見出し画像

博多ローミングライティング

陽が照り輝く昼間の電車の中、悠長に構えていた私に旅の抑揚が押し寄せる。子供のころ胸を打った飛行機から見える空模様は、いつの日か他人の私生活ほど無関心なものになっていた。夜行バスから見える蒼い海や昏く黒い夜空に感銘を受ける。ああ、贅沢な夜に襲われた。

着いた博多

豚骨ラーメン、鉄板餃子、明太茶漬け、庶民的料理を好き放題巡る私は悦に浸り、思春期にできたニキビのように鬱陶しい数多の悩みはすべて吹っ切れてしまっていた。旅に出たら食だけでなく、史学、美術学、文学、科学、地理学、建築と様々な学問に触れ、その地域の特性や成り立ちを知ることが旅の醍醐味である。言い換えると、インスタグラムでいいねを集めやすい写真をたくさん撮りたい!!ということである。虚栄心の塊だな。

印象に残った美術がある。「卵 #3」は女性が一生のうちに排卵する卵子を転がる糸玉で表し、女性の社会的役割について疑問を表現した作品である。社会に抵抗したくてもできないどうしようもない怒りを美術にぶつける作者を、つい自分自身と照らし合わせてしまった。ケーキを3等分に切ることのできない非行少年のように荒んでいた私の心は一つの美術作品に魅了され、あらゆる執着から解放されていた。


帰りの飛行機に乗りながら今日もブンを考え綴る。ブンを書くときに巧みな比喩を使おうだとか、博識な言葉で自分を飾ろうとするのは自信のなさの表れだ。私の旅は朽ちるまで終わらない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?