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デザインの自由研究:高度デザイン人材の育成に向けて

helllo, 辻原です。

どうでもいいことなんですが自分が言いたいことを行った後「over」と加えて相手の返事を待つ、というのが英語では一般的だと思っていた時期がありました。私がSF映画を見すぎただけのようです。先日英会話の先生にやめたほうがいいね、と言われました。はい。

さて今回は高度デザイン人材の育成について考えてみたいと思います。「高度デザイン人材育成」いう言い方は、経産省からの「デザイン経営宣言」の流れでありますが、一体どうやって育成するんだろう?としばらく悩むくらい難易度が高い。

「一人のスターに期待するより組織をクリエイティブな土壌にするほうが現実的だな」とか最近はもやもや考えていて、いろんなデザイナーの教育に携わってきた身として現段階での自分の考えを整理しておきたいと思います。

そもそも高度デザイン人材とは?

詳しい資料はこちらからどうぞ。経産省が2018年からCONCENT社と取り組んでいる研究資料です。

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ここでまとめられる「高度デザイン人材」とは、こういう人材像。

・高いデザインスキルを持つ
・ビジョンを描くことができ、探究心を持つ
・ビジネスリテラシーがあり、デザインとの交点を作ることができる
・主体性とリーダーシップ、行動力がある

そして彼らの資質5類型として下記の通り定義されている。縦軸上部を「事業」下部を「企業全体」としている。横軸は時間軸、現在と未来。

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そして「デザイン人材が持つべき能力」として上記の通り整理される。重要な3つの能力は①デザイン ②リーダシップ ③ビジネススキル。※本研究には時系列が存在するが、このnoteでは「文脈」に沿って理解していきたい。

好き勝手言ってくれちゃってるけど、やるべきこと多すぎない?(おこ)と一介のデザイナーとして思う。そもそも「高度」の前にスタートラインに立てるまで育てることすら難しいんだが?と多くの経営者・教育担当者はお怒りだろう。

ここからは私が後進育成の現場で見てきたことも内容に入れていきます。

「デザイナーを育成する」際のパターンを理解する

まず高度、とかなんとかいう前にデザイナーを育てましょう。しかし、最初から身も蓋もないことを言うと「デザイナーを育成するのは、ほかのどんな職業よりも難しい」んじゃないかと思う。理由は様々あるが、その一部、私が現場から得た学びを共有してきたいと思う。

デザイナーを育成する場合、ケースとしては大体下記の4パターンがある。

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企業において最も成功しやすいパターンは①だが、理由としては被教育者が勝手に成長する例が多いからだ。しかしながら①のケースが事例として最も少ない。社会的に多いのは圧倒的に①以外の②〜④のケースだ。成功しやすいパターンを並べるとこんな感じ。

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見てもらうとわかるように、教育者・被教育者のこれまでの「教育環境」が似ている方が成功しやすい。教育環境というと一見「学問の種類や専門分野」のことのようだが、ここで重要なのは「学習スタイル」た。被教育者が「どんなフィードバックによって何を学ぶか」を理解しておく必要がある。学習しやすいフィードバックがそれぞれ異なるのだ。

被教育者の「学習パターン」に着目する

彼ら被教育者に対するフィードバックにおいては「デザインパターン」「アンチパターン」を使い分ける必要がある。ここでいうデザインパターンとは「YES」の情報アンチパターンとは「NG」の情報だ。それぞれフィードバック理由を重点的に理解させるのが学習効率が高い。

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この違いが生まれる原因はデザインや美術の教育は他学科に比べて圧倒的に「アクティブラーニング」であるという実態にある。(ここでアクティブラーニングとアンチパターン教育の関係について説明すると長くなるので省きます)

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つまり彼らの受けてきた教育はこのようなスタイルの違いがある。

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その上で、個人個人の能力開発は先に書いたnoteみたいなことが必要なので、教育者は「学び方」「求める知識レンジ」「実行・試行環境」を提示すれば良いと思う。

ここまで書くと分かってもらえるだろうが、先に提示した「教育者・被教育者組み合わせで難易度が高い②のパターン」の理由はこう。このパターンは「被教育者の離脱」が起こりやすいのだ。

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私もここを理解するまで、キツイ教育をしてしまっていたケースが少なからずあった。彼らには私自身の教育者としての力不足でタイトな想いをさせてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。この点は理解しても実際の教育は容易でないが、ぜひこれは多くの人に知ってほしい。

では、ここから高度デザイン人材の育成について考えていこう。

高度デザイン人材の育成における第一の壁

ここまでは比較的「若手デザイナーの教育」の話だったが、個人的には「高度デザイン人材」として対象になるのは3〜5年以上の実務経験や50以上のプロジェクト経験を経たデザイナーが対象になると考えている。「高度」となる前に、まずは当然ながら「デザイン」という職能を全うする必要があるからだ。

先述した通り、高度デザイン人材に求められる能力が「デザイン」「リーダーシップ」「ビジネススキル」であるとすれば、高度デザイン人材第一の壁は「リーダーシップ」だと思う。

リーダーシップを発揮するにはfollowerから2種の敬意を獲得する必要がある。「熟達者としての敬意」「実行者としての敬意」だ。

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デザイナー以外のどんな専門職においても、熟達には「孤独に耐え自己研鑽にはげむ時間」が必要だし、現代においては変化のスピードが速いため学び続けたり、継続的に自身の技術を高める必要がある。実はこの努力と「リーダーシップ」「マネジメント」の相性がめっちゃ悪いのだ。

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プロフェッショナルになるというのは徹底的な自己管理と制御の成果で、イメージとしては「深めていく」働きかけである一方、リーダーシップやビジネススキルは「広げていく」ようなイメージであり、「人を動かす」のは自分自身の意思で完璧に制御できるものではない。さらにこの矢印は縦横同時に伸ばしていくことは難しいため、この壁にぶつかりマネジメント職を諦め「自分の能力を高める」という選択肢に舵を切り直すデザイナーは多い。

個人的にこの壁を乗り越える最も早い手段は、荒療治的だが「デザイナーのキャリアを一度閉じる」ことを本人に決断させ「新たなキャリアのための席を準備する」のが最も速く効果的だと考えている。

ハイパフォーマーのキャリアスイッチ、という強行手段だ。

ハイパフォーマーのキャリアスイッチという強行人事

第一の壁を超えるのが難しいのであれば強行人事策、という手もある。先述したとおり高度デザイン人材の候補に入るのは「3〜5年以上の実務経験や50以上のプロジェクト経験を経たデザイナー」という、成熟したいわゆる中堅だ。彼らは組織において中核を担う「ハイパフォーマー」であり、生産性・品質に長けた会社の宝のような人材である。

これは間違いなくデザイナー本人にとっても企業にとってもクソデカ障壁である。彼らが誇る生産性や貢献性を手放させ企業側のマイナスも折り込み「キャリアスイッチしよか」と提示できるならば、強行人事を施行するのが高度デザイン人材育成のための最も早いパスであると思う。

しかしながら現実的に考えて、そういう企業は少ないと思うので他の打ち手も考えてみよう。

高度デザイン人材への緩やかな成長と変化

当たり前だけどそもそも「人が成長する」というのは一長一短ではない。精神的なハードル、環境の整備、内側-外側からの弛まぬ努力とアプローチが必要だ。成長するための「ちょうどいいハードル」を丁寧に準備し、時間をかけてサポートし一つ一つクリアさせてあげたいが、現実問題はそうもいかないことはみんなが現場で学んでいる通りだ。

じゃあどうすればいいか?というと、私は5年〜8年かけて緩やかに領域を広げながら成長や変化を促すのが良いと思う。

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こういったプロセスを経て高度デザイン人材を目指していくのが理想的である。道中にデザイナーはこのようなことを学んでいるはずだ。どうだろう?高度デザイン人材の要件を満たしていないだろうか?

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これは全デザイナーに向けて言いたいけど、デザイナーのみんな、5年たってもプロジェクトマネジメントさせてもらえない・できない環境にはいないほうがいいよ。あるいは「できる能力や環境があるのにやっていない」場合はキャリア設計が甘々で怠惰な選択をしていると言える。

別に全デザイナーが「高度デザイン人材」みたいなのを目指さなくていいと思うけど、20代と30代と40代...それ以降の働き方は全く違うはずだ。これからもやりがいのあるプロジェクトが自分のところに集まるよう、自分自身のバリューをあげていこう。

経営者に向けて言いたいのは「デザイナーは5年くらいで教育が完了するのではない」ということを理解しておいて欲しい。デザイナーが本当に伸びるのは5年目からです。自社の宝石みたいな人材を信じて、たくさんのチャンスを「これでもか!」というほど提供してあげてください。

組織のマインドをクリエイティブにしておくこと

最近「組織開発」が社会的に重要なテーマになっていると思う。いろんなワークショップやデザインシンキングのような手法が取り入れられたり、心理的安全性が謳われたり。それら間違ってはいないけど、よく考えるとそこまでしないでよいのでは?と感じるものも少なくない。

組織をクリエイティブに保つ手段は私の考えでは下記に集約される。

①つねに手法を模索させる環境を提供する
②手法を多角的に学ぶ時間と環境を作る

学び成長しているひとは絶対に謙虚だし、能動的なはずだ。情報や意見が交換されれば必然的にクリエイティブになっていく。デザイナーは間違いなくこういう環境が好きだ。高度、とかなんとか言わずにまずこういう環境を提供してあげる必要があるんだろうなと思ってる。(ちなみに正直に言うとILY,でもそんなにできていないので、これから力を入れていきたいなと考えています。)

しかしながら、正直なことを言うと私はデザイナー教育に興味がない。一方通行な教育者になりたくないし、教育は報われない側面が多すぎるからだ。私が欲しいのは教育者・被教育者など分け隔てなく共に成長する環境だ。私だってデザイナーを育ててる暇があったら、デザイナーとしてもっと成長したいと思っているから。理想的な環境についてはいろんな手段を試しながら考えていこうと思う。

このnoteが誰かの参考になればうれしみ。

thank you! I love you.

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