文章が苦手な人へ 原稿を書きたくなかった新人記者の頃に学んだこと(2)
原稿が下手くそだった新人記者の私は、「せめてボツにならない原稿を書けるようになろう」と決意した。先輩記者の記事を書き写すなどしているうちに、5つの点を重視していこうと決めた。
❶主語を明確に書く
当たり前に思うだろうが、主語が分かりにくい文章は多い。スポーツは複数の登場人物が出てくるので、省略すると分からなくなる恐れがある。常に「省略しても読み手に通じるか?」というチェックが必要だ。
私は、できるだけ早く主語を書くように徹底している。基本的には1行目に入れる。ここが「ボツにならないための文章」たる所以である。毎回違うパターンの凝った文章を考えるより、徹底して主語は先に示す。その方が断然分かりやすいからだ。
各文でも主語を前へ前へと出す。
上記の例ならば、私は②を選ぶ。①では「」内を読んでいるときに、誰のセリフか分かっていないことになる。この程度の短文ならば理解できるが、コメントが長かった場合に分かりにくい。本当にうまいライターならばリズムを考え、さまざまなパターンの文章を入れるのだろうが、私の原点は「ボツにならない=分かりやすい」なので余計なことはしない。
また、主語と述語は、なるべく近づけた方が分かりやすい。日本語は文頭が主語、文末が述語と離れる特徴がある。一文が長くなると、遠く離れて意味が分かりにくくなるので注意が必要だ。
長い文でも主語と、それに対応する述語を近付けることはできるが、もっとも簡単に近づける方法は、各文章を短くすること。うまく書けないときは、文章を短く分ければ理解しやすくなる。
❷書き出しにこだわる
時系列に沿って書く人が多いが、一番のニュース、もっとも大切な事柄から書くと分かりやすくなる。また、インパクトを持たせる工夫をすると、より魅力的な文章になる。
私が参考にしているのは、小学時代の友人N君が書いた作文だ。小学4年のとき、クラス全員で電車やバスの優先席について作文を書き、先生がN君の作文を読み上げた。次のような書き出しだった。
皆が「えっ?」と驚いた。私をはじめ、全員が「優先席は大切だ」という内容で書いていたのだから、その反対意見など出るとは思っていなかった。
読み進めると、「優先席などなくても、お年寄りらに席を譲る気持ちを持てばいい」という、至極まっとうな意見だった。N君は書き出しで、読者の気持ちを一気に引きつけたのだ。
一瞬で読者の心をつかむ書き出し。なかなか難しく、今なお考えては書き直している。
❸具体的に書く
これは文章というより、取材に大きく影響する。取材は、最初に「ぼんやり」としていた景色を、観察や質疑応答を繰り返して鮮明にしていく作業といってもいい。
例えば「さまざまな色の花」では、まだ景色がはっきり見えてこない。具体的に「赤、青、黄色のチューリップ」と書けば、景色が鮮明になっていく。
「とても暑い」よりも「気温40度の暑さ」、「久しぶり」を「12年ぶり」といった記述をしていくことで、個人の感覚に左右されず、正確に伝わる。
学生に対する指導の8割から9割は「もっと具体的に書いて」に尽きる。また、自分で記事を書いた際も、具体的に書けたときは満足感が高い。
❹むだな言葉を省き、簡潔に書く
繰り返し言葉を削るだけですっきりした文章になる。
新聞はスペースに限りがあり、ムダな言葉を書いてしまえば、その分だけ内容が薄くなる。シェイプアップした文章で、中身を濃くしていく必要がある。
会社で「デスク」という記事をチェックする役目を担っていたとき、重なり言葉を省いていったら、行数が半分になったこともあった。
このnoteを始めウェブではスペースに制限はないが、各文をシェイプアップすると、すっきりして、内容が把握しやすいだろう。
❺推敲(すいこう)する
書き終えた文章の精度を高めるため、間違いを正したり、構成を練り直す。私は初稿よりも、推敲に時間をかけて完成させていく。
例えば❷の書き出しなど、時間に余裕があるのなら「この場面から書き出したらどうか?」「いや、ここから書き出した方が分かりやすいか?」などと何種類も試してみる。
注意するのは消去しないこと。10パターンを試したら、それをすべて保存しておいた方がいい。結局、最初の書き出しがよかったと思うことも多いからだ。
また、誤字脱字を見つけるコツは、疑ってかかることだ。「大丈夫だろう」という気で見ていると、単純ミスに気付かない。私はいつも「オレが間違えていないはずがない。絶対にミスがあるはずだ」と思いながら見直す。そして最後は、自信を持って世に出す。それでもミスが発覚することも多いが……
学生に指導する基本は以上である。
ここにまとめてみたのは、ウェブの記事に四苦八苦しているからだ。ウェブだと、何人が読んでくれたか、どの部分で読者が離れていったかも分かる。すると、私が書いた記事では、読者を十分に引きつけられていない現実も分かってしまう。
基本は変わらないと思うが、新たな工夫が必要だと感じている。例えば、スマートフォンで読む方が多いので、そのサイズでひとまとまりにし、スクロールしてもらう。また、検索でヒットするキーワードを入れる…
54歳で一から勉強し直すことになるとは思わなかったが、それもまた楽しい。