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どうやらお店は17時半開店だったよう。
スマホの画面を見ると17:28と表示されている。
「近くにコンビニあるかなあ。」
そんなことを言って店前から足を外そうとすると、すれ違いの同年代に見える女の子二人組が開いてる〜と言いながら角先に消えていく。
私たちは目を合わせてくるりと体の向きを変えた。

開店時刻前にも関わらず、二番目のお客さんになる。
先客の二人組とは1番離れたところに位置するカウンター席に案内された。
カウンターといっても机も席幅もゆったりとしたスペースが確保されていて居心地が良い席だった。


彼が先にメニューを取ったかと思ったら、私に渡してくる。はいどうぞ。
年下なのに年上のようなゆとりを持つ彼に幾度か小さな驚きを抱きつつ、私が頼みたいものを全部頼ませてくれた。
良いよ、なんでも食べるよ
ゆるく、高くない声がそう言う。
なんなんだ?その余裕、なんなんだ?お前本当に2つ下か??

私はすごい年下が苦手。というより、年上が得意なのかも。甘えやすいでしょう。これは異性関係なく、慕う方が楽なんだ。受身でいられるし、どーんと構える自信は持ち合わせていなくてですね。その割に(年の離れた弟がいるせいか)年下にはお姉さんぶってしまいアレコレ世話を焼いてしまう。それで、年下に慕われるんだけど。世話焼きキャラは自然と頑張って出るものだから、年下たちが見てる私は割と巨像的な部分がある、持続性0。こんな流れが度々起きるので、年下には苦手意識が強い。

だから今日も心配していた。相手がすごい話さないタイプだったらどうしよう〜、ぴょこぴょこ付いてくるタイプだったらどうしよう〜…。
そんな心配、一切不要だったみたい。お店に向かう時も、ズンズンという効果音が聞こえてきそうなほどな歩き方で私の前を歩いて行った。もしかしたら、他の女の子は隣を歩いて欲しいかもしれない。でも私は意外と、前を歩く人についていく方が好きだった。だっていつもみんなの前を歩くタイプだから。


特別って、良いでしょう。



注文し終わってから、少し経って頼んだお酒が運ばれた。私は角ハイで彼はジャスミンハイ。あまりお酒は飲まないそうだが、何度も美味しい餃子と一緒に個人のビールを飲めるようになりたいんだけどなあ!と嘆いていた。ビール苦いんだって。いいのに、お茶で。可愛いところが苦手な年下なのに、彼を可愛いなと思った。


食事を待ってる間、彼の話をたくさん聞いた。私は喋れるタイプだけど、聞いてる方が好きなのでこの時間が心地よかった。バイト先でお客さんのお兄さんに27歳に見えると言われたらしいけど、私もお兄さんに同意だよ。27歳に見えるよ。
彼はどうやらマイ包丁とマイ中華鍋を持っているらしい。お父さんに男はマイ包丁!とか言われて買ってもらっただとか。変わった父に育てられると、変わった子になるのか。良いな。
どうやら中華一通り作れて魚を捌けるらしいので、私はお菓子アピールするべきな気がした。しないけど。


餃子が運ばれる。鉄板の上に綺麗に並べられた14個の餃子の上には山吹色とベージュが混ざったような色の薄い皮が張っていた。一つ目は彼に食べてもらう。そしたらまた違う驚き、彼すんごい美味しそうに食べるんだ。私は人並み以上に誰かとご飯に行く機会は多いが、こんなに何かを美味しそうに食べるひとを初めて見た。
ちょっと!ご飯を美味しそうに食べるの、私の特技なんだけど!
私の食べっぷりもなかなか評判が高いが、絶対彼には勝てないな。
「ん〜〜〜っ、うんまっ!!!!」
そんなに美味しそうに食べられたら、何個でも頼んであげたくなる。
「そんなにおいし?」
続いて私もいただく。うん美味しい。どうやらここの餃子餡は野菜と肉の割合が1:1なんだとか。私の母と祖母が作る野菜餃子で育ってきた身としては、堪らなく美味しかった。それでも彼のように美味しさを表現はできない。完敗。

最後の一個までこの調子で食べ進めてくれ、見てる私が幸せだった。

ご飯を美味しそうに食べる私を褒める人の気持ちが分からなかったが、確かにこれは良い気分だ。


その調子で話したり飲んだり。
気疲れせず心地いい時間だったが、お酒が強くない彼は眠たそうに目を瞑っていた。 
「ごめん、合わせて飲ませちゃったね。」
「ううん、飲みたいから飲んだんだよ。」
時刻は7時半前だった。7時にはラストオーダーだったので、そろそろ出ようかと声をかけた。

満足いくくらい飲み食いして、お会計は格安といっても良い値段だった。落ち着いた雰囲気で、美味しすぎて、かつ安いなんて。
そんな良いお店に、変わったかっこいいおしゃれな年下と行けるなんて。
そんなことを考えながら、お店を出てふんわりと夜風にあたりながら二人で駅に向かった。

彼は変わらず私の前をズンズン進む。会話はしてるんだけど。彼は少し酔いを覚ましてから帰るそう。改札前まで送ってくれ、さよならをした。


改札にスマホをかざして振り返ると、彼もまた、体の向きを変える歩み始めていた。


残念。


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