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嘘のままの恋愛 2161字

30代に近づいても、
インナーチャイルドを抱えて、
独り演技の私だった。

素直になれない私。

そんな折に電話で告白してくる女性がいた。
なんとなく、
少しずるい感じがしたけど、
以前より趣味の合う友達だったし、OKした。

人間関係はすべて、
気遣いという名の自分の偽りだった。
要するに腹は見せない、
人に対する恐怖心の塊だった。

愛想よくしていたので、
好いてくれる友達も割といた。

でも恋愛は初めて。
相手の告白のままに付き合い始めた。

独り暮らしをする彼女の家に通った。

時には一緒にデートするものの、
私は専門学校生で、
彼女は働いていた。
家で一緒に過ごすことがほとんどだった。

あるときは、
「わたしたち、セックスしかしてない。」
など言われたりして、
やがて私の化けの皮は剥がれて、
大人ぶっていた私の本当は
子どものようなものだったことに
彼女は気付いたのだった。

「付き合ってみて、こんな人だとは
 思わなかった。」と言われた。

でも、彼女は愛する気持ちに
シフトしていたかもしれない。
そうあっても、しばしばぶつかっては
どうしようもない日々を送った。

彼女は彼女で、
「恋愛になると、なぜか
 男女の関係でなくて、
 家族みたいになってしまうの。」
と言った。

私も大きな問題を抱えていたけれども、
彼女も何か、恋愛で満たされない経験を
してきたようだった。

そうして、彼女は私に
愛を注いでくれたのだったけれども、
私は受け取るばかりで何も返さなかった。

いずれ彼女は疲れてしまって、
他所の男と結ばれたのだった。

私にも打ち明けてくれた。
彼女は私が人間不信であることを
知っていたので、
自分のしている事、思っている事を
正直に話してくれたのだった。

でも私は幼かった。
彼女の思いを慮らずに、
単純に浮気されたと思い込み、
嫉妬に狂った。

嫉妬に苦しんで、
それにも疲れて、
別れることが思いを占めた。

別れた方が楽だ。解放される。

私の心の中では、
彼女との関係は切れていた。

諦めの付き合いがしばらく
続いたけれども、
別れを打ち明けるタイミングを
伺っていた。

自覚は無かったものの、
自分のしようとしていることが、
どれだけ彼女に対して
ひどい事をしようとしているのか、
背徳感に苛まされた。

そういう苦しみからも逃れたくて、
罪の意識と葛藤しながらも、
彼女の家で別れを切り出した。

彼女は私に飛びついて、
キスをしまくった。

「やっぱりあの人と寝たのが、
 いやだったのね。」

彼女の発言は、まるで
恋愛の実況中継のようだった。

恋愛の事を知らない私に
丁寧に教えてくれるかのような。

二人して、妙な安堵感が漂った。

後日、改めて最後に会う約束をした。

喫茶店で、最後の話をした。

「あなたが7割、そして
 あの人が3割くらいの好き。」
そう言われて、
ここに至っても、愛されていることに
満足を覚える馬鹿な私だった。

店を出て、
横断歩道で信号待ちをしている時、
「あなた、これから一体
 どうするつもりなの?」と言われて、
私は、冗談ではぐらかした。
彼女は心配しつつも呆れているようだった。

先行きなんて、何も見えない私だった。
彼女もおそらくは。

お互い若く、相手は随分年下だったけれど、
少なくとも私よりは世間の事を、
自分の将来を考えているようだった。

私は全くだった。

最後の最後に、
私の心を刺す言葉を、
彼女は投げかけてきた。

図星を突かれて、
あまりの私の動揺に、
今でも何を言われたか覚えていないけれども、
激昂して、彼女に暴言を吐いたことは覚えている。

彼女との関係を無理矢理
引きちぎるような言葉だったと思う。

彼女は狼狽して、
私の元を離れて去って行った。

それまでの私の人生は何だったのか。
長い年月を親に守られて暮らしてきた。

社会は私には怖過ぎた。
彼女に助けを求めたかった。

数日して、
改めて、半年間の付き合いで
愚直ながらも芽生えた恋愛心が
また彼女を求めて、
私はいろいろな所を当たって、
彼女を探し回ったのだった。

彼女は家を引き払っていた。
働いていると思われる店にも
行ってみたけれど、
消息は知れなかった。

夢遊病者のようにさ迷った。
自分のひどさに、私自身は傷つき、
心の病のきっかけとなった。

何年も自責の念に苦しんだ。
自死も考えたけれども、
到底そんな度胸も無い半端者だった。

波打つ心が、
少しずつ凪いでゆくのだった。

50歳を過ぎた今も、
恋愛には奥手だ。
付き合った人は居ない。

恋愛に対する希望を
失った訳ではないけれども、
まずは
本来の自分を取り戻すことの方が先決で、
その事に時間を費やした。

でも時間は待ってくれない。
気が付けば、独り身の垢のようなものが
私にこびり付いていた。

水もの。人生は水もののように
流れてゆく。
多層的、多重的に、あるいは流動的に
私なりの経験は積まれていった。

深い傷跡なので、いまだに
再会したいと思うには至っていない。
そういう話でもないだろうけれども。

今までの人生で一度切りの恋愛だったため、
自分の心の内に刻まれている事に
触れないようにしている。

彼女の幸せを願う資格など、
私には無いだろう。

ただ、お互い若かったという事だけを
心の慰みにしている、
情けない日々を実は送っている。

独りである事は、
それなりにそうなるべく、
生きて来た事のあってそうなっているの
かも知れない。

インナーチャイルドを育てないと
いけない。

まずは素直な心で、
人に接する練習をしている、
そんな今日この頃である。

(おしまいです。本文2161字)

☆彡

あとがき

20代の頃の恋愛話を、
書いてみました。

今でも、「癒し」を求める心とは
何だろうかと思います。

昔と相変わらず創作に耽っていて、
恋愛に対しては、
あまり突っ込まない方がいいのかも
知れないと、50代にもなって、
自分の人格を想います。

世の中にはいろんな人が
居るだろうけれども、
少なくとも、依存関係は避けたい。

期待もしないし、されたくもない。
自分の今のあるがままで、
少しずつ歩んでゆく先に、
新しい出逢いは待っているだろうか。

ただ今は、幸せでありたいと願う。
恋愛になるならば、共に幸せであることを願う。

そうして、私の毎日は
過ぎてゆくのでした。

つる 拝

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