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モン族のチキンスープ Vol.1


「モン族のごはんは美味しくない」
と教えてもらっていたけれど、やっぱりそれは信じがたくて、何度も何度も聞き方を変えて、こんなのはどう?こんな料理はある?などなど聞き込んでいくと、あるじゃないですか!興味津々なお料理が。

そして「モン族の料理を教えてほしい」とお願いしたところ、
とうとう一品を教えてもらえることになりました!

それは、生きている地鶏を使ったスープ、
モン族のトムガイサイサムンプライです。
どういった料理かというと、地鶏とモン族のハーブを煮込んだシンプルなチキンスープです。

この日は地鶏が偶然売り切れになってしまったので、
マーケットで普通の鶏丸ごとを買ってきました。
後日、ちゃんと地鶏で作ることに。

マーケットで購入した鶏丸ごとは、
もちろんすでに綺麗に処理されており、
お母さんの台所でよく洗い、
必要に応じて自分たちで切り落とすだけでした。

スーパーなどで購入する鶏肉は、各部位に分かれてパッケージングされていますよね。
この鶏まるごとの場合、もちろん頭も足の先もくっついています。
なかなかグロテスクですが、
昔、この家族の飼う鶏を絞めて、羽をむしり取る場面に立ち会ったので、それに比べればそこまで心は揺らぎませんでした。

モン族のハーブは山で育つもの。お母さんが山から持ってきて庭で育てています。
いくつかは乾きすぎて育たなかったのですが、多くは今もちゃんと育っています。
それで何人ものモン族の人たちがこのお母さんの庭を訪れてハーブを分けて欲しいと
お願いしてくるそうです。

今でもこの家族は家の中に薪で調理をするスタイルの台所を利用しています。この方が断然美味しいんですって。

わかります!

薪の香りがいい香り!
ぐつぐつと鶏が煮えたらハーブをどっさりと投入。

薪の囲炉裏での料理が美味しいのはわかるのですが、
とにかく40度を超えている気温で、薪の火を使って調理するのは本当に暑くて大変でした。脱水症状を起こさないように、水分をたっぷり摂るように心がけました。

味付けは、塩と胡椒、ナンプラーのみ。旨味と香りは鶏肉とハーブからたっぷりと出てきます。
このお宅では普段はナンプラーさえも使わないそうです。
出来上がり!

今回は地鶏ではなく、マーケットで購入した普通の鶏だったので、煮込み時間は少し短めで大丈夫とのこと。煮込んだハーブと一緒にいただきます。

いろんなハーブが香り、スープの中に染み出し、鶏の出汁といい具合に混じり合って”味”が出来上がっていました。

今回は、私が薪の囲炉裏でハーブ入りオムレツも作りました。
モン族の鶏とハーブのスープ、
生野菜とハーブ入りオムレツ。
そしてロンタオジャオ/ココナッツミルクとタイ味噌、鶏肉の煮込みディップは
私が前日の夜に作って持ってきました。

この日は、モン族のお母さんの家族が子供達以外の家族数人がいたので、みんなに声をかけました。このお母さんとの付き合いは長いのですが、この家族と一緒にご飯を食べることはありませんでした。
家族揃ってテーブルを囲んで食べるという習慣はなく、
用意した食事をそれぞれが器にとってささっと食べてそれぞれのやるべきことへ戻る、という感じでした。

ところがこの日はちょっといつもと違ったのです。

今回は、私と私のパートナー、モン族のお母さんとそのパートナーさんの四人がダイニングテーブルにつきました。

このモン族のお母さんの義理のお母さんは普段、家族親戚以外の外から来た人とは絶対に食をともにしないのですが、
この日はまず、チキンスープを器に盛り、私の作ったオムレツとロンタオジャオをお皿に持って隣の部屋へ行って食べました。
そして、、また再び私たちのいるダイニングに来ては同じように全ての料理を盛って、また部屋に戻って食べていました。

私はそれを見て、、「あ!食べた!」と心の中で思いました。味はどうなんだろう。いつものチキンスープになったのかな?オムレツとロンタオジャオは口にあうのかな?と。

でも「美味しいですか」なんて野暮なことは聞きません。
この家族はめちゃくちゃ正直で、ましてやお世辞やごまかしなどがないのです。美味しいときは彼らの自然な形で表現されます。

そしてもう一人。このお母さんの義理の弟さんは、実は鬱で長年引きこもっています。口下手で、目も合わせない彼は、本当に私とは言葉を交わしません。この日、ひょっこりとダイニングに現れて同じく器にチキンスープを、お皿にオムレツとロンタオジャオを盛って、また別の部屋へ退散。
そして数分後にまた現れ、同じように器に食べ物を盛って、、
私に背を向けたような状態で、

「………美味しい…」

とぼそっと呟いて、スーッと部屋に消えていきました。

私は「うわぁ!」と思いました。
義理の弟さん、私の作ったもの本当に美味しいと思って、だからおかわりした!もうちょっと食べたいと思ったんだー!

最後にモン族のお母さんとそのパートナーさんは、

「うん。このチキンスープはこんなものかな。でも、もしも新鮮な地鶏を使って作れたらもっと本当の味になるよ。それが私たちのチキンスープ。作り方は今回の通りだけど、ちゃんと地鶏を使って自分で作って欲しい。
それから、”ロンタオジャオ”というタイ料理を知らなかったけれど、これは美味しい。オムレツと、生野菜とロンタオジャオ、そしてチキンスープ。味の組み合わせバランスがとてもいいね!」

と言っていただけました。

このモン族のチキンスープには伝統の儀式があります。

夫婦に子供ができ、無事出産を終えたその日から1ヶ月間、
その女性の夫が一日一羽を使ってこのスープを作り、妻に食べさせます。
妻は、1日かけて一人でこの1羽の鶏とそのスープを食べなければなりません。他の食事はとりません。1ヶ月で30羽の鶏を食べます。

これは、女性が出産を終えた身体の回復を助けるため、
そして栄養をよくとって今後の身体を丈夫にするための風習です。

それくらいハーブの種類も含めて栄養満点なんですね。


そして最後にお母さんから課題を出されました。

今日はこの庭からチキンスープ用のハーブを持ち帰りなさい。冷蔵庫で数日保つから、数日内にちゃんと地鶏丸ごとを農家さんから自分で選んで買って、もう一度このメニューを”自宅”で作りなさい。

というわけで、次回の投稿は、このモン族のチキンスープの続きになります。





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