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グッズデザインから大好きな島と大好きなカフェの未来に一歩ずつ

最初にお話をいただいたのはもう2年以上前。大阪から岡山県の犬島に移住した友人夫妻が自宅の庭にカフェを開設するとのことで、ぜひともロゴをデザインしてほしいとの依頼だった。



友人夫妻に誘われて犬島には2度訪れていた。穏やかな瀬戸内海に囲まれた、住民が30人ほどの小さな島。

コンビニもスーパーも薬局も信号もない。刻々と色を変える海と空、塩気を含んだ風の触り心地、遠く揺れる木々の声、船の往来だけが時間の流れを教えてくれる。瀬戸内の滋味たっぷりの魚と温暖な気候で鮮やかに色づく果実、愛情たっぷりに育てられたお野菜が友人宅の食卓を彩る。

島にはかつての製錬所の遺構を利用した大きな美術館があり、敷き詰められた煉瓦の壁の向こうに海を望めば、非日常にいざなわれると同時に、この島が抱えてきた歴史の重みが去来する。


同じ旅先を選ばない私が短期間に2度訪れるくらいに、私は犬島が好きだった。せわしないスケジュールや突然降りかかる理不尽に傷ついた心身を何度癒してもらっただろう。島でのおもしろいエピソードを語りながらもてなしてくれる友人夫妻も、船着き場で手を振って見送ってくれる島の人たちも、いつでも寛容に待っていてくれる自然も、大好きだった。

デザインの経験もない、デザインソフトも使えない私だけど、おふたりの夢に少しでも貢献できたらと、二つ返事で依頼を引き受けた。

おふたりにお店の構想をヒアリングし、10種類以上のデザイン案を作成。Googleに助けてもらいながらIllustratorでデータ化、デザイナーの妹のアドバイスをもとにブラッシュアップして、人生初となるロゴを完成させた。

『カフェスタンドくるり』ロゴ


『カフェスタンドくるり』ショップカード


『カフェスタンドくるり』と名付けられた店は、主に美術館などのアート施設がお休みの日に営業する。アート施設の営業日を知らずに訪れた観光客にも思い出を持ち帰ってほしい、島の人たちの交流の場になってほしい、「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」が似合う場所にしたい、島とその周辺地域の人・もの・金がくるりと循環するお店にしたいという願いが込められている。ロゴも「KU・RU・RI」のローマ字がそれぞれカフェに集う人々の笑顔をかたどっている。


そして、今回このロゴを使用したグッズを展開するとのこと。再びお声を掛けていただき、久々にデザインソフトを立ち上げた。

まずは、おふたりにグッズにするアイテムを選んでもらい、完成イメージを伺う。要望に合わせてデザイン案を作成し、打ち合わせを重ねながら、希望にすり合わせていく。

デザインソフトにも慣れてきたし、すでにロゴという素材がある。なんだったらこのグッズ展開を見越して、KU・RU・RIを分割しても使えるデザインにしたのだ。ゼロから1をつくりあげるよりはずっと気楽なのでは。なんてちょっと見くびっていた自分を特大ハリセンでしばきたい。


最近は、おしゃれな雑貨やオリジナルグッズを並べるカフェも増えた。淹れたてのコーヒーの香りに包まれながら眺める商品はどれもとってもかわいい。豊かな時間を過ごしているなあなんて気分にもなる。だけど、私、それ、買ったことない。

わざわざ形に残さなくても、カフェで過ごした時間と舌に残るおいしい!感動だけでステキな思い出として完結しているのだ。

こりゃ、ロゴをぽんっと配置して完成、というわけにはいかない。単なるカフェグッズとしてだけでなく、犬島のおみやげとして手に取りたくなるようなエンタメ性と、今すぐ使える実用性が必要だ。インスタで見て、友人が使っているのを見て、グッズに興味持ってもらうところから、島の賑わいにつながるような仕掛けづくりを考える。

おふたりの希望とこちらの提案をミックスして、我ながら納得の3アイテムが完成した。「くるり」のやわらかく開放的なイメージはそのままに、お店を知らない人にも愛用してもらえる仕上がりになったと思う。

①ステッカー 全6種


『カフェスタンドくるり』Instagramより
都村のスマホケースにぴったり

スマホケースに挟んだり、ノートパソコンに貼ったりと、近年一気におしゃれアイテムの定番に躍り出たステッカー。シンプルな白と黒に、店主手づくりの販売小屋をイメージした木目柄を用意。ステッカーの丸とロゴのまるっこいフォルムが相性抜群。

そこにもうひとさじエンタメ性を加えたくて、看板メニューのアイスクリームをイメージした3種を追加。ぜひ注文したほんもののアイスとステッカーを一緒に撮ってインスタに上げてほしい。「くるり」さんのアイスは種類豊富で毎回迷ってしまう。遊びに行かせていただいた時にも、メニュー表の前でずーっと悩んでるお客さんもいるよと教えてもらった。胃袋の容量上あきらめたフレーバーをステッカーでテイクアウトするのもおもしろいかも。

背景は淡いマーブルに。色味や柄のサイズ感を微調整して、主役のロゴを引き立たせるように意識した。アイスの3種はロゴのカラーを濃い茶色に。統一感としずる感を演出。


②手ぬぐい 全4種

『カフェスタンドくるり』Instagramより

海に浸した足を拭うもよし、散策しながら汗を拭うもよし、船で濡れてしまったカバンを拭くもよし、包装紙代わりにおみやげをくるむもよし。購入後即開封で、使い勝手抜群のアイテム。

手ぬぐいに関しては、くるりのおふたりから「KU・RU・RI」をばらばらに散らしてほしいとのリクエストがあり、はじめからイメージは決まっていた。素材や染め方に似合うよう、日本の伝統的な柄を彷彿とさせる規則的な配置に。

とはいえ、元のロゴは正円ではないため、デザインソフトの機能で均等に並べると余白がちぐはぐに見えてしまう。そこで1匹(?)ずつ目分量で気持ちいい位置に並べていくことに。同じ柄が同じ向きで並びすぎないよう時には入れ替え、時には回転させ。

特に難しかったのはパソコンの画面上では手ぬぐい全体を実物大で見られないこと。何度も印刷して紙を貼り合わせ、ロゴのサイズ感や余白などのバランスを見ながら、再び画面上で整えるの繰り返し。手間暇かけた分、愛おしさもひとしお。

カラーは「くるり」のおふたりに選んでいただいた。用途を選ばないシックなネイビーに、ワンポイントで映えるキュートな赤、ほんのりブルーがかった爽やかなグリーンは犬島の澄んだ空気を思い出させてくれる。


③Tシャツ S・M・L

ブラウスと重ね着。ロゴはほんのり茶色
目を引くポップなイラストがかわいい(自画自賛)

スタッフの制服としても着用していただいているのだが、デザインは普段づかいのしやすさを重視。衣服の文字には強いメッセージ性を感じてしまうので、ロゴの「くるり」の文字はなくして、シンプルに。「くるり」のおふたりのセレクトで、丸いロゴのイラストに対応するように、袖にアイスのイラストを3つ並べた。

シンプルさを重視した分、イラストは小さくなる。描きこむほどかわいくリアルになるが、細かなデザインはインクのカスレやにじみが出やすい。かわいさも保ちつつ規定の線の太さに収めるために、何度も描き直した。

袖のワンポイントは左に入っていることも多いのだが、小屋の中から商品や金銭をお渡しするときにちら見えするよう、おふたりの利き手である右に入れた。ご購入いただいた方には、おそろいで袖のイラストを並べて自撮りしてもらえばかわいいと思う。中にブラウスやシャツを入れてもいいし、オーバーオールなどを重ねてもカラフルなアイスがアクセントになる。2か所に印刷を入れることで、コーディネートの幅も広がった。


同じひとつのロゴを入れるといっても、アイテムごとに生かし方はさまざま。だれに、どんなふうに使ってもらうかまで想像しながらつくりあげていくグッズの世界って奥が深い。

商品は現在『カフェスタンドくるり』さんの物販小屋にて販売中。来島前にHPやインスタなどで営業日と季節ごとに変わるメニューをチェックしてほしい。


こうして「ロゴをグッズに」とお話をいただけるのは、これまで「くるり」のおふたりがロゴを大切に育ててくださり、お客さまが愛してくださったからに他ならない。まだ制作中のアイテムもあるし、おふたりの移住からカフェ開店、島の活性化に向けた取り組みにかける思いを綴るZINEも発刊予定。

一歩一歩、私なりの形で「くるり」と犬島にお返しししながら、チャレンジを続けたいと思っている。


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