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映画『さらば、わが愛 覇王別姫』ー旧ジャニーズ・宝塚のオタクが観た感想

こんにちは!
先日、素晴らしい映画を観てきました〜!

タイトルは『さらば、わが愛/覇王別姫』

1993年公開の中国映画です。
あらすじはこちら。

京劇の俳優養成所で兄弟のように互いを支え合い、厳しい稽古に耐えてきた2人の少年――成長した彼らは、 程蝶衣(チョン・ティエイー)と段小樓(トァン・シャオロウ)として人気の演目「覇王別姫」を演じるスターに。女形の蝶衣は 覇王を演じる小樓に秘かに思いを寄せていたが、小樓は娼婦の菊仙(チューシェン)と結婚してしまう。 やがて彼らは激動の時代にのまれ、苛酷な運命に翻弄されていく…。

https://cinemakadokawa.jp/hbk4k/about.html

この映画のことは、たまたまSNSで知りました。
主演のレスリー・チャンさんの没後20年特別企画として劇場公開される、とのこと。
それまで作品やレスリー・チャンさんのことすら存じ上げなかったのですが、ポスターの美しさに衝撃を受けて。
最近、蒼穹の昴やキングダム、パリピ孔明など中国物って楽しいな〜!と好んで触れていたのもあり、「なんか絶対見た方がいい気がする」と直感!

そして今、このタイミングで観るべき作品だったんだなって強く思っています。



ではここからネタバレしながら感想を書いていきます〜!
現在、ニュースとなっているセンシティブな話題にも触れます。
not for meな方は目を瞑って下さいね。


一言で言うと、めちゃくちゃしんどい。笑
作品の素晴らしさ故、終わった後ズーーーン…としばらく引きずってしまった。

舞台は1920年〜1970年代、激動の時代の中国。
清国が滅んでまもなくの中華民国、そして中華人民共和国へ移り変わっていく。
日中戦争や文化大革命など、言葉は知っていても実際どんなものだったか、教科書では知り得なかった歴史を知る事ができたのも良かったです。

蝶衣と小樓、2人の少年はどう成長し生きるのかーというより、時代の流れの中で、こう生きざるを得なかったという現実を突きつけられた感じ。
また、舞台という華やかな世界(この作品でいうと京劇)はこんなにも不安定で脆く、そこに立つスター達もまた光と影に晒される弱い存在という事を痛感させられてしまう。

このあたりを余計な誇張せず、淡々と描いているのでめっちゃしんどい。
どうしても、今の旧ジャニーズ・宝塚に重なってしまって。

これって『今』の話じゃん

物語は蝶衣と小樓が小豆子と小石頭と呼ばれていた子供時代からはじまります。

娼婦をしている母親に、孤児や貧しい子供達が預けられる京劇俳優養成所へ置き去りにされた小豆子。
ここでは虐待とも言える厳しい修行と体罰が待っていました。

他の子供にいじめられていた小豆子を庇ってくれたのが、小石頭。

母親に捨てられた幼い小豆子が小石頭に特別な感情を抱くようになっていく様は自然で、ここに小石頭がいてくれて良かった…と初っ端からヘビーな物語が展開される映画でほんの少し緊張がほぐれた瞬間でした。

にしても、『修行』の場面は観るほど辛くなるもので、力や権力を持つ者(師匠達)が弱者(子供達)に暴力を振るう姿は酷く目も当てられないほど。
小豆子と一緒に脱走を図った小癩子が罰に恐れ慄き首吊り自殺をしてしまう場面も、あまりにも淡々と描かれており、これが『日常』であったのかと思わせられる。

時は流れ、女形として鍛え上げられた少年・小豆子、男形の小石頭は、権力者の前で京劇を披露するチャンスを得ます。
この権力者、若き頃は宦官として清朝に支え、西太后ともよく京劇を観劇していたというとても目の肥えた老人。
成功すれば一躍スターになれるチャンス、失敗すれば一座もろとも破滅しかねないという、一世一代の大勝負。

見事『覇王別姫』の大王と姫を演じきった2人は好評を得て、楽屋は歓喜に包まれました。
しかし安堵も束の間、ここで小豆子は何者かに連れ去られてしまいます。

着いた場所は、あの権力者の老人の部屋。
小豆子は逃げようとするも、押し切られ慰み物にされてしまう(と想起させられる)のです。

ここはもう、この老人がどうしてもジャニー喜多川氏に見えてしまって感情のやり場がなかった。
酷すぎると。
この場面を最後に時は一気に流れ、小豆子は『蝶衣』、小石頭は『小樓』として、スターに登り詰めた場面へ転換します。
きっとあの老人が、2人を押し上げたのでしょう。

この老人も元宦官なので清朝では搾取される側だったに違いありません。
そもそも身体の一部を奪われていますから。

そう考えると頭の中がゴチャゴチャしてきてもう、オエーーーーーッって感じだったんですけど、やはり誰かが誰かの尊厳を奪う事や暴力はあってはならないと強く思いました。
権力をかざすなんてもってのほか。

そんでもって「同じような事がつい最近の日本でも起こっていたのか、私の推しグループのいる事務所で…」とどうしても考えてしまい改めてしんどくなった結果更にオエーーーーーーッってなってしまった。

この後、大人・そして京劇役者としてスターになった蝶衣は、最後まで何かしらの力を持てたわけではありませんでした。
むしろ時代の移り変わりによって変わる時の権力者の前で、どんな情勢でも弱者である事に変わりないという現実が描かれており、つらかった。
そして、現代も何ら変わらないじゃないかと実感してしまい、悲しかった。


レスリー・チャンさん、とてつもないな

いきなりしんどい感想ばかり書いたので、うっとりした感想を(笑)

子供・少年時代が終わり、蝶衣役レスリー・チャンさん、小樓役チャン・フォンイーさん、そして小樓と結婚する菊仙役をコン・リーさんが演じています。
皆さんお芝居がま〜〜〜素晴らしい!!!
ドラマティックになりがちな設定・ストーリーだと思いますが、生々しさが画面中に立ちこめてて、役なのか本人なのか分からなくなるほどのリアリティ。
ノンフィクションと言われても疑わないと思う。


そんであの、レスリー・チャンさん…。
美しすぎる!!!!!!(急にオタクムーブ)

京劇の場面はどれも息を呑むのも憚れるほどの美しさ。
蝶衣が袁四爺と庭で剣を持って戯れるあのシーン、月光に照らされた剣を首にあて涙を流す蝶衣の儚さ。
小樓の隈取りを描く時の瞳と手の艶っぽさ。
アヘンに溺れてしまう姿の色っぽさ(金魚揺らめく水越しに映るあの絵、えっちすぎませんか?!)
そして最後、自刃する時の表情には艶めかしさが匂い立つかのようでした。
画面から、化粧や髪の香りがしてきそうなほど。

そもそも全ての場面の色彩が綺麗。
人間の汚い部分も描いている作品なんだけど、生々しい汚さでさえ美しく見えてしまう…
中国史や京劇を知らない方でも一見の価値アリ!!
(私もそんな詳しくないし…笑)


今まで観た映画で1番、めっちゃ愛憎劇

あらすじのように、物語は小樓に秘かに思いを寄せていた蝶衣、小樓と結婚した娼婦・菊仙3人の愛憎劇になっていきます。
それぞれのキャラクターが人間らしくて、面白いので3時間の上映時間もあっという間!
全部あらすじを書くとそれだけで記事が終わるので、ぜひ映画を見ていただきたい!(笑)
あくまでここが作品の本筋!(笑)

蝶衣と菊仙がはじめ小樓を巡ってバチバチなのですが、年齢を重ね時代が移り変わると共に、その関係性が微妙に変化していくところが私は好きでした。
アヘンの中毒症状に苦しむ蝶衣を菊仙が抱き止め、背中をさすってあげるところはジワ…と心が温かく、そしてなぜか胸が苦しくなりました。

小四によって役を降ろされ、楽屋を立ち去ろうとする蝶衣に声をかけるのも菊仙。
そして蝶衣の「ありがとう、姉さん」。
この2人にも単純には言い表せない、だけど精神的な繋がりのようなものが生まれていたのだとグッときました。
プライドが高く、かけてもらった衣装を捨て去っていく彼もまたらしくて好き。


彼らだって同じ『人』なんだよ

故に映画終盤、蝶衣と小樓の罵り合いに菊仙も巻き込まれ、絶望した彼女が選んだ道がめちゃくちゃ辛かった…。

文化大革命の嵐が吹き荒れ、京劇は堕落の象徴として、弾圧されていきます。
民衆は蝶衣と小樓を捕え、大勢の前で罵声を浴びせ、互いに自己批判するよう迫るのです。
一時、民衆は彼らスター達に希望を見出していたのに、手のひらを返して中傷していく。
彼らのおかげで美味しい思いをした人達でさえ、保身のために裏切っていく。

民衆の前で罵り合いを始めた蝶衣・小樓は半分嘘、そして半分本気で、互いを批判しヒートアップしていきます。
菊仙まで裏切った小樓にはもう子供の頃の面影はなくてショックだったけど、そうせざるを得ない状況にまで追い込まれた事が切なかった。

ここも、旧・ジャニーズのタレントの現状がチラついてしまい、余計に辛かったです。
様々なメディアで持ち上げられスターの扱いを受けていたのに、突如批判の対象となれば中傷や排除の対象となる。
彼ら自身は何ら罪はないのに、報道番組でジャニー喜多川氏やについてコメントを要求される。
この映画を観て、旧ジャニーズに限らずタレント達の立っている場所の地盤の弱さを痛感させられてしまいました。

いつだってエンタメは、時代に翻弄されてしまう。
序盤の日中戦争開戦時のシーンで、民衆が「この非常事態に公演をするのか!」と蝶衣達に叫ぶシーンがあります。
この言葉も、聞き覚えがありすぎました。
直近のコロナ禍、演劇業界関係者が不要なものだと言われ続けていた時です。

今、エンタメ業界で生き、私たちに光を見せてくれる方々の心は、守られているのでしょうか?
改めて、考えさせられる映画です。

文化大革命が終わり、11年ぶりに再会した蝶衣と小樓は、2人だけで『覇王別姫』を演じ始めます。
そして、劇中の虞美人のように蝶衣もまた、小樓の腰から刀を引き抜き、自らの命を絶つ。

映画を見終わった後、改めてレスリー・チャンさんについて調べてその最期を知った時、悲しみのどん底に突き落とされてしまいました。

人間は世論や噂話で、感情を揺さぶられ一喜一憂してしまう生き物だと思います。
それが原因で、話したこともない誰かに負の感情を抱いてしまう事もあると思う。
批判する事を否定するわけではありませんが、事実だと確認取れていない事や人格の否定を表立ってするような事はしたくない。
SNSは立派な公共の場なので、慎重に使っていきたい。
自分がなにものかによって踊らされていないか、見極め、考え、行動できるように。

そう改めて考える、大切なきっかけになりました。


長文かつほぼ暗い感想になってしまいましたが、とにかく素晴らしい映画なので迷っている方はぜひ観てみてくださ〜い!

ここまで読んで下さり、ありがとうございました!





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