それぞれの「私」に送る「私」からの手紙
親の保持記録を超えようとしている小学生の私へ
これを読んでいるあなたは今、父親が持っていた珠算検定3級よりも高い2級に合格しようと、塾に通って必死に勉強や練習をしていることでしょう。
4年生の時にはじめて受けた7級を皮切りに、4級まで2ヶ月ごとのペースで一発合格していったあなたは、やがて3級の壁に何度もぶち当たって悔し涙を流していたはずです。
その失敗の糧が、こうして今の私に生かされています。だからどうか、自信を持って諦めずに乗り越えてほしい。
今のあなたなら、たった一発で合格できる力が備わっているはずです。そして中学生を迎える前に、母親が保持していた2級よりもさらに高い階級に合格できるはずだから。
遠足に行くのが億劫で仕方なかった中学生の私へ
高校受験を控えてピリピリしている状態が続く中、遠足に行くのが嫌でたまらなかったあなたは、これを読んでいる時点ですでにその先に予定している、人生で初めてのデートがすぐにやってきてほしいと思っていることでしょう。
けれどその前に、明日の遠足はきちんと乗り越えなければなりません。おそらくほぼ一日を、たった一人で過ごすことになるかもしれないのですから。
だからといって、仮病を使ってズル休みをしてはなりません。デートの道中で同級生と出くわしてしまったら、場合によってはその姿が学年中に噂されることに成りかねない可能性だってあるのですから。
たとえ思い出に残らないものだとわかっていたとしても、私はあなたに無事にその一日を乗り越えてほしいと切に願っています。
そして翌日になって、人生初のデートを思いっきり楽しんでいってください。
失恋の傷が癒えず夜空を眺めていた高校生の私へ
秋風が吹き荒れる中、公園で夜空を見上げながら黄昏ているあなたは、今もまだ初恋の人からフラれてしまったことの傷が未だに癒えていないことでしょう。
けれどそれはいつか、年齢を重ねていくにつれて次第に記憶から忘れていくことになるのですから、ずっと傷心に浸っていなくても平気です。
ただ一つだけ、あなたが高校を卒業する前の年に、それも3年生に進級する前の春休みに、あなたにとってとてつもなく辛いことに直面することになるかもしれません。
そして下手すれば、あなたは一瞬にして心を閉ざしてしまうことになるかもしれませんし、もしかしたら土砂降りの雨に打たれて立ち尽くしてしまうかもしれません。
でも大丈夫です。その悲しみを乗り越えてきた私がここにいます。だからどうか、挫けてしまうことになっても、前だけ向いて一歩ずつ踏み出してほしいと心から祈っています。
これから一人暮らしを始めようとしている私へ
あなたは今頃、初めて作った夕飯を済ませて明日の支度も整えてひと段落していることでしょう。
しかし残念ながら、明日は一日覚悟しておかなくてはなりません。おそらく自身初の野菜炒めが原因で、一日中目まいや吐き気に襲われることになってしまいそうです。
でも、その翌日は「文化の日」という祝日で休みになっているはずです。その前にとても酷く辛い一日が待ち構えていますから、なんとか乗り切って翌日はゆっくりと休んでください。
そしてこれらを教訓にめげずに、初めて尽くしのことに対して色々と挑戦し続けてほしいです。あなたにとって「第二の人生」は、まだ始まったばかりなのですから。
久々に友人と一緒に旅行へ出かけようとする私へ
あなたは数年ぶりに、悪友をはじめとした友人たちと再会を果たすことにワクワクしていることでしょう。そして悪友の車で地元から数百キロ以上離れた名古屋に移動し、そこで愛知動植物園や犬山城を1、2日にかけて散策することでしょう。
その前に今のあなたはおそらく、あまり体調が良好ではないのかもしれません。病み上がりが一番危ないのです。
具合が悪くなって行けなくなってしまったら、今までの苦労が水の泡になってしまいますから、今日のところは大事を持って安静にしていてください。
そして万全の体制で友人たちと再会して、思う存分楽しんでいってください。
憧れていた場所に引っ越しを考えようとする私へ
見知らぬ土地に移り住んできて早5年という歳月を経たあなたは、これからよりよい暮らしを夢見て引っ越すことを決心したことでしょう。
けれどそう簡単にうまく決められない現実が待ち構えています。いくら自分にとってここがいいと思っていたとしても、この先いろんな場所へと内見しにいくことになるでしょう。
そしてその期間は、なんと半年にも及ぶことになるかもしれません。聞いただけでも気が遠くなりそうですが、それだけ時間をかけないとあなたが納得しそうな場所に巡り合うことは、もはや難しいと思われます。
だからこそ、決して諦めずに探し続けてほしいと願っています。そしてあなたが希望をもっていた条件全てにおいて、納得できる場所が必ず見つかるはずですから。
思いもよらぬ形で実家へと戻ることになった私へ
あなたは今頃、会社の幹部たちからあなたの実家に程近い営業所への応援に急遽入ってほしい、という旨の打診をされたことでしょう。
こればかりは、今の私の口からどう答えるべきだったかを明確に話すことはできないかもしれません。
なぜならあなたはいずれかの選択を取るにしても、あらゆる可能性において一方的に閉ざされてしまうことになるのですから。
だからといって、俗に言う「無敵の人」になってはいけません。あなたが誰よりも人の痛みを知る人間ならば、今そこにおかれている自分を決して取り返しのつかない形で見失ってはいけません。
だからどうか下を向くことになってしまうとしても、前を向いて生き続けてほしいと心から願っています。
どうにもならないまま今を生き続けている私へ…
思えば長いようで短い旅をしていた気分に浸っていた。
何度も前に進んでは、何度も振り出しに戻されたことだろう。
私の歩いてきた道は、私しか語ることができない。
どれだけ人に寄せようとしても、結局自分の色や形になってしまう。
それでも私は私を生き続ける。
どうにもならない、八方塞がりな状況におかれていたとしても、
また再び理不尽なことを前に立ち尽くしたとしても、
道は必ずこの手で切り開く。
もう誰にも邪魔させはしない。
人には描けられないものを、もう一度この手で描く。
好きなだけ足掻いてやるさ。
私の向いた方が、前だ。
最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!