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政治(経済・金融)講座ⅴ1510「アルゼンチンの経済実験は成功するのか?」

アルゼンチンの国民は大手術を望み、今飲もうとしている薬は劇薬であり、国民に苦しみを与える可能性はある者の、将来を見いだせない経済ではいつまでたっても地獄の生活から抜け出せない。今回の新大統領の政策はどのような効果と成果を生み出すか、大変興味深く関心のある命題である。今回はアルゼンチンの大統領と経済と通貨政策の報道記事を紹介する。
     皇紀2683年11月23日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

はじめに

 過去の貨幣(通貨)歴史を俯瞰すると通貨の安定を求めるために金本位制度を採用した時代もある。米国もドルと金の交換をしていたが、ニクソン大統領のときにそれまでの固定比率(1オンス=35ドル)による米ドル紙幣と金の兌換を一時停止したこれがニクソンショックと言われる。
世界的に金本位制が確立されたあおりを受けて、日本でも金本位制を本格的に採用したのは1897年のことである。しかし、1917年には第一次世界大戦のために金輸出を禁じ、1931年の末に金本位制を停止した。その後は1942年の日本銀行法により、日本は金本位制から管理通貨制度へと移行した。

金貨
兌換紙幣と不換紙幣

  管理通貨制度の下では、自国通貨は原則的にいくらでも発行できる。
 金を貨幣価値の裏付けとする金本位制においては、銀行券発行量は正貨準備高に拘束されるのに対し、管理通貨制度では行政府の通貨政策次第であり、貨幣の価値政府または中央銀行の政策によって裏付けされるためその価値は不安定となりやすい。よって通貨当局は金融政策により貨幣価値の安定化を図ることを重視する。

銀行学派の考え方によれば、中央銀行はプライマリバンク(中央銀行と直接取引の口座を開設している市中銀行)の担保の差出の対等物として通貨を発行するのが原則であり、この場合通貨の価値は市中の信用力に依存している。
一方で議会や行政府が国債を発行して中央銀行に引き受けさせている場合、その通貨の価値行政府の信用(徴税権や国庫財産など)を担保としている。

管理通貨制度では、発行量が本位の備蓄量に拘束されることがないので、景気や物価調整のために柔軟な通貨量調整をすることができるメリットがある。一方で通貨当局と行政府の関係(独立性と協調性)がつねに問われ、通貨当局が行政府の影響下にある場合、景気対策のための恒常的な金融緩和がインフレを招く場合がある。また独立性が極端に保護されている場合、通貨当局の失策が国家に破滅的な混乱をもたらす場合がある(ライヒスバンクの事例)。

管理通貨制度においても通貨は市中あるいは政府の信用の対等物として取り扱われるのが原則であり、この原則に政策上の事情あるいは恣意性が加わるとインフレーションやデフレーションの原因となる。

アルゼンチン大統領選、極右の独立候補が勝利 中銀廃止を公約

2023年11月20日

画像提供,REUTERS

画像説明,アルゼンチンの大統領選に勝利したハビエル・ミレイ氏(16日)

南米アルゼンチンで19日、大統領選の決選投票が行われ、極右の独立候補ハビエル・ミレイ氏(53)の勝利が確実となった。与党・ペロン党の対立候補、セルヒオ・マサ経済相は、ミレイ氏に電話で敗北を伝えた。

アメリカのドナルド・トランプ前大統領は、ミレイ氏の勝利を歓迎。自身のスローガンである「アメリカを再び偉大にする」にかけ、ミレイ氏は「アルゼンチンを再び偉大にする」と述べた。

今回の大統領選は、インフレによる物価高騰や経済危機の不安が高まる中で実施された。

リバタリアン(自由至上主義者)のミレイ氏は、中央銀行の廃止などを公約に掲げ変化を強く求める有権者から支持を得た。

開票率90%の時点で、ミレイ氏の得票率は56%、マサ氏は44%だった。

首都ブエノスアイレスでの勝利演説でミレイ氏は、「きょうからアルゼンチンの再建が始まる。きょうでアルゼンチンの没落は終わる」と述べた。

ミレイ氏はトランプ氏や、ブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領などになぞらえられ、その実力は未知数だ。

だが、それがミレイ氏のアピールポイントでもあった。

アルゼンチンの公式通貨に米ドルを導入するというミレイ氏の発言は、支持者たちの喝采を浴びた。ただし、多くのエコノミストは財政破綻を懸念している。

それでもミレイ氏が勝利したことは、年間インフレ率が140%を超え、5人に2人が貧困にあえぐなかで、アルゼンチン国民が伝統的な政治と経済危機にうんざりしていることを示している。

トランプ氏が祝福

ミレイ氏の勝利を受け、トランプ前大統領は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に「全世界が見ている!あなたを誇りに思う」と投稿した。

あなたは国を大きく変化させ、本当にアルゼンチンを再び偉大にするだろう

ジェイク・サリヴァン米大統領補佐官(国家安全保障担当)もミレイ氏の当選と、「アルゼンチンの人々が自由で公正な選挙を行ったこと」を祝福した。

ソーシャルメディアへの投稿でサリヴァン氏は、アメリカは「人権、民主的価値、透明性への共通のコミットメントに基づく強固な二国間関係の構築を楽しみにしている」と述べた。

南米諸国の反応

南米諸国の指導者らも、ミレイ氏の勝利にコメントしている。

ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領は、「新政権に幸運と成功を祈る。アルゼンチンは偉大な国であり、すべての尊敬に値する」と投稿した。

「ブラジルは、アルゼンチンの兄弟たちと協力するために、いつでもここにいる」

ミレイ氏は選挙活動中、ルラ氏の政策を公に批判し、同氏を「怒った共産主義者」だと語っていた。

コロンビアのグスタヴォ・ペトロ大統領は、ミレイ氏の勝利は「ラテン・アメリカにとって悲しいことだ」と発言。「新自由主義は社会のためにならないし、人類が現在抱える問題に応えられない」と批判した。

チリのガブリエル・ボリック大統領は、ミレイ氏の勝利と、マサ氏が敗北を認めたことをたたえるとした。

(英語記事 Far-right outsider Milei wins Argentina election


中国、アルゼンチンが関係断絶すれば「重大な過ち」と指摘

Reuters によるストーリー • 23 時間

11月21日、中国外務省は、同国やブラジルのような主要国との関係を断ち切ることはアルゼンチン外交の「重大な過ち」になると表明した。北京で6月26日撮影(2023年 ロイター/Tingshu Wang)© Thomson Reuters

[北京 21日 ロイター] - 中国外務省は21日、同国やブラジルのような主要国との関係を断ち切ることはアルゼンチン外交の「重大な過ち」になると表明した。

毛寧報道官は定例記者会見で、中国はアルゼンチンにとって重要な貿易相手国であり、アルゼンチン次期政権は中国との関係を非常に重視していると指摘。「中国は2国間関係の安定と長期的な発展を促進するためにアルゼンチンと協力し続けることに前向きだ」と述べた。

リバタリアン(自由至上主義者)で右派のミレイ次期アルゼンチン大統領は中国とブラジルを批判、「共産主義者」とは取引しないとし、米国との関係強化の意向を示している。

また、ロシアの通信社RIAノーボスチによると、ミレイ政権下で外相に就任する見込みのエコノミスト、ディアナ・モンディーノ氏は新興5カ国(BRICS)の枠組みに参加しない方針を示した。

アルゼンチンはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなるBRICSに新たに加わることが決まった6カ国の一つ。

アルゼンチン次期大統領に問題山積 「ドル化」困難、ハイパーインフレの恐れも

AFPBB News によるストーリー • 23 時間

アルゼンチン次期大統領に問題山積 「ドル化」困難、ハイパーインフレの恐れも© Luis ROBAYO / AFP

【AFP=時事】アルゼンチンで19日に行われた大統領選の決選投票で当選したハビエル・ミレイ氏にとって、勝利の余韻に浸っている余裕はなさそうだ。同国経済は高インフレに見舞われ、資金は不足。債権者や国際社会にもそっぽを向かれている。次期大統領が直面する課題を探ってみた。

アルゼンチン次期大統領に問題山積 「ドル化」困難、ハイパーインフレの恐れも© Luis ROBAYO / AFP

 米シンクタンク、ウッドロー・ウィルソン国際学術センターのアルゼンチン専門家、ベンジャミン・ゲダン氏は「アルゼンチン大統領になるということは、世界中の政治分野で最悪の職の一つに就くということだ」と語った。


アルゼンチン次期大統領に問題山積 「ドル化」困難、ハイパーインフレの恐れも© Luis ROBAYO / AFP

問題の根は非常に深く、複雑に絡み合っており、識別は簡単でも解きほぐすのは容易ではない

 ミレイ氏は、数十年にわたる経済失政に対する怒りを追い風にトップの座に上り詰めた。通貨ペソを廃止して経済の「ドル化」を進め、中央銀行は閉鎖、歳出を削減すると主張している。

アルゼンチンの衰退を終わらせる」と公約。「漸進主義」や「妥協策」にかかずらっている暇はないと警告した。

 大統領就任は12月10日。専門家は、インフレ率が143%、貧困率が40%超に達する中、政策運営は困難を極めると予想している。

■ドル化の行方は

 ミレイ氏は、「インフレのがん」を撲滅するため、2025年までに経済をドル化する構想を提案している。それは、通貨ペソを放棄し、金利調節など金融政策権限を手放すことを意味する。

 ドル化に向けては大量のドルを確保しておく必要がある。しかし、国際通貨基金は、アルゼンチンのドル準備高は危険なほど低水準に落ち込んでいると警告している。

 同国のトルクアト・ディ・テジャ大学のカルロス・ヘルバソニ氏は、中道右派の協力をあおぐにしても、政界新参者のミレイ氏の「政局運営能力は極めて限定的」だと指摘する。

「例えば通貨を変更したり、中央銀行を閉鎖したりするための法案を成立させるのは不可能だ」

■ペソはどうなる

 政府はインフレに歯止めをかけるため、何年にもわたってペソの対ドル相場を厳格な管理下に置いてきたが、大統領選決選投票の3か月前に大幅に切り下げ、その水準で維持。現在は1か月につき3%の下落を容認している。

 英調査会社、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットのシニアアナリスト、ニコラス・サルディアス氏は、為替相場とは「完全な虚構」だと指摘。「維持するには極めて高くつく。ところがアルゼンチンでは文字通り資金が枯渇している。(現行の)相場制度を維持するのは無理だ」と話す。

 GBAOストラテジーズの政治アナリスト、アナ・イパラギレ氏は、ミレイ氏が大統領に就任するまでの数週間に「事態は急速に管理不可能となる恐れがある。非常に不安定な局面となる」と予想した。

 サルディアス氏は、民衆はドル化が近く実施されると思い込んでパニックになりペソ預金の取り付け騒ぎに発展する可能性もあるとしている。

 大統領選でミレイ氏に敗れたセルヒオ・マサ経済相が、もう一段のペソ切り下げに踏み切る可能性もある。ミレイ氏にとってそれは「政治的な代償を払わされる」ことを意味する。

 サルディアス氏は、「インフレはおそらく急上昇するだろう」とし、ハイパーインフレに陥る可能性もあると警告した。

■「チェーンソー・ミレイ」

 ミレイ氏は大統領選の集会でしばしばチェーンソーを手に登壇した。公的支出15%削減、国営企業の民営化、燃料・交通・電気補助金の削減といった公約を象徴するトレードマークとなった。

 こうした緊縮策は以前からIMFに要求されてきたものだ。IMFはこれまでアルゼンチンに22回、救済の手を差し伸べてきた。直近では2018年、440億ドル(現在のレートで約6兆5000億円)の金融支援に踏み切った。

 ミレイ氏はしかし、財政赤字、累積債務、紙幣の増刷、そしてインフレという悪循環からの脱却を試みてきたこれまでの政権と同じ課題に直面するとみられる。

 アルゼンチンが抱える経済問題の解決は厄介だ。補助金を撤廃したり福祉支出を削減したりすれば貧困を悪化させるだけだ。通貨を変動相場制に移行させれば、輸入物価はもう一段跳ね上がるだろう。

 ゲダン氏は「現段階では、一つ解決してもまた次の問題が悪化する」と語った。

「安定化プログラムが本格導入された場合、その痛みは強烈で、かつ広範に及ぶだろう。しかも、国民に明るい展望が見えてくるのか、定かではない」

 ミレイ氏を支持しない有権者がほぼ半分いることを考えれば、反政府運動や社会不安を招く危険もある。

■朗報はあるのか

 ゲダム氏は、仮にミレイ氏と協力者が最も脆弱(ぜいじゃく)な立場の国民を守る一方で、歳出削減や福祉支出・補助金の削減を実現できたなら、「良い方向に向けての転換点となる可能性はある」と分析する。

 また、アルゼンチンは100年間で最悪の干ばつに見舞われ、過去2年間は農産品輸出が激減し、200億ドル(約3兆円)の歳入不足に陥ったが、2024年は一転、豊作が見込まれている。

 さらに、同国の民間調査会社アベセブのエコノミスト、エリザベット・バシガルポ氏は、南部の大規模なシェールオイル・ガス田であるバカムエルタからの新ガスパイプラインの輸送能力が増強されれば、エネルギー輸入は年間100億ドル(約1兆4800億円)圧縮されると推定している。(c)AFP/Fran BLANDY【翻訳編集】AFPBB News

「アルゼンチンのトランプ」がぶった切ろうとしている「中央銀行と自国通貨」 何が起こる?そもそも可能?


アルゼンチン大統領選の集会で、チェーンソーを掲げるミレイ氏=9月12日、ラプラタ(AP)© 東京新聞 提供

 歴史的なインフレに苦しむ南米アルゼンチンで新たな大統領が誕生する。過激な言動を繰り返す経済学者で下院議員のハビエル・ミレイ氏(53)。「極右」「アルゼンチンのトランプ」と報じられるが、その公約も異色だ。自国通貨を米ドルに切り替え、中央銀行の廃止を掲げているのだ。「物価の番人」たる中央銀行がなくなると、何か起こるのか。(岸本拓也)

◆麻薬や臓器売買の合法化も主張

 ボサボサ髪がトレードマークのミレイ氏は首都ブエノスアイレス生まれ。ベルグラノ大で経済学を学び、企業コンサルタントなどを経て、2015年ごろから経済評論家としてテレビ番組に出演した。辛口の政治批判が人気を博し、21年に政界へと転じた。

 大統領選では当初、2大政党連合の候補に次ぐ3番手だったが、8月の予備選で最多票を集め、一気に注目が集まった。その主張は過激で、麻薬や臓器売買の合法化などを唱えていた。

◆年間インフレ率140%…「中央銀行はゴミ」

 中でも注目されたのが経済政策だ。自国通貨ペソをドルに切り替える「ドル化政策」や、金融政策を担う中央銀行の廃止を掲げた。選挙戦では自身の顔が印刷された大きな100ドル札を作成。歴代政権の放漫財政を切るという意を込めて、集会でチェーンソーを振り回したこともある。

ミレイ氏の支持者が手に持つ「100ドル札」。同氏の顔が印刷されている=11月19日、ブエノスアイレス(AP)© 東京新聞 提供

 最近のアルゼンチンは、年間インフレ率が140%を超えるほか、長引く不況で5人に2人が貧困にあえぐ。その一因が通貨安だ。米国の利上げでドル高が加速し、通貨ペソの価値が下がり続けて輸入品の価格を引き上げている。干ばつも追い打ちをかけた。

 アルゼンチン中央銀行は政策金利を大幅に上げているが、物価高に歯止めはかからず国民の不満が高まる。こうした現状を背景に、ミレイ氏は「地球上に存在する最悪のゴミ」と中央銀行の廃止を掲げ、ドル化を訴える。

◆ペソをドルに→不景気でも金利を下げられない

 ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「通貨をドルにしてしまえば、為替の変動に悩まされることはなくなる」としつつ、「自国の金融政策を放棄し、すべてFRB(米連邦準備制度理事会)の決定に従うことになる。自国の景気が悪いときに、金利を下げられないなど弊害も大きい」と話す。

 ドル化するには政府が国内で流通する分のドルを用意する必要がある。しかしアルゼンチンの外貨準備高は事実上マイナスになっているとみられ、上野氏は「十分なドルを調達できるのか」と実現性を疑う。「最後の貸し手」である中央銀行がなくなると、資金不足となった自国内の民間銀行などを救済できなくなり、金融システムの崩壊や不況を招く恐れもあるという。

◆格差がさらに拡大か…「少数与党だと無理では」

 南米ではパナマ、エクアドルやエルサルバドルがドル化政策を採用している。第一生命経済研究所の西浜徹氏は「これら経済規模の小さい国々とは異なり、南米2位のアルゼンチンが金融政策を放棄するのは現実的ではない」とみる。

 さらに、個人を重視し、小さな政府を志向するリバタリアン(自由至上主義者)を自称するミレイ氏が、国営企業の民営化や公立学校の廃止などを主張している点にも懸念を示す。「公的部門が縮小し、所得再配分機能がなくなると格差がますます広がりかねない」とし、こう見通す。「ミレイ氏が所属する極右政党は議会では少数派。政策実現には他党との共闘が必要で、ドル化や中央銀行廃止のような極端なものは実現困難ではないか


参考文献・参考資料

アルゼンチン大統領選、極右の独立候補が勝利 中銀廃止を公約 - BBCニュース

中国、アルゼンチンが関係断絶すれば「重大な過ち」と指摘 (msn.com)

アルゼンチン次期大統領に問題山積 「ドル化」困難、ハイパーインフレの恐れも (msn.com)

アルゼンチンの歴史 - Wikipedia

アルゼンチン経済の歴史 - Wikipedia

「アルゼンチンのトランプ」がぶった切ろうとしている「中央銀行と自国通貨」 何が起こる?そもそも可能? (msn.com)

ニクソン・ショック - Wikipedia

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