佃優河

メディアアーティスト・情報学専攻。ゴキブリを電気制御する研究が、総務省(異能vatio…

佃優河

メディアアーティスト・情報学専攻。ゴキブリを電気制御する研究が、総務省(異能vation)、コロプラ(クマ財団)などの支援を受ける。2020年、研究論文『Calmbots』が国際学会に採択。 趣味で文章を書いています。

最近の記事

メスガキの文法

【メスガキの文法】 我々人間は「〜ない」という言葉によって不在を表現できる。しかし不在の表現は人間に限ったことではない。猿は甘噛みをすることによって、本気で噛む意思が不在であることをメッセージとして伝える。しかし「〜ない」という不在の概念が、ジェスシャーで直接表現することはできない。音声言語においてのみ否定概念自体を表現できるのだ。 私に脳裏に電流が走り下腹部に雷鳴が響いたのはdlsiteの音声作品を聴いていた時だった。 「おにいさんって、情けなくて、よわよわ、ざぁこ♡」 「

    • 『生命記号論』を読みなおした後の散文

      私たちが科学の歴史をふまえて、環世界理論を解釈し始めるとすぐに、これまでばらばらだった物事が次第にあるべき所に落ち着き始める。環世界理論は、生き残るのは遺伝子、個体、種だけでなく、むしろ、翻訳のパターンであることを私たちに教えてくれる。ある生物にとっての環世界は、その生物が感覚を介して周りで起きるできごとや重要な局面を自分にとって不可分にしたものであって、その意味で生物による周囲の現象の征服であると見なすことができる。環世界とは生物が自分の視点から眺めた周囲の世界の表現、とな

      • 生物は禅をすることができるか?

        4月になってから、「仏教」「禅」「東洋思想」を基礎から勉強している。特に、密教、鈴木大拙、井筒俊彦を学んでいる。以下がここ一週間で読んだ関連書籍だ。 ・鈴木大拙『禅と日本文化』 ・鈴木大拙『日本的霊性』 ・末木文美士『日本仏教史 -思想史としてのアプローチ-』 ・枡野俊明『禅と禅芸術としての庭』 ・長谷川公茂『円空 微笑みの謎』 ・岡本健『ゾンビ学』 ・井筒俊彦『意識と本質 精神的東洋を求めて』 ・秋山昌海『仏像装飾持物大辞典』 ・秋山昌海『仏像印相大辞典』 これらの書籍

        • 鈴木大拙からまなぶ「禅」

          禅の教養は大乗仏教の一般教義と変わらない。ただし、禅の目的は、インド・中央アジア・中国においても、発展に伴って累積したすべての見解を除去して、ブッダ自身の根本精神と教えようとすることにある。発展に伴って累積したすべての見解は「皮相な見解」とも言われるが、これは民族真理の特殊性に基づくものである。大拙は『日本的霊性』の中で**「霊性とは、精神の奥に潜在しているはたらき」**と述べている。鎌倉時代に親鸞によって浄土真宗が作られることによって、元から備わっていた”日本的”霊性が表象

        メスガキの文法

          仏教についてのリサーチ Part3

          本記事は秋山 昌海著の『仏像印相大辞典』を要約した記事である。私、佃のオリジナルのテキストは全くないが、勉強したことを共有できればと思う。 https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336002617/ 六大体大五大は二手十指の思想の中でも重要である。五大(地・水・火・風・空)を理解するにはまず、「識」を加えた六大を理解しなくてはならない。六大とは無限の宇宙万有に普遍している真理であり本体であり元素である。六大はそれぞれ、地大・水大・火大

          仏教についてのリサーチ Part3

          「蟲」:ユビキタスでサラウンドな自然の畏怖を感じる概念

          日本人にとって「蟲」という言葉には特別な意味があるように感じる。虫はカブトムシやバッタや蝶をさすが、蟲となるとそれらも含む「環境」としての意味合いが強いように感じる。このように文字のニュアンスに違和感を覚えた場合、まず最初に辞書を調べることにしている。 漢字文化史料館のサイトには以下のように書かれている。 なるほど、「蟲」には昆虫以外にも地面を這う生物を指す範囲で使われているらしい。他に蟲に言及した東洋思想はないものかと試案していたところ、陰陽五行思想を思い出した。五行思想

          「蟲」:ユビキタスでサラウンドな自然の畏怖を感じる概念

          仏教についてのリサーチ Part2

          本記事は秋山 昌海著の『仏像印相大辞典』を要約した記事である。私、佃のオリジナルのテキストは全くないが、勉強したことを共有できればと思う。 https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336002617/ 仏の特徴曼荼羅に書かれてある仏を区別するために様々な特徴がある。 形像・・・仏像の姿形。一体の尊に数種の形像は存在することがある。 種子・・・一字で一尊を表すサンスクリットの文字。一個のアルファベットが数体の仏像に共通して用いられるこ

          仏教についてのリサーチ Part2

          仏像についてのリサーチ

          本記事は秋山 昌海著の『仏像印相大辞典』を要約した記事である。私、佃のオリジナルのテキストは全くないが、勉強したことを共有できればと思う。 https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336002617/ 仏教の特色キリスト教などの他の宗教と比べると、仏教には数えきれないほど多数の偶像を崇拝している。さらには、実在していた人間に加えて人間の想像に頼って作られた架空の偶像も存在する。実在していたしていないに関わらず、これらの偶像が一つの群とし

          仏像についてのリサーチ

          『響き煌めく境界線』振り返りPart.02

          前回に続いて、探究活動としての振り返りをしていきたいと思います。 今回は鑑賞者からの感想からファクトベースで振り返っていきます。というのも、文化庁メディアクリエーター育成支援事業にアドバイザーとして参加されている森山さんから、「鑑賞者からのフィードバックを活かした方がいい」という趣旨のアドバイスをいただきました。これまでは、自分の主観で作品の反省をしていたのでもっと外を向いた声を取り込んでいくべきだと感じています。その声に対してどのような姿勢を取るかは別の話ですが。 探求

          『響き煌めく境界線』振り返りPart.02

          『響き煌めく境界線』振り返りPart.

          自分もメンバーの一人であるアーティストグループ「-間-」で展示会をやりました。その名も「響き煌めく境界線」です。 今回のブログでは、ダラダラと文章を書かずにテーマに対して端的に書いていきます。章ごとで話題が細分化されるので、興味のある箇所を読んでくささると幸いです。 -間-の創設目的とは? 僕は東洋思想をベースに作品を組み立てていました。特に「空」の思想に関心があり、今でも空を作品制作に取り入れています。空とは、一つの事象や存在を単独で見るのではなく、その事象や存在が他

          『響き煌めく境界線』振り返りPart.

          【散文】「やらかす大人」と自分が重なることが増えた

          今年になって、嫌な気持ちになることが多い気がします。 別に嫌がらせをされたり不幸なことが続いているわけでもありません。 ただ、子供の頃ほど無弱に大人を尊敬できなくなってきました。 最近「身近な大人が実は、、、」「高校の先生が陰で、、、」といった話を多く聞きます。 別にそのことでその人の評価が下がるわけではありません。 ただ、「やらかす大人」のほとんどが40代頃にこぞって「やらかす」ので、自分もいつかそうなってしまうのではないかと想像してしまいます。 ふと頭をよぎった邪な

          【散文】「やらかす大人」と自分が重なることが増えた

          【小説】甘い尿のような香り

          私は小さな頃から戦争映画が好きだった。休日に母親と兄がスーパーに買い出しに行くと、決まって父親の部屋を訪ねた。ドアを開けると父は決まってベランダでタバコを吸っていた。部屋に入ったことに気づくと、おう、とだけ言って火を消して隣に座る。父をタバコ臭いと感じたことはなかった。だが、決まって体温で揮発した香ばしい匂いがしていた。ほのかに甘い尿のような香りに包まれるのは落ち着きはしないが嫌いではなかった。 ある日、部屋に入ると埃まみれの迷彩服をきたアメリカ人が銃を打ちながら叫んでいた

          【小説】甘い尿のような香り

          【小説】電車で聞くシャッター音

          カメラのファインダー越しに見た空は真っ白だった。左目を開けると全く同じ色の空が広がっていた。松岡は一定のリズムで体を揺られながら窓の外をながめている。外の景色は色褪せていて霧がかかっているようだった。白昼夢のようだと、松岡は思い視線を足下に落とした。自分の影は紫色で赤と青の輪郭のはっきりしない球体がモヤモヤ動いて見えた。一体いつになったら家に帰り着くのだろう。ふとスマートフォンを開く。数字が四つ並んでいるが、松岡にはその数字が何を表しているかわからなかった。体がゆっくり引っ張

          【小説】電車で聞くシャッター音

          【小説】男と女の生き方

          「別れた男から連絡きてうざい」 「女々しいよね」 女性がこんな会話をしている場所に出会した。キッパリ忘れて違う恋人探せよ、と心の中で呟きつつ、そんな会話をする女たちの不寛容さに眉を細めた。昔にも何度かこんな場面があった。 振った男から何度も連絡が来てマジうざい そうだよね、なんで何度も連絡取るんだろ 僕は異性がする共感できない話題には決まって、俺も人のこと言えないからなぁ、と言って回答を濁す。敵と思われ阻害されるのも怖いし、味方と思われ浅はかになるのも怖い。どっちつかず

          【小説】男と女の生き方

          【小説】胃もたれするキス

          ※この話はフィクションです。 昨日飲みすぎた二日酔いがひどく関節周りの細胞が死んでいる感覚がある。洗面台にいきタバコを吸った後、干からびたパンのようにひび割れた舌に痰を吐き出してうろおわせた後、排水溝に吐き捨てた。 強い酒をたらふく飲んだ次の日の気分は最悪だ。眉の辺りの筋肉は硬くなっているのに体は死んでいて脳では記憶がぐるぐると回る。死後硬直のような体に無理やり電極をぶっ刺して動かしている感覚だ。行き場のない電気が脳に戻りバチバチと脳を焼いていく。脳がドロドロに溶けても顔の

          【小説】胃もたれするキス

          根源(心の柔らかい部分)を触ることについて

          自分は、アーティストとして作品を作り、趣味で小説を書いている。アーティストは自分の感性や感情を解像度高く正確に表現に落とし込む必要があるし、小説は自分の感性や感情のレセプターがどのようなロジックで動いているか正確に知ることができる。「夕日が綺麗」より「夕日は地平線に近いから手が届きそうだと思うけど歩いてはいけない場所にあって、気温は暖かいけど冷たい風が肌を撫でて心地良さを増大させる」といった方がアーティストっぽく、「夕陽に惹かれるのは子供の頃に母親の帰りを待って外を眺めていた

          根源(心の柔らかい部分)を触ることについて