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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座27 デジタライゼーション(①SoR)の実践-AsIs(現状問題)のためのシステムからToBe(将来課題)のためのシステムへ-

 巷で耳にするDXに違和感を感じるのは、単なるIT化と何が違うのかがわからないことです。DXを支援する公的機関ですら、DXという言葉の意味をわからずに使っているのではと疑ってしまいます。DXの構成要素であるX(トランスフォーメーション)がない/弱いD(デジタル化)では、競争優位を獲得できないどころか、この先の激動の時代に生き残ることすらできません。
 
 DX以前のIT化においても、全社的な取り組みをする米国企業と比べて、日本企業は部署の壁を越えられない部分最適にとどまっていることが問題視されてきました。全社最適をめざすべきERPの導入においても、部署ごとの業務システムを寄せ集めたものにすぎず、部署の壁を越えたデータ活用まで至っていないケースがほとんどではなかったかと思います。
 
 そして今、IT化はDXの時代となり、部署の壁を越えることはもちろんのこと、全社最適どころかサプライチェーン、エコシステムのように企業間連携を最適化することをめざすことが当たり前になっています。
 
 全社最適のためのERPを部署ごとの部分最適のために使ってしまった日本企業は、今度もまた、クラウドコンピューティングやビッグデータ、ブロックチェーン、ノーコード・ノーコードツール、AIといったビジネスそのもののしくみすら変えかねないようなDXの最先端技術を、旧態依然としたIT化の延長としてとらえてしまうのでしょうか。
 
 部分最適に陥いるIT化は、現場ごとの今ある現状問題の解決にはつながっても、組織全体がこの先取り組まないといけない将来課題の解決にはつながりません。それどころか、現状の仕事のやり方を要件としてIT化することによって、将来の経営環境の変化に対応しにくい硬直したしくみをわざわざ築いてしまうことになります。
 
 その結果、全社最適、将来志向という本来あるべきDXに取り組んだ優良企業との格差は、目も当てられないほどに大きくなっていくでしょう。DXの取り組みが企業の存続にかかるものとして、経済産業省など国を挙げてその必要性が叫ばれているのは、こうした危機感からなのです。
 
 DXの話題で必ず出てくるAIなどの最先端技術がよくわからなくても心配しすぎる必要はありません。それよりも、自社を取り巻く経営環境が将来どのように変化するのか、その変化した経営環境に対して、自分たちはどう変わらないといけないのかを考えることが最重要なのです。
 
従来のIT化においても、AsIs(現状問題)とToBe(将来課題)とのギャップからシステム化要件を立案することが求められていました。しかし、実際はAsIs分析だけを行い、現状の業務問題を解決するようなシステム設計が行われてきたことも事実です。その結果、自分の仕事を楽にするようなシステム機能ばかりが開発され、組織や業務を根本的に変革するためにITを活用することは後回しにされてきたのです。
 
 この先、AsIsベースのDX?を進める企業に未来はあるでしょうか。AsIsベースの業務システムは稼働する時には既に古くさい過去のものになっています。ToBeベースのDXを進める企業は、激動の時代に生き残るとともに、AsIsベースのエセDX企業と縁を切っていくことでしょう。
 
 ChatGPTなどジェネレーティブ(生成)AIの突然の登場と急速な普及は、我々にとって、これから先に社会がいかに激変することを知る機会となりました。もはやあまり時間はありません。今すぐ全社最適、将来志向に舵を切りましょう。大事なことは仕事をIT化することではありません。仕事がどうあるべきかを考えることなのです。

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