小説-偶然とは。渋谷のとある月曜日

気持ちの良い夜だ。
人が想像の10倍少なかったライブハウスの真ん中で、私はまたしても一人涙ぐんでいた。
既にリリースされている曲は全曲歌える。だから歌えない曲が流れた事が嬉しかった。新曲だ。

東新宿から新宿までは、仕事の関係で歩いた事があったけど、新宿から東新宿まで歩いたのは初めてだった。たったの15分ほどしか歩いてなくてもこんなにも「ハズレ」感が出るのか。古いライブハウスがより一層その街の外れ感を演出したのだろう。

なんだか彼氏のことでモヤモヤするし、せっかく良い夜にお酒も継ぎ足したことなのでこのまま帰るのは勿体無いなと思った。
私のお目当てのバンドは4つ中3つ目に演奏。4つ目のバンドの演奏が始まる前にこの頃よく連絡してる友だち…の友達の男の子に連絡してみた。最寄りどこなの?と聞くとすぐに川越の方と帰ってくる。残念。
完全終演後、お目当てのバンドのニュー物販を眺めながら昼間連絡をとっていた友人にどこにいるの?と連絡。これまたすぐに返信が返ってきて、渋谷とのこと。お!と思った次の瞬間には「今は同期といるけど」とのこと。これは行けないなと思ったのに、向こうのメンズらもおいでと行ってくれるので電話して行くことに。
友達は二人ともイケメンだよというのでしっかりポーチに潜ませていたカラコンを渋谷のトイレで装着した。

バンドメンバーと可愛い声で話してそそくさとその地下のライブハウスを後にする。ラッキーなことに、東新宿から渋谷までは一本。副都心線だ。
着いて、シブツタ前で回収してもらう。本当にイケメンなら今日の格好はマズったなと思っていた。インディーズライブを見に行くもんだから、「下北のライブハウスにいる女のコスプレ」をしたのだ。新宿だけど。
でも会ってみると、、顔は皆整っていると思うがめっぽう私のタイプじゃなかったし、7センチの厚底を履いた私よりが一番身長が高かったから、まあ良いかとなった。
全員渋谷はよく分からないと言い、一件目に寄ったお店が満杯だったので適当にハブに入った。22時半頃の話だったと思う。

メンバーは、私の友人、友人の同期、同期の後輩、後輩の同級生…と、数珠繋ぎにも程があるだろうという面子だった。友人、同期、後輩の3人で表参道にてライブに行ってたらしい。偶然にもライブ繋がりだった。そして後輩と同級生は偶然喫煙所付近で会ったとのこと。偶然偶然偶然。

ここから先、ずっと適当だった。適当な酒を飲んで適当な会話をした。でも楽しかった。話題が結婚という抽象的議題だったから。あるあるな会話というのは、何度話してもその人それぞれに回答があるからあるあるなのだ。

同期が7年も付き合っている恋人がおり、結婚したいと言われているが彼自身は毛頭そんなつもりもないらしい。ある程度モテる東京住みの男が25歳で収まるわけがない。俺が同棲とか結婚できる気がしない。そう言っていたがこちらの台詞もあるあるだ。こういうやつは35くらいになってコロッと結婚するのだ。

私が話の主人公になる瞬間もあった。友人がやたら私を立てる。その上で、今彼氏がいることを話した。なんで今の彼氏と付き合ったのと問われ、私は自然と「何もかも普通だから」と答えていた。自分の回答にじんわり納得する自分がいる。おもしろい、と皆に言われた。
好きなタイプと真逆と言っても良い彼氏。
同期に「意外と2年くらいでまともなやつと結婚しそう」と言われたのは予想外だった。私がそんなに生き上手に見えたのは友人が煽ててくれたからに違いないけど、案外私もそんな気がしてきた。
最近はいろいろ受け入れ始めている。この1年弱で思考のコモディティ化が途端に進んだからだ。

会の合間、友だちと後輩、同級生がタバコで席を立ったときに、私と同期の二人きりの時間があった。そんな話はまるでしていないのにも関わらず、お互いがこの人とセックスできるなというのを声質と目の大きさで確信していた、と思う。少なからずこちらはそうだった。

所謂恋バナを進めていると、彼氏に出会う一つ前の男と同期が一緒に仕事をしているらしい。この世に会社員やアーティストは五万といるのに、事態が偶然が怖い。
会の終盤でインスタを交換する。若いなと密かに感心した。そのときに発覚した面白い事件。なんと友人と同級生は以前アプリで知り合っていたらしい。アプリからインスタに移行したところで終了し、実際に会ったのは近谷が初めてだという。何度偶然を重ねれば済むのだろうと呆れても良い夜だ。

今更だが、年齢は私と友人、同期が25になる歳で、他2人が24の歳だ。終電手前で年下二人を自然に返して、私たち3人は学大の方に移動した。私たちも終電ギリギリに搭乗。走る後姿を初めての人に見られるのは少しむず痒かった。

この後も適当な安居酒屋に案内してもらう。さっきよりも腹を割って…というか、時間相応の話題が盛り沢山で楽しかった。日本酒の出汁割りを飲んだ事があるだろうか?これが全く日本酒を感じなくて危ない。それ以上にすごく美味しい。どこでも出汁割りが飲めたらいいのに。

3時前頃まで飲んで店を出る。全てを割愛するが、“全くの偶然とは相対する位置の意味を持つ状況”にて、私は友人と帰らずに同期と帰った。
全ての偶然を引っくり返す必然。むしろ必然のために偶然が重ねられた。そしてこの必然に意味は何もない。

いや、意味を付与するならば、全ての出発点である彼氏の良さをより一層高めること、に違いない。

人生はどうしても繋がるのだ。こうして、繋がるのだ。偶然とは必然なのだ。

この記事が参加している募集

#沼落ちnote

7,098件

#この街がすき

43,289件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?