かしまし

三人で書いています

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最近の記事

うずまき銀行強盗(ソノサキ商店街シリーズ)

 ねこのて手芸店は、よっぽどのことがない限り店を閉めません。なので銀行強盗に遭遇した時、店長は「困ったね」と思いました。  ねこのて手芸店は商店街の中ほど、時計塔がそびえる広場に面しています。看板商品はあさつゆのボタン。冷えこむ春の野原でとれた草のつゆに、いちばん乗りの陽ざしが一欠片織りこまれた、とても美しいボタンです。そのほかにも、月のひかりの絹糸や、波のように揺れ続ける布など、ねこの店長​​は自慢の手芸品を毎日棚に並べるのでした。それらをどこから仕入れているのかは誰も

    • 影のスケッチ(日記)

      自分のデフォルトのイメージやインスタグラムの投稿より、精神衛生の悪さの最大瞬間風速が出ている。でもそんな自分も嫌いでなくいたいのです。 某日 人はオフィスや店舗の窓にプリントを貼るとき、外側から見ると裏側やテープが丸見えということに気がつけないものだろうか。部屋の中で俯瞰して見ることができても、実は建物の外側が存在することに気がつけていないかもしれない。怖い話。 某日 生きづらさを感じる方のインタビュー映像で、沢山の武士が毎晩寝室に攻めてくる夢を見るという話を聞いた。その

      • 海外旅行キット2(エッセイ)

        スーツケース編です。 機内持ち込み編はこちらです。 https://note.com/tsukiatarishobo/n/n9bd09c055f61 【洋服】👕トップス ・Tanaka DaisukeのはねTシャツ👼 かわいい洋服を旅先で下ろしたかった!思い出になるので ・プチバトーの白T 機内で着ていたものです。 ・ユニクロのYシャツ すぐ乾きそう&羽織にもなる&最悪捨ててもいいくらい古いもの ・ラルフローレンのYシャツ(古着) 遺跡いくからちょっと学者さんぽい服にし

        • 海外旅行キット(エッセイ)

          最近、トルコへ旅行をした。 これまでの海外旅行はいつも大きめのスーツケースで行っていたし、 今回もツアーだったから特に持ち歩きを心配する必要はなかった。 しかし、友人達と来年以降に予定している別の旅行ではトランジットが多く、 「これは最小限の荷物にしないと厳しいね…」という話をしていたので、 今回の旅行ではいつもより少なめの荷物で旅行するチャレンジをしてみた。 機内持ち込みサイズのスーツケースで9日間! バックパッカーの人からするとまだまだのレベルと思うが、いつもよりはかなり

        うずまき銀行強盗(ソノサキ商店街シリーズ)

          三つ編みの扉(短編小説)

          幼いころ、祖母の三つ編みを覗き込むのが好きだった。 彼女の三つ編みは、彼女が旅してきた国の数に対応していた。 海辺の街の潮風の香りが、本を読み耽った喫茶店のコーヒーの香りが、砂漠のねっ風に運ばれてきた砂埃が、彼女の長い髪には編み込まれているのだった。 ある日、ふと夜中に目を覚ますと、どこからか囁き声が聞こえた。 そしてそれはどうやら、祖母の三つ編みの中から聞こえているようだった。 「誰?」 わたしは眠る祖母の三つ編みを幼い指でかき分けた。 「ここよ、ここ」 どうやら三つ編み

          三つ編みの扉(短編小説)

          機内で見る映画の妙(感想)

          飛行機で見る映画が複数本全部かぶる人って絶対いないと思う。 ラインナップが独特かつ自分の状態も特殊だから。 自分でも帰ってきてFilmarksをつけていると不思議な気持ちになる。 先週ヨーロッパ出張があったので今回の私のメニューをご賞味ください! 落下の解剖学 お洒落なのよタイトル。そして賞もたくさん取っていて気になっていた。 機内って結構、最新の話題作があるので嬉しい。 そして国際線では邦画や日本語字幕の作品が少ないから、フランス映画や韓国映画など、英語以外の映画にも手

          機内で見る映画の妙(感想)

          SIX来日公演に向けて知っておくと良いかもしれないこと(作品紹介)

          英国発ミュージカル『SIX』来日版が、2025年1月に EX THEATER ROPPONGIで上演されます。 トニー賞8部門でノミネート、オリジナル楽曲賞とミュージカル衣装デザイン賞の2部門で受賞を果たしたヒット作。 大好きな作品だけど、「どんなミュージカルか」を一言で説明しようとするとやや難しい。 この説明文の通りなのだけど、一文に詰まった情報量の多さよ! 英国史に馴染みが薄いとなおさらイメージしづらいかも…ということで、この記事では、SIXの前知識として知っておく

          SIX来日公演に向けて知っておくと良いかもしれないこと(作品紹介)

          まつげの砂糖 (短編小説)

          気がついたのは、彼が1歳の頃だったように思う。 連日の夜泣きに疲れ果てて、ぼんやりと眠る彼の顔を眺めていた時だった。 つい先ほどまで大粒の涙を流していた瞼に、白く光る小さな粒を見つけた。 目脂かしらと思って拭った予想とは裏腹に、それは指の先でさりさりと音を立てた。 ほのかに香る甘さに、無意識のうち口に入れたわたしは、それが粉砂糖であることを悟ったのだった。 それから二本足で立てるようになり、自我を持つようになってから、 やがていつの間にか、彼は自分のまつげに粉砂糖が生まれる

          まつげの砂糖 (短編小説)

          ほんじつ うみのひ さかなのひ (短編童話)

          あるばん マキ が 目をさますと、 ドアを ぺち ぺち ぺち と ノックする音がきこえた。 きいたことのない ノックの音だ と マキは おもった。 こういうときは、 目で見て たしかめるにかぎる。 おかあさん おとうさん いぬのおもち をおこさないように、 ぬきあし さしあし しのびあし……。 ドアのまえには だれも いなかった。 そのかわり…… さかなが ぽつん うかんでいた! 「こんばんは」 と さかなは いった。 「こんばんは」 と マキは かえした。 「ほん

          ほんじつ うみのひ さかなのひ (短編童話)

          星座をつなぐ観劇日記(エッセイ)

          手を伸ばせばいつでも届く本や映画と違い、ライブパフォーマンスはその時にしか見ることができない。 そんな贅沢なエンタメの享受をさらに特別なものにするのは、自分のカレンダーに浮かび上がる観劇作品からできた星座をなぞることだと思う。 *** あなたは読んだ漫画や聞いた音楽をテーマで結びつけて関連性を見出したことがあるだろうか。 世の中のエンタメは時としてキュレーションされることがあり、夏になれば怪談が特集されて、著名なクリエイターが他界されると追悼の特番が出る。 これを自発的に

          星座をつなぐ観劇日記(エッセイ)

          意識の管理職(日記)

          このところ、運動習慣を取り戻そうと足掻いている。 現代日本で人並みに働く一般人が、どの段階から「運動習慣があります」と胸を張ることができるようになるのかは分からない。でも、私にとっては運動習慣、その中でも習慣の2文字は、これまでに何度も掴みかけては指の間から溶けて流れていったものだ。覚えている気がするだけの夢のような儚さを纏っている。 なんだか楽しかった気がする夢の詳細を、一つでも思い出したい。その一心である。 きっかけは、スタンダップコメディアンのジョン・ムレイニーの一

          意識の管理職(日記)

          2月のいくつかの記録(日記)

          🐙日々かなり忙しめな日々なので、今月は覚えておきたい記憶のツイートスクラップとします。 📕読書(特に印象的だったもの)1.『哀れなるものたち』アラスター・グレイ 映画がとてもとても好きだった(2024マイベストムービーがもう出てしまった感じがあります)ので、原作も、と読んだ。 映画も相当へんてこ映画でしたが、小説はそこからさらに三回転するようなひねり具合でびっくり。訳者のあとがきですら、へんてこりんで素晴らしかったです。描きたいもの主軸は映画と小説で違うものの、どちらのア

          2月のいくつかの記録(日記)

          ふいうち(短編小説)

           これまでソファだと思っていたものが、どうやら生きているらしいということに気がついたのは、七日前のことでした。  その夜、サリはいつものように、ソファで寝転びながら台所で夕飯を作るお父さんをぼんやりと眺めていました。すると突然、サリの頬の下でソファが大きなあくびをしたのです。冬眠から覚めた熊のように、低く、深く、厳かなあくびを一つして、そして再び沈黙しました。 サリは体を起こし、あっけにとられてソファを見つめました。無言で目を丸くしているサリに気がつき、スープの湯気の向こ

          ふいうち(短編小説)

          創作の御守りになるプレイリスト(エッセイ)

          私のYouTube Musicにはいくつかのプレイリストがあり、その中で、仕事でも趣味でも何かを生み出したい、でもキツいーーそんな時に聴くためのものがある。 今日は私の「creative work 讃歌」と題した(ハズい)短いプレイリストを紹介する。 創造 / 星野源 その名の通り新しい物を作り出そうと歌う、某ゲーム会社の周年のCM。 花札や水平思考の歌詞や、特有の電子音など、この会社ならではの要素をこっそり入れ込む星野源のタイアップ手腕は期待通り。こんなお洒落な曲をテー

          創作の御守りになるプレイリスト(エッセイ)

          Guilty as Sin? (創作歌詞)

          テイラー・スウィフトが新作アルバムのリリースを発表した。 アルバムのタイトルは “The Tortured Poets Department (苦悩する詩人たちの会)”。 2月21日現在、今のところはトラックリストと、歌詞の一部と思われる数行だけが発表されている。 もう好き。4月19日にフルの歌詞を読むのが待ち切れない。 待ち切れなさすぎるので、勝手に前後の文脈を付け足してみた。 これがトラックリストのどの曲の歌詞なのかは明かされていないが、ここではGuilty as Si

          Guilty as Sin? (創作歌詞)

          迷子(短編小説)

          一度だけ、ジャングルで迷子になったことがある。 それはわたしの7歳の誕生日の夜で、嵐が吹き荒れていた。誕生日の夜にもかかわらず、わたしは不機嫌で、頬を涙に濡らしていた。 何かこれといった理由があった訳ではない。なにかがわたしの中に突然訪れて、胸の中をむちゃくちゃに荒らしていたのだ。それは砂嵐の始まりが、小さな小さな竜巻であるのと同じであるように、朝の時点では小さな卵に過ぎなかった。それが学校の教室で少しずつ温められ、靴箱で震え、通学路でひびが入り、家に着く頃には小さなかぎ爪が

          迷子(短編小説)