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片親疎外(親子断絶が続く心理と子への影響)

【目次】

1.親子断絶のきっかけ

2.分離不安の出現

3.合理性の追求

4.自己肯定感の低下

5.片親疎外の進行

6.片親疎外の認知と罪悪感

7.片親疎外からの抑制

8.片親疎外からの自力回復

9.現代における社会の問題点と提言


【本文】

1.親子断絶のきっかけ

 親子が引き離されてしまうというのは、それぞれの事情によって様々な形があります。愛情を注いできた親子関係や、成長していく親子関係を楽しみにしてきた間柄では、物理的に離れてしまうことで想像を絶するほどの強い苦しみや虚無感に襲われます。双方の親が、子どもにとって良いことは何かということを深く考え、そして悩むことになるでしょう。また子どもの年齢や状況にも拠りますが、子ども自身も不安な気持ちになっていることでしょう。


2.分離不安の出現

 子どもは理解せずに離れて暮らすことになれば、親が愛してくれないのではないかという想いが沸いてくることがあります。また一方の親が、他方親のことを悪く言うことによって、不安な心理を生じる片親疎外の状況に陥ります。離れて暮らす状況になった理由について分からないのであれば、分離不安を打ち消そうという深層心理から、子どもは双方の親に好かれようと努力する場合もあります。子どもの気持ちを代弁してくれる周囲の大人がいなくなってしまうため、心の拠り所として行き場が無くなってしまい、周囲の顔色を思わずじっくり窺ってしまいます。


3.合理性の追求

 離れて暮らすことになった親子について、それぞれの立場において合理性を求めることになります。


 同居親は、別居親に対して例えば「どうせ子どもを愛してくれないだろう」、「自分よりも愛されるのは、子どもを奪われたような気がする」、「離れて住んだほうが幸せになるはずだ。」という観点で物事を見ることになります。そうするとなかなか親子交流(面会交流)の実施をさせないぞという心理になりがちです。また親子交流があったとしても子どもが笑顔で帰ってくるとなれば、“自分よりも良い関係性になってほしくない”という本心では無い気持ちを抱いてしまうことがあります。周りの家族とも比べてしまうことがあり、なんとか打ち消すための合理性を見出そうとしてしまいます。


 一方、別居親に関しては、子と一緒に過ごすことができない現実を受け入れることになり、相当な苦痛と葛藤を抱きます。別居親は、同居親に対して例えば「突然離れることになって怒りを感じる」「子どもを支配させられてしまうのではないだろうか」「親子でいられなくなるのではないか」という観点で物事を見るようになります。子どもを育てることが出来ないことに対する複雑な心境に落ちります。時間の経過とともに無力感も大きくなっていきます。そこに対して解決手段の合理性を見出そうとします。


 子どもは、親の対立構造をみたいとは思っていません。なんとか修復しようと試みることがあります。しかし、子どもの立ち位置というのは一番弱く、気持ちを素直に表現するとなれば、周りから否定されるかもしれないという想いが芽生えてくることがあります。その怖れから本当の気持ちに蓋をして合理性を探すことになるのです。修復の過程のおいては、どちらにも良い顔しなければいけないことから”嘘をつきとおす”こと覚えてしまうかもしれません。だれか傷ついても自分のためであれば嘘をついてもよいというように錯覚してしまうと、思いやりのある性格とはかけ離れてしまうので、できる限り正しい認知をさせるということが努力目標となっていきます。


4.自己肯定感の低下

 双方の親同士の連携が消極的な姿勢になることによって、子どもは苦しんでいきます。同居親が引き起こすことだけではなく、別居親が引き起こすこともあります。子どもは、片親のことを悪く言うシーンに直面すると非常に混乱します。本来、子どもにとっては、親というのは、子どもにおいてのルーツでもあり、心の一部にもなっています。そこに迷いが生じてしまうことで、子どもながらに身の振る舞いとして何も定まらないわけです。大人と違って似たような境遇な人に探そうとして会えるわけでもなく、人生経験の短い中で物事を捉えています。その視野が狭い範囲では、今後も何か辛い、悲しいことが起きているのではないか、それは自分が悪いことをしてしまったのではないかという負の感情を抱くことにもなるでしょう。もっと幼い年齢であれば、周りの大人の言葉をそっくりそのまま聞き入れて、復唱します。疎外感の中で生き続ける子どもこそが一番辛い状況になっています。これが自己肯定感の低下につながっていくのです。この自己肯定感の低下こそが、他人との関わりに対しても冷淡になりやすく、「相手のことはどうでもいい」という見放してしまうこともあります。このようなとき物事を白黒つけてみる傾向があり、一つの塊として「絶対良い」か「絶対悪い」というような全てを決めつけてしまうような発言も多くなります。


5.片親疎外の進行

 初期である軽度の片親疎外としては、子ども自身が親子の関係性を修復しようと試みる状態にあります。まず愛されているかどうか直接的あるいは間接的にそれぞれの親へ確認することになるでしょう。低年齢であれば、引っ付くなどの行動に出ます。またわざと親を拒否するような言動を図ることによって、反応を見ながら愛情を確認するということがあります。


 しかし中度の片親疎外では、片方の親と接することが難しい反応が出てきます。心から喜んでいる表情にはならないのです。幼児においては「会いたくない」と心を閉ざしてしまいます。また状況が改善されないままだと不安定な気持ちが高まり、家出や不登校になることもあります。またそのような家族関係になったことを大きく恨むこともあります。


 重度の片親疎外では、人間関係の遮断です。意思疎通をするということが困難になります。強く自己を否定し、時には攻撃的な態度を続けるといった行動がみられるようになります。また肯定感の低さから、生きることに対して悲観的な様子を示すことがあります。困難が起きても粘って取り組むことができなくなります。



6.片親疎外の認知と罪悪感

 子どもの変化については、周囲の大人たちにシグナルが気づくことができます。しかし状況を知っている中で必ずしもカバーできるとは限りません。その理由として、第3者が子の周りにいると、このような片親疎外の症状が出ているのだから子どもが可哀そうではないか、もっと(物事の分別なく)甘やかせてしまったほうが良いのではという認知のバイアスが生じるケースもあり、際限があまりなく自由という経験(野放しのようなフリーにさせてしまう)を与えてしまいます。この経験は、我が通せる“わがまま”ということになってしまうと、子どもが社会に出たときに苦味を味わって喪失することがあります。なかなか独り立ちができないことになり、自己判断に対する責任感の欠如を形成してしまったという結果をもたらします。重要な進路選択について自信をもって決めるというのが難しくなります。誰かに依存しないと気質になってしまうかもしれません。直観力のある親であれば、子どもが片親疎外になっていることに気づき、罪悪感を抱えながらも更に合理性を強く求めてバランスを取ろうとするかもしれません。その姿を悟られないようにするため、子どもを会わせたくないという心理的行動を取る人もいます。また親同士も会うことができないというように決めつけてしまいます。


7.片親疎外からの抑制

 片親疎外を抑え込むためには、子どもの気持ちに寄り添うことが第一です。何も言い争いをすることを望んでいるのではないはずです。もし主導権を握りたいという親がいれば、子どもは違和感を感じています。そこに衝突を避けようとする姿を見せていれば、子どもの不安な心を抑制させることができるはずです。特に低年齢においては、一方の親を拒絶するという姿を見せないことが重要です。年齢を積み重ねることにより、自然と拒絶している理由とは何かということを自発的に聞くようになるまでは、片親疎外にならないようにきちんと心理サポートしてあげることが大切だと思います。


8.片親疎外からの自力回復

 片親疎外である状況を客観的に子ども自身が気づいていくことがあります。親の本当の気持ちはどうであったのだろうかということが気になり始めます。遅かれ早かれ、葛藤した中でも落ち着きを取り戻し、今でも苦手意識のある関係性があるのだろうかという疑念が浮かぶことがあります。それは自我が強くなると、親と子は別の考えがあるというふうに切り離して心情を捉えるようになるからです。直接的に葛藤を目の当たりにしていなければ、本当の真実を知りたいという心が芽生えるかもしれません。子ども自身が葛藤したという経験の反動によって安定した基盤になるためにはどうしたらよいかということを強いプレッシャーとともに将来を意識することになるでしょう。そのとき、そっと子どもの気持ちに寄り添って背中を押すことができることが、片親疎外に対する回復へのプロセスを担うはずです。子どもは双方の親が完璧ではなく、それぞれ違った個性があり、尊敬する部分や相違する部分があり、個々の関係性の結びつきだということが分かっていきます。


9.現代における社会の問題点と提言

 片親疎外に関しては、心理学のアプローチからすると長期間にわたって傾向として現れる性質があり、数年の経過だけでは特徴を把握することが難しい状況となっています。片親疎外を低減させるための親子交流(面会交流)であるはずの場が、十分に確保されていないということが問題であり、本来は自然とつながっていくことがケアになるはずが、そのようなケースがあること自体を隠してしまう慣例主義に基づいていることが多々あります。子の利益に焦点を当てると、否定や悲観をするのではなく良好な関係性に向けて努力しつづける雰囲気が出るような環境が整っていくことを最大の利益として取り組んでいくほうが望ましいはずです。少なくとも義務教育の段階でもっと人間味あふれる家族愛があるということを学び、ロールプレイなどで様々な立場をシミュレーションしながら多様性を尊重していくことが大切であり、持続的な人間関係の結びつきを強めていくことがこれからの日本全体の幸福感を高めていくことになると思います。


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