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【第1回】茨城県つくば市で20年間ディープテック・ベンチャー支援をしている「つくば研究支援センター」ってどんなところ?(石塚ベンチャー・産業支援部長インタビュー<前編>)

こんにちは!つくば研究支援センター(Tsukuba Center Inc.)のnote編集部です。当センターでは、2023年度より、分かりやすく日々の取組みやつくばのベンチャー企業の紹介をするため、note公式アカウントを開設しました。
今後、定期的に記事を掲載していきますので、ぜひご覧ください!

第1回となる今回は、つくば研究支援センターのご紹介をさせていただくほか、つくばにおいて長年ディープテック・ベンチャーの支援に取り組んでいる、同センターの石塚ベンチャー・産業支援部長にインタビューを行いましたので、その内容を掲載します。

つくば研究支援センターについて

つくば研究支援センターは、1988年に茨城県や日本政策投資銀行をはじめ、76の団体・民間企業が出資して創設されたインキュベーション・センターです。当センターでは、過去20年にわたり、世界有数の大学や研究機関が集積している「つくば」において、革新的な先端技術を活用して新たなビジネスを生み出すベンチャー企業や事業革新を進める企業の創出と成長を支援してきました。

つくば研究支援センターが拠点を置く茨城県つくば市は、「科学技術のまち」です。筑波大学高エネルギー加速器研究機構(KEK)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センター、産業技術総合研究所(AIST)、物質・材料研究機構(NIMS)など、日本を代表する先端技術の研究機関で、1万6,000人を超える研究者、8,000人以上の博士号保有者が働いています。つくばでは、”石を投げれば研究者に当たる”(!)とまで言われています。

つくば市の中心部にある中央公園からは、つくばエキスポセンターに展示されている高さ50mの「H-II」ロケット実物大模型を見ることができます。


日本政府が2022年11月に策定した「スタートアップ育成5カ年計画」では、2027年までにスタートアップへの投資額を10倍以上(10兆円規模)に増加させ、将来において日本からユニコーンを100社創出することが目標とされました。

スタートアップというと、”GAFA”に代表されるようなIT企業がよく知られていますが、最近では「ディープテック・スタートアップ」に注目が集まっています。
「ディープテック」とは、特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術を指します。その事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を有するスタートアップが「ディープテック・スタートアップ」と呼ばれています。

つくば研究支援センターでは、茨城県やつくば市などの自治体や、大学、各研究機関、民間企業などとも密接に連携し、地域におけるディープテック企業の創出と成長に向けて取り組んでいます。


石塚ベンチャー・産業支援部長インタビュー

ー本日はよろしくお願いします!まずは自己紹介をお願いします。

よろしくお願いします。石塚万里(いしづか まり)です。つくば研究支援センターでベンチャー・産業支援部長として、つくばのディープテック・ベンチャーの支援業務全般を担当しています。


ーつくば研究支援センターで担当されている仕事について教えてください。

まず、ベンチャー企業支援するため、インキュベーション施設の運営を行っています。企業が事務所を構えるためのオフィスだけでなく、実際に研究開発を行うためのラボ施設を提供しているのが大きな特徴です。入居企業様がしっかりと技術開発・製品開発に取り組めるよう、入居時の手続から入居後の各種サポートまで施設運営に関する仕事をしています。

おかげさまで施設の入居率はほぼ100%を達成しており、つくばの大学や研究機関発のベンチャー企業のみならず、そうした企業の支援を行う企業、司法書士・税理士事務所など含め120超の企業等にご利用いただいています。

加えて、入居企業様を中心に、創業支援、グロースに向けたビジネスマッチングのサポートも行っています。例えば、ビジネスマッチングを目的として、産業技術総合研究所、筑波大学と協働しつつ、ベンチャー企業の技術発表会を定期的に開催しています。

また、資金調達について、つくば研究支援センター自身はファンドを持っているわけではないのですが、ディープテック領域で数多くの実績を有するベンチャー・キャピタルであるみらい創造機構さんと2022年9月に業務連携協定を締結し、協力してつくば地域のスタートアップの創出・育成に取り組んでいます。

このようにいうと少し仰々しく聞こえるかもしれませんが、ベンチャー企業の日々のお悩みに対応していくのが私たちのとても大切な仕事です。ベンチャー企業が開発した製品やサービスを売っていくために、どうやって顧客を獲得していくかを一緒に考えたり、経理面でのサポートなどのお手伝いもしています。特にディープテック・ベンチャーの場合には、創業者が長年研究者としてご活動されてきた場合も多く、先進的な研究や技術を有している一方、ビジネス面では多くの課題を抱えているケースをたくさん見てきました。そうした課題の解決のために、小さなことも含めて、企業に寄り添った支援を提供しています。


ー茨城県やつくば市とも密接に連携してベンチャー支援を行っているそうですね。具体的な取組みの内容について教えてください。

茨城県は、ベンチャー企業の創出・育成に精力的に取り組んでおり、つくば地域を中心に、先端技術シーズの事業化や起業を支援するための施策を実施しています。つくば研究支援センターでは、技術系ベンチャーの創業に関するスクールを開講しているほか、茨城県のベンチャー企業成長促進事業を、日本最大級のイノベーション・プラットフォームであるCIC Tokyoさんと協力して進めています。

また、つくば市との連携として代表的なものに、「つくばスタートアップパーク(通称、スタパ)」の運営が挙げられます。スタパは、大学や研究機関が集積するつくば市の強みを活かし、テクノロジー系のスタートアップ支援を核とした多様な起業ステージに対応するために、茨城県つくば市が運営するインキュベーション施設です。

つくば研究支援センターは、2021年4月からスタパの運営業務をつくば市から受託しており、この施設を通して市内の創業支援や企業の成長支援にも携わっています。

私たちが施設を運営する強みは、「ハブ」機能にあります。自治体だけでなく、20年以上地域の大学や研究機関と密接に連携してきた実績があるからこそ、たくさんのステークホルダーの間に入って、起業家とそのサポーターをつなげていくことができると考えています。地域のベンチャー企業に対する愛情や、つくば地域を良くしていきたいという気持ちは、だれにも負けません。

スタパの運営にあたっては、株式会社しびっくぱわーさんとも連携しています。しびっくぱわーさんは、Z世代のメンバーも多く、”あらゆる挑戦を応援する”ことをミッションに、人・まち・行政をつなぐ様々な活動をしており、スタパでは主にイベントの企画・実施を担当してもらっています。


ー石塚部長がベンチャー支援をはじめたきっかけはなんですか?

私は大学では芸術専攻で、将来はグラフィックデザイナーになることを志望していました。ですが、その頃はまだインターネットやスマートフォンが普及していないこともあり、今ほどたくさんデザインの仕事の機会があったわけではありません。卒業後、別の仕事をしていた時期もありますが、いろいろなきっかけやご縁もあり、つくば研究支援センターの発足時期に入社しました。

当時、80年代後半はバブルの真っただ中。今のようにベンチャーやスタートアップが注目されていたわけでもなく、つくば研究支援センターも当初はベンチャー支援を行っていませんでした。ですが、つくばにはインテルのような外資系企業の研究所もあって、企業からスピンアウトするベンチャー企業もだんだん生まれてきたんです。そうしたベンチャー企業が当センターに入居するようになって、支援の必要性が強く感じられ、徐々に業務の一部として支援をするようになっていきました。

とはいっても、当時は起業やグロースに関するノウハウなどもほとんどなく、世の中にも浸透していない時代です。本当に小さなこと、例えば経理処理のやり方など、足元の支援が中心でしたが、それでも入居企業様には「ありがたい」と言っていただいて、やりがいを感じることができました。

2000年頃からは、世の中の流れも大きく変わり、世間的にもベンチャー企業が注目を浴びるようになってきます。その頃、日本でもインキュベーション・マネージャー(IM:創業・起業志望者を、構想・企画の段階から創業・起業に至るまで一貫して支援する専門家のことを指す)という資格が認知されはじめ、神奈川の老舗インキュベーターである神奈川サイエンスパーク(KSP)さんと同時期に、つくば研究支援センターでもIM養成研修への参加を始めました。

こんな風に、学生の頃はベンチャーに縁もゆかりもなかった私ですが、つくば研究支援センターに入社し、つくばのベンチャー企業の誕生や世の中の変化にあわせて、気づけば20年以上、インキュベーション・マネージャーとしてのキャリアを積んできました。


ーいままでで一番思い出に残っている仕事をおしえてください。

つくば研究支援センターの現在の主な収益源は、オフィス・ラボの賃貸です。機械室から不要な機械を撤去するなどしてラボやオフィスに改装し、収益基盤である施設の賃貸可能面積を増やすことで、収益を増加させ、それを入居企業様やこれから創業を考えている方々の支援に使うことができるようになっていたことは、私の職業人生の中でも最も達成感があったことの一つです。

ベンチャー企業支援に関しては、これまで本当に多くの企業様とお付き合いをさせていただいてきましたが、資金繰りをどうするか一緒に考えたり、製品の納入先企業を紹介してあげたり、経営者の方が困っているときに直接力を貸すことができた時のことは、とても思い出に残っています。

ベンチャーなので、当然、事業がうまくいっているような時もあれば、行き詰ってしまうような時もあるわけです。そうしたアップダウンを乗り越えて、会社が成長していく。そうした場面に立ち会って、そんなに大きなことではないかもしれないけど、少しでも役に立つような支援ができたことは、私自身にとってもとてもうれしいことなんです。

あとは、当センターにおけるベンチャー支援体制について、この20年で、創業から会社の立上げ、成長まで、ぞれぞれのフェーズに合わせたサポートメニューが提供できるようになりました。最初はオフィス・ラボの賃貸のみでしたが、創業スクールの開催や、創業後すぐに利用できるコワーキングスペースやシェアードオフィスの提供など、ベンチャー企業の成長に応じて最適なサービスが提供できるようになっています。

さらに、つくば研究支援センターには、「TCIサポートパートナー制度」があって、税理士・社労士・司法書士・弁護士などの先生方や経営支援のプロフェッショナルと提携して企業の課題解決を支援しているほか、金融機関とも連携して、融資相談会なども定期的に開催しています。
士業の先生方とは当センター創設の頃からのサポーター仲間で、ベンチャー支援の大ベテラン。みなさん第一線で活躍されている方々です。

このように内外の仕組みが整えられたことで、ベンチャー企業の創業・成長という良い循環が生まれてきました。こうした循環をほぼゼロの状態からつくりあげることができたことも、とても感慨深いです。
最初はなにをやればいいかも分からない状態から走り出して、大変なこともたくさんありましたが、今思うと人生で一番やる気に満ち溢れていた時でもあり、様々なことにチャレンジできる環境をいただいたことには、とても感謝しています。


ー今までで一番大変だったことはなんですか?

今でこそベンチャー・スタートアップ支援はその重要性が日本全体で共有されていますが、私がベンチャー支援を始めた頃は、関心を持っている人もほとんどいませんでした。

例えば、ベンチャー支援を担当する社員のインキュベーション・マネージャー資格取得、これは今ではインキュベーション施設を運営している組織では当然のことなんですけど、当時はその必要性がなかなか理解されず、会社として社員を研修に派遣するという決定をするまでにも様々な苦労がありました。
でも、今ではつくば研究支援センターのインキュベーション・マネージャー全員の資格証明書が社長室に飾ってあります。ベンチャー支援という業務が事業の中核の一つになった証だと思っています。

つくば研究支援センターの社長室には、社内のインキュベーションマネージャー全員の認定証が飾られています。

また、最近力を入れているつくばと他地域との連携イベントの開催(※)なども、昔は自治体間の連携をとることなどが難しく、実現することがなかなかできませんでした。しかし、次第にベンチャー支援において関係機関の水平的な協力関係やオープン・イノベーションの重要性が認識されはじめ、今ではステークホルダー全員が協働する枠組みが構築されてきています。

(※)2022年5月には、つくば研究支援センターと他地域の関係機関が連携して、「つくば・柏×久留米 ライフサイエンスベンチャーMeetUp」を開催するなど、全国の先端研究・技術開発の成果を集結させたイベントを開催しています。

あとは、やっぱり支援していた企業が、事業を畳まざるをえなくなった場面では、私もいつもとても辛い気持ちでした。そういったタイミングは、経営者として最も苦しい時です。そのまま倒産してしまうケースもありますが、中には逆境を乗り越えて、再び事業を立ち上げる方もいらっしゃったりして、私たちとして常にベンチャー企業の味方でいることの大切さを感じることも多々ありました。

<後編に続く>


次回予告

今回は、つくば研究支援センターのディープテックベンチャー支援を担当している石塚部長へのインタビュー<前編>をお届けしました。次回は、つくばのディープテックベンチャーが抱える課題や将来への期待についてお伺いするインタビュー<後編>をお届けします。お楽しみに!


取材:つくば研究支援センター ベンチャー・産業支援部 大塚和慶

※本記事は、個人的見解・意見を述べるものであり、つくば研究支援センターの組織的・統一的見解ではなく、それらを代表するものでもありません。