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桜が降る夜に、永遠を想う

桜が降る街、雨の音は深く胸の中まで降り注ぐ。春は美しく、世界中が活気づいて見える。芽吹くたくさんの命の香りにクラクラしては、自分の生を実感させられるそんな日々。孤独な生きものとして生まれた人間たちは、ただ愛を求めて彷徨う。こんな穏やかな春の日は、そんな自分の孤独と切なさを感じて涙がこぼれ落ちる。

桜は咲いている時より、散っている方が好きだ。歩けば桜の絨毯、舞い落ちる花びらはわたしの肩で微笑みかける。「地面につく前にキャッチしたら、願い叶うんやって!」と叫ぶ通学路の子どもたち。わたしにもあんな頃があった、と懐かしく風に吹かれる。桜はいつだって一瞬、雨が降るまでの期間限定。その儚さが人の一生のようで。咲き誇る命たちは、簡単に散ってゆく。いつ降るかわからぬ雨に打たれて、お天気のご機嫌次第で終わりゆく。

わたしは、不妊症だ。そのことを普段意識することはない。けれど、恋人ができてからはそんなことを鬱々と考えるようになった。恋人はこれから、のひとだ。これからきっともっとさらに輝いていくし、夢を叶えてゆく。恋人が大事にしているものを大切にしたいし、恋人の夢を応援したい。わたしだってまだまだ発展途上だ。夢を追いかけるぺーぺーな20代。けれど、やっぱりまわりで「子供が生まれた」「子供が欲しい」みたいな話を聞くたびに焦ってしまう。わたしはきっとその夢を叶えてあげられない、そう思う度に泣いてしまう。きっと、恋人は知らない。この苦しみを、この切なさを。毎日夜中になると涙がこぼれるほどの申し訳なさと切なさを。

わたしが申し訳なく思う必要なんてなくて、それはきっといつだって意地悪な神様が決めたことだ。けれど、それでも彼の思う通りに人生を描かせてあげたかったと嗚咽するほど泣く夜。悲しみに溺れることは意味のないことだけれど、今日はこの生ぬるい悲しみに溺れていたい。彼のことを想うたびに、別れたくないと強く想うたびに、心は狂う。どうして、と呪ってしまう今世を。ただ、わたしたちは"今日"という日を生きるしかない。鮮烈なきらめきのような"今"を生きるしかないとわかっていても、この世界を呪う、呪う。

もし本当に神様がいるのなら、わたしは何枚でも桜を捕まえよう。地面に落ちてしまう前に、泣きながら、どんな醜態を晒しても捕まえよう。何百枚という花びらを、すべて飲み込むように大切にしよう。そして、すべてに願いをかけよう。「恋人が幸せであるように」そうただ願おう。わたしの知らないところで生きるひと、わたしの知らないひとと語り合うひと。全部を知ることなんて不可能だと知っているから、その分わたしは彼の周りがみんな素敵なひとであるようにと願う。恋人の周りがみんな優しさで溢れるように、感謝と愛に包まれるように。きっと、彼はこんな気持ち一生知らないままで生きてゆく。それでもいい、わたしのこの真摯な愛が伝わればいい。恋人よ、どうか、どうか幸せであれ。

わたしが幸せにできないならば、わたしより素敵なひとに幸せにしてもらってくれ。泣きたいほどの気持ちでつぶやく今夜も、月は綺麗だ。こんな気持ちを言葉にするために、わたしはきっと作家になった。恋人への愛を伝えるために、あなたへの感謝を伝えるために。

わたしたちは"他人"だ。「血の色形も違うけれど」「出会いに意味なんてないけれど」。それでも、わたしたちは、生きてゆく。誰かを愛しながら、誰かに嫌われながら。こんな世界、大っ嫌いで、どうしようもなく大好きだ。ただその気持ちを大切にしていきたい。

恋人よ、聞こえていますか?わたしの言葉に感動しない、メンタルが本当に強い、寂しがらない恋人よ。寂しくならなくていい、わたしのことを想う時間が少なくてもいい。わたしはただあなたへの愛を叫ぶから、隣で苦笑してよ。嫌がりながら、わたしを抱きしめてよ。そんなワガママ、きっと直接は言えないけれど。

子供は産めないし、あなたの人生計画にわたしは要らないかもしれない。けれど、人生に意味もなく、残すものもなく、あなたと一緒にいたい。桜に願いをかける、叶いますように、と。

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