ポジティブVSネガティブ、犬も食わない喧嘩
唐突に書きたくなった。
「男が女に勝てるわけがない」、そういう話を。
「おはようムラサキくん! 良い天気だね!」
「……カーテン開けないで……陽の光を見たくない」
「はぁー!? だって今日は土曜日だよ? 1週間にたった2日しかない休日! しばらくは連休もないし、折角晴れてるんだしさ、どっか行こうよ、ねえねえ、気分転換に!」
「転換したところで僕がネガティブなのは変わらんだろ。それより暗黒と静寂をくれ」
「厨二病かよ!」
「頼む、2時間でいいから」
「ええー、午前中終わっちゃうじゃん! 折角の休日なのに勿体ない、起きてよー!」
「無体なこと言わんで、これガチのやつだから」
「だってムラサキくん仕事しかしてないじゃん。何で疲れることがあるわけ?」
「(ビキッ)……その仕事が嫌なんだ、何回も言ってんだろ」
「何で? 行ってやることやって帰るだけじゃん? 何がそんなに疲れるの?」
「(ビキビキッ)……本当は行きたくもねーんだよ」
「そんなに嫌なら転職すれば? 私だって、これ今までに何回も言ってるよね?」
「(ブチッ)うるせぇな、この話は終了。ついでに僕らもこれにて終了だ。次は価値観の合うやつを探せ」
「えっ何、何で怒ってんの? 私何か間違ったこと言った?」
「黙れ。寝かせろ。この部屋から出ていけ」
「はー!? 心配して来てやったのに意味わからん! ムラサキくんの悪い癖がまた始まった! もう知らない、浮気してやる!」
「好きにしろ。僕もヤるだけならうるさくない女のほうがいい」
「バーカ! もう知らない!」
(彼女が去った後)
「やべえ、言いすぎた。気になって眠れねぇ。何で僕がこんな目に……元はといえば、あいつが休日にアポなし凸してくんのが悪いんじゃねぇのかクソ。
つーか寝れん……どうしてくれんだ……」
(月曜日)
「おはよームラサキくん!」
「あ? ああ、おはよう」
「何その眉間の皺! まだ怒ってんの?」
「いや、別に怒ってはねーよ。疲れてるだけ」
(つーかこいつは怒ってねーのか?)」
「あんなに寝たのにまだ疲れてんの?!」
「……(寝てねーわアホ、お前のせいだ)」
「はぁ……自責の念で眠れなくなるくらいなら、初めから暴言なんて吐かなきゃ良かったでしょうに」
「な、何で分かった?」
「顔がそう言ってる」
「……」
「ねー、ところでさぁ……謝って?」
「は? 何を?」
「何をじゃないでしょ? 出ていけとか、うるさくない女とやりたいとか……私めっちゃ傷付いたんだよ? ちゃんと謝ってくれなきゃ許してあげられないなぁ」
「(なんか微妙にニュアンスがねじ曲がってる件)
でもそれは、元はと言えば……」
「何、私が悪いの?」
「(うわめんど、これ謝んねーと一生続くやつだ)
……ごめん」
「心がこもってない! もう一回!」
「ごめんってば」
「うーん……なんか投げやりな感じだね。本当は自分が悪いなんて欠片も思ってないんでしょ?」
「(頼むからそこは突っ込まないでくれ……)
いや、そんなことはない」
「ふーん? まいっか。次の土曜日、ムラサキくんの運転で海に連れていってくれたら許してあげる」
「条件増えてんぞ。謝れば許すんじゃねーのかよ」
「そんなこと言った覚えはないよ? 昨日買ったばかりの新しいビキニ、見たくないの?」
「(見たい)見たい」
「でしょ? ムラサキくんが好きそうな、めちゃくちゃセクシーなやつ(満面の笑み)」
「(見たい)見たい」
「そうでしょ? だから来週こそ、私のことちゃんと構ってね? お願いだよ?」
「……ごめんて。本当に悪かったよ」
「やっと心底反省してくれた! じゃあまた来週ね!」
「……(クソ、まんまと言いくるめられた。性欲に逆らえない自分が悲しい)」
「あっそうそう、私の方もごめんね? ムラサキくんはいつも頑張ってるのに、「仕事してるだけ」だなんて、私も結構ひどいこと言ったよね。
辛い時は、有給とって休んじゃいなよ。どうせ余りまくってるでしょ。そんで、土曜日は2人で思いっきり楽しもうよ。ね、ムラサキくん?」
「お、おう……」
(彼女が去った後)
「あいつには勝てる気がしねーな(満面の笑み)」
(スマホを取り出し、電話をかけ始める)
「……もしもし、あ、係長。朝から失礼します。申し上げにくいのですが、今日は朝から胃の調子が悪く……ええ、そうなんです……はい、そうですね、出来れば本日1日お休みを頂けないものかと……あ、よろしいですか。急な話で大変申し訳ありません、ご心配を……いえ、あの…………ご心配をおかけして申し訳ありません……はい……ええ、失礼します」
(電話を切り、晴々とした顔で、来た道を歩いて戻り始める)
「とりあえず、帰って寝よう。起きたら久々にビデオ屋でAVでも物色しよう」
(ムラサキの頭は、恋人のビキニ姿のことでいっぱいになっている)
「早く土曜日にならんかなぁ」
(ムラサキ、帰りの電車の中で、中吊り広告のグラビアを見ながら舌なめずりをする)
(了)
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