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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座26 デジタライゼーション(①SoR)の実践-CRM(SoE)、AI(SoI)につながる SoRデータの品質-

SoR(Systems of Record:記録のためのシステム)はSoE(Systems of Engagement:関係のためのシステム)やSoI(Systems of Insight:分析のためのシステム))と比べると、地味な存在に見られがちですが、実は、SoRがなければSoEもSoIも成り立たないほど、SoRは大きな意義を持っています。
 
 SoEではシステムをサービスとして考えて、顧客価値の増大による顧客との関係を強化することをめざします。特にCRM(顧客関係管理)の推進においては、顧客と自社との関係にもとづいて、より最適なサービスを提供することが必要になります。顧客と自社との関係についてデータを供給してくれるのは他ならないSoRです。
 
 SoIでは、予測のために実績データが不可欠です。特に、AIは実績データから学習することでモデルを生成するため、信頼できる実績データがなければ実現できません。SoIに予測や学習のための実績データを供給してくれるのも他ならないSoRです。
 
 では、SoRは本当に適切なデータをSoEやSoIに供給してくれているでしょうか?既存の業務システムは正しいデータを保持しているでしょうか。ものづくりの世界では部品や材料に対する品質保証が重視されているように、DXにおいてもデータに対する品質保証が重要になってきます。
 
 経済産業省が推進するDX認定制度において、公開されている申請書(「DX認定制度 認定事業者の一覧」参照。https://disclosure.dx-portal.ipa.go.jp/p/dxcp/top)を見てみると、華やかなSoEやSoIについて言及している反面、地味なSoRについてはさほど触れていない場合が多いように感じます。
 
 システム開発プロジェクトの多くでは、ハードウェアやソフトウェアの品質は意識されることがあっても、データの品質はあまり考えられていません。データ登録はユーザ責任であり、業務担当者でないとデータの意味がわからないからです。しかし、実際には、マスタデータに間違いや抜けがあるために、システム障害を起こすことは珍しいことではありません。
 
 DXにおけるデジタル化の主役は「データ」です。その主役の質が悪いのではどうしようもありません。「データ」こそがDX時代における資産なのだという強い決心を持って、取り組まなければ、DXは見かけ倒しに終わってしまいます。「データ」の品質に責任を持つ部署はどこでしょうか?「データ」の品質を確保するために行うべき業務は何でしょうか?「データ」の品質程度を示すKPI(重要業績指標)は定義されているでしょうか?データ品質を取り巻く現実は決して明るいものではないのです。
 
 DXの究極形であるエコシステム―デジタル技術による企業同士の共存共栄-では、参加企業同士がデータ共有することになります。そこで問題となるのが、連携先のデータ品質です。高品質なデータを持つ企業は厚遇され、劣悪なデータ品質の企業は排除されます。DX時代は「データ経営」の時代でもあるのです。
 
 デジタイゼーションは単純に紙のデジタル化を意味するわけではありません。現実を正しく投影しているアナログ情報を正しくデジタルデータに変換することが必要です。作業員によって考え方が統一されていない概念-作業開始時間や仕掛品の進捗率、作業手順や要領、出荷判定など-はないでしょうか。マスタに登録されていない事項について人が勝手に解釈していることはないでしょうか。画面表示される候補に合わせて無理やりコードを選択していないでしょうか。
 
SoRを見直すということは、システムを入れ替えるということだけを意味するのではありません。その運用方法まで見直すことを迫られているのです。ある業務で登録されるデータにはどのような意味があり、その後、どのような業務でどのように使われるのかがわからなけれれば、見直しすることは不可能です。
 
SoRの見直しにおいて主役となるのはユーザであり、しかもデータ登録する部署だけでなく、それを活用する部署のユーザも参画しなければなりません。DXの取り組みが結果的に全社体制になるのは必然なのです。

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