格はどのように保証されていますか?と聞いてみるとよいと思います。

ある日突然、モノが壊れる理由

では、信頼性という話を規格の側面でみてきましたので、ある日突然モノが壊れてしまう理由について考えてみたいと思います。

金属材料は多くの場合、スクラップとして回収されたものをリサイクルするか、または鉱山からとれた鉱石を製錬して作られます。リサイクルにしても鉱石にしても、基本的には不純物を含んでいますので、工業的に必要な水準まで純度を上げていって使うわけです。その時の指標になるのが「規格」ですが、これをどのように守るのかは実質上、材料メーカーに任されています。

ある日、材料メーカーに入ってくるスクラップの品質が変わったり、鉱石の産出地が変わったりしたとします。例えば、ロシアが戦争を始めてしまいロシア産の鉱石が手に入らなくなったので、別の国から買うということもあったと思います。

そういった事情によって、材料メーカーから入ってくる合金の組成が少しだけ、ほんの0.1%くらい変化があったとします。この時、生産量も同時に変わったので、これまで製造した棒材の真ん中あたりを購入できていた機械メーカーが、たまたま棒材の端のほうを買うことになってしまいます。材料メーカーとしては同じものとして売っているので、その違いを告知することはありません。

しかし、成分が0.1%変わり、切り出し場所が中央から端部に変わると、それだけで強度が10%とか15%変化しても全く不思議ではないのです。この時納入された現物は規格の強度を満たしていない可能性もあるのですが、強度は破壊試験をしなければ測定することができないので、部品にしてしまう実際の部分は、直接強度が測定できるわけでもなく、そのまま製品になってしまうわけです。

こうして、数年後。
この部品は破損してしまい、お客様からいつもなら5年以上使って、別の部分の摩耗で交換しているのに、今回はたった2年で折れてしまった。といったクレームにつながったりするわけです。
これが、製造装置などの機械ならモノが壊れるだけで済みますが、自転車や自動車だったら大事故になる可能性もあるわけです。

いつもと同じメーカーから、いつもと同じように規格品を買っているので、材料は大丈夫・・・ということなんて、言い切れないのがモノづくりの世界です。機械設計の皆さんも、そういう視点で材料調達を考えていただけると幸いです。

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