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☆血やケガ苦手な方は、読まない方がいいかも。つなまよも血は苦手です。妻がどうしても書いてほしいとのこと。ちなみに今やおかげさまで妻の指はバッチリ元通りです。
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妻が包丁で指を切った。

料理に慣れている妻には珍しいことだから、疲れていたのかもしれない。夕飯の準備中に葉物野菜を無心で刻んでいたら、左手の親指を包丁で切ってしまったらしい。

切り口は爪からその下の皮膚にまで至っていて出血もひどかったので、とりあえず絆創膏で指先を被せるように止血した。

なんというか、その日は傷を直視するのも怖いし、見えないように(見なかったことに)したのだった。

正確にはどこが切れたのか見えない(見てない)ものの、妻は指をくっつけるように押さえて、寝るまでの間手を心臓より上にあげていた。

次の朝、妻は痺れがないか叩いて確認していた。

痺れはなく、痛いが指はちゃんと動くらしいということで妻も私も、いつも通り仕事に向かった。ちなみに妻は保健師/看護師であって、血やケガが得意(?)らしい。

仕事を終えた夕飯後、妻は絆創膏をとった指をじぃっと見つめていた。

「あー、あと5mmだよ。あと5mmで指切断だったよ。怖いねー」
「…え?」

妻は笑いながら、半ば独り言のように私に言った。こんなにも冷静に傷口を見る人がいるだろうか。怖いのは妻の方である。

「指が段差になってるよ。指のつけ方間違えたかなー。段差だよ、ダンサー。」

妻はケガをしたショックでちょっとおかしくなったのかもしれない。

指のつけ方?に突っ込んでいいのか、ダンサーにツッコめばいいのか、私は戸惑うばかりである。

爪の上から切ってしまったため、爪の部分がズレて段差になっているように見えるらしい。

指はちゃんと動くし、もちろん繋がっている。

「あー、怖い怖い。怖いけど、傷口ずっと見ちゃうねー。見たくないけど見ちゃうねー。職場でも『それは安静でしょ』って言われたよ」と妻はなぜか誇らしげな笑顔だ。

いや、笑ってる場合ではなく病院に行ってはどうか。

「いや、病院は怖いから。触られるの痛いし。爪剥がされたり、傷口広げられたら嫌だなぁ」

そんな暴力的な医者がいるものか。

そういえば妻は殺人事件や解剖の場面を観ながら、料理をするんだった。と私は今更ながらに思い出した(エッセイ「妻とサスペンス」参照)。妻は自分の傷すら冷静に見られるのだ。

後日、もう一つ困ったことがあった。

怪我をした指がとんでもなく臭い、ということだ。

爪に段差はあるものの、結局指もちゃんと動くし傷もふさがってきたようだし、結局妻は病院には行かず、絆創膏で済ませていた。

一日中貼っていた絆創膏を風呂上りに外すと、絆創膏と指が臭い。猫たちはかわるがわる指を嗅いでは、普段はなめない指をなめている。ある猫は絆創膏を嗅いでは、熱心に埋める仕草をしていた。

妻は呟くように言った。

「ゆびが…くさい。腐ってきたかもしれない」

妻が腐る。それほどおそろしいことがあるだろうか。

妻のゾンビ化。

バイオハザードというよりは、ドラクエの「くさったしたい」になった妻が頭に浮かぶ。くさって、指には段差ができている。

いや、ここまでくると指のけがや爪の段差などはもはやどうでもいいが、事の発端なのだから仕方ない。

次第には、私も腐ってきて「くさった夫婦」になるのかもしれない。

そんな事態を避ける為にも、妻の指が早く良くなってくれることを願うばかりである。

鳥山明先生、追悼。

(追記)
今回少しよかったことというのもあって、それは普段は妻に任せることの多い料理を一緒に作る機会が増えたこと。

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2024年3月3日執筆、2024年3月10日投稿

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