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もっと連動できる営業組織を作りたい: BtoBセールスでの営業プロセスの全体最適化とは?

BtoB営業プロセスの最適化を考えるとは、どういう事でしょうか。

これまでのnoteでも触れてきたように、営業プロセスの分業化が進みインサイドセールス (IS)、フィールドセールス (FS)、カスタマーサクセス (CS)がそれぞれプロフェッショナルな組織としてそれぞれに求められる活躍を果たすようになってきました。一方で、いかに同じチーム内でそれぞれの活動を管理しようとも、IS/FS/CSそれぞれが異なるKPIの達成を目指して日々働いていることはないかと心配になることがあります。これは、各分担の部分最適化を目指す形となってしまい顧客本位な活動を妨げる可能性があります。今回のnoteでは、BtoB営業プロセスを全体最適化するためにどのような事を考えるべきか?について考察したいと思います。

営業部隊の使命とは?

これから考える営業プロセスの最適化の前に、そもそも営業活動ではどんな段階を踏んで何を達成すべきなのか確認します。おそらくどんな商材であっても、以下の3点は営業組織(特にBtoB)の使命として違いはないと思います。

- 売上創出による企業の成長牽引
- 顧客の声を集めて社内に報告することでの組織戦略貢献
- 既存顧客、マーケットとの関係構築

売上創出による企業の成長牽引
これは絶対命題で、これを使命としていない営業組織はないと考えます。利益を追求しない団体でもない限り、企業はその永続性を保つ源泉として市場からのキャッシュを必要とします。その主たるものは、ほとんどの企業において本業による売上キャッシュです。例外的にはライセンス収入やフランチャイズによるフランチャイジーなどがありますが、製品やサービスを提供する企業ではそれらを売ることで儲けています。営業部隊は、この売上を管理することに責任を持ちます(プラスして、売上の回収が重要です)。

顧客の声を集めて社内に報告することでの組織戦略貢献
Voice of Customer; VOCは製品やサービスと提供する企業にとって、かけがえのない資産となります。実際に自社の製品やサービスを利用するユーザーの声は、自社の提供する製品やサービスの質を改善するためのヒントになるだけではなく、顧客要求の中から新たなアイデアが生み出され研究開発や事業開発のためのスタート地点となったり、今後目指すべく企業の方向性を判断する重要なマーケット情報となるため、経営判断にまでインパクトします。営業部隊は、日々顧客を頻度高く接する窓口であるため、常に新鮮で重要な市場情報を入手して自社内に報告することが大切な仕事になります。

既存顧客、マーケットとの関係構築
すでにある程度のビジネス規模を持っている企業であれば、既存顧客との継続的な関係構築は重要なファクターとなります。分業制のなかでは特にカスタマーサクセス部門を設けて顧客が自社製品やサービスを利用する中での体験を最大化することで、Life Time Value; LTVと呼ばれる顧客生涯価値を高めます。これは、1) 短ー中期的なビジネスの見通しが立つ(フォーキャスティング)こと、2) マーケットシェアを高める原動力となることに影響を持ちます。また、マーケットに対して自社ブランドの認知度や価値を示すことで新規の顧客獲得にもつながるため、営業部隊は社内の他部門と連携しながらアンバサダーとして自社の存在を広めていくことになります。

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営業プロセスとパイプライン管理

ここまで確認したように営業部隊の使命は様々ありますが、ほとんどが顧客、市場を向いたものとなっています。一方では市場のシェアを高めるために働き、また一方では市場を拡げたり新しく創出することでinorganicな成長のためにも活動しなければいけません。これらの営業活動を案件ベースで見たときにカギとなるのが営業パイプラインです。営業ファネルと呼ぶこともありますが、これらが目指すものは以下の通り概ね同じです。

Step 1: Lead Generation
市場から自社の製品やサービスの顧客になり得る対象者を見つける。
Step 2: Lead Nurturing
探し出したLeadが見込み客 (Prospect)となるか、Need analysisを進めることで判断する。
Step 3: Prospecting
Need analysisによって自社が顧客の課題を解決できる、価値を提供できると判断した時にソリューションを提案する。
Step 4: Closing
価値提案を通じて製品やサービスの提供が決まる際に、契約条件や提供の手段などを確定し、サービス提供の実行フェーズに移る。
Step 5: Up/Cross-Sell
製品やサービスの提供を通じて一層の顧客課題に対する価値提案を高め、利用拡大や他のソリューションによる課題解決を提案、実行する。

パイプラインはすべて連続しており、営業部隊からみた案件のプレゼンスはそれぞれがシームレスにつながっていなければいけません。また、これらのプロセスにおいて顧客側はほとんどの場合で購買担当者が一貫して窓口となり、自社内の購買活動関係者と調整しながら案件を進めています。つまり、顧客側はパイプラインを走っている案件を(社内での購買プロセスは別途走っているとしても)シームレスに管理しています。

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一方で、最近多くなってきた営業プロセスの分業化においては、各ステップで営業担当者が異なる場合があります。例えば、Step 1~Step 2をインサイドセールスが、Step 3~Step 4をフィールドセールスが、Step 5になりカスタマーサクセスが担当するというものです。それぞれの担当者には、それぞれの所属するチーム毎に目標設定があったり、抱える案件の優先度などまちまちである可能性があります。そうすると、パイプラインにある案件が断続的になり、各Stepを移行する際に人と人との引継ぎが生じることでコミュニケーションリスクも高まります。これらを最小化するために、現在の営業組織ではCRMやSFAなどのセールステックを駆使して、少なくともシステム上では案件管理がシームレスで誰でも同じ情報レベルに揃うよう運用されています。

営業プロセスの全体最適化のために考える事

営業プロセスの分業化では、仮に部門レベルで売り上げ目標や営業成長率が共通的な目標として設定されたとしても、現場レベルではそれぞれのチームで成果を最大化するための目標が設定される場合はほとんどかと思います。ここではこの様な目標設定を指して、部分最適とします。

各チームの部分最適なKPI設定イメージ

インサイドセールスの場合:
- フィールドセールスに多くのProspectを送り出すためにアポの数を増やす
- アポの数を上げるためにLeadリストを少しでも多く入手する
- 効率的を進めるためフォーマット化を進めたりCRM/SFAを最適化する

フィールドセールスの場合:
- 成約率を高めるために、できる限り成功確率の高そうなProspectを進める
- 売上の達成のためにコストをかけてでも多くのProspectにコンタクトする
- Runway上のProspectを手の空いている担当者や成約率の高い担当者が集中して対応する

カスタマーサクセスの場合:
- 解約や契約の最小化を第一優先をする
- Up/Cross-sellのためのコンタクトを増やすため、(確度はどうあれ)ユーザー接触を増やす
- オンボーディング、顧客側での製品やサービスの利用を確実にする


もちろん、これらのKPI設定は悪いものばかりではありません。しかし、多くの場合は自分たちのチームで完結するクローズドなターゲットの達成を目指して設定されたKPIの様に見えます。この場合、例えば以下のようなケースの発生が予測されます。

インサイドセールスはとにかく多くのProspectを送り出すことで評価され、確度が高くない状態のLeadがフィールドセールスのRunwayに投げ出されるが、確度の高いProspectしか進めたくないフィールドセールスがフォローせずに顧客ニーズがどんどんagingされてしまった。

売上を確保したいがために、無理な条件やスケジュールでcloseされた案件がカスタマーサクセスの元に舞い込んで、オンボーディングが成功しないどころか、手当の必要な既存顧客へのリソースが大きく持っていかれることで解約リスクが高まってしまった。

カスタマーサクセスが日ごろのコンタクト拡充の中で新しいLeadを発見したのでインサイドセールスに渡したところ、新規Leadを進めることがチームとして優先度が高いことから放置され、Cross-sellの機会が失われるのみならず既存顧客との関係性にも影響を及した。

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いずれのケースも、チーム間の目指すべき方向性の違いから案件の取り扱いが異なってしまい、案件や顧客を起点にしてビジネスができていない様子です。このような事を起こさないために、営業パイプライン管理を中心に据えたプロセスの全体最適化を考える必要性があります。

ちょっと脱線:Theory of Constraintsの話

皆さんは、ザ・ゴールという本をご存じでしょうか。エリヤフ・ゴールドラット著の有名な本で、現代の製造サプライチェーンにおける教科書的な一冊です。この本では、Theory of Constraints; TOC(日本語で制約理論)と称して、工場の生産状況を改善する全体最適化の手法が説明されています。特徴的なのは、製造工程は一本のチェーンの様につながっているため、どこかに負担がかかれば他の部分も影響するという事です。そのため、負担がかかっているところ(ボトルネック)に対して資源を集中して能力を向上させ、かつボトルネックの能力に併せて他の工程を最適化することで全体的なアウトプットを最大化するというものです。漫画版もありとても読みやすい内容で、イケてる社会人のかなりの割合は読んでいる本なので、ぜひチェックいただきたいです。

結局のところ、営業プロセスの最適化とはなにか

各営業案件がパイプラインを進捗するということは、営業プロセスという切れ目のないチェーンの上にいる事であり、営業成果の最大化のためにはボトルネックを特定することと、それに合わせたリソース配分が必要不可欠です。各案件によって(もしくは各顧客によって)、ボトルネックはそれぞれに異なる場合が多いですが、一方で自社営業組織の方でもプロセスのボトルネックが存在する可能性があります。以下の様に、自社の営業組織のボトルネックはどこに存在するか、まずは認識することが大切です。

自社のボトルネック診断質問例

- 許容されるレベルを超えてコンバージョンの悪いStepはないか
- 各Stepに対応できる人数、能力は適切か、どこかに過剰であったり手余りが生じているチームはないか
- 売上最大化のための方程式が適切になっているか(案件を増やす?単価を増やす?解約を減らす?などの変数設定)


ボトルネックが認識された後は、もし短期的にすぐ解決できるものであれば実行したほうがよいでしょう。例えば配置転換やStep移行の要件を再定義して各担当チームでの案件In/Outを最適化するなどです。また、各チーム間の連携に関わる部分がボトルネックである場合は改善に時間を要する場合があります。各担当者レベルで前後のStepへ橋渡しする働きが必要ですが、これを多くしすぎると稼働が高くなりすぎてしまいます。ISからFS、FSからCSといったフォワードな関係での引継ぎよりは、次のStepを担当するチームが前のStepへの関与を高めるバックワードな関係の方が顧客側への心理的負担も低減できるかもしれません(例えば、Need analysisにFSが同席する、Closingの条件検討の際にCSが関与するなど)。

個人的には、重要な顧客を管理するKey Account Managementチームを導入し、Key Account Managerが各Stepを横断的に、各チームとのマトリックス型で案件管理することが理想的だと考えます。その場合でも、1) Key Accountの選定、2) Key Account Managerを任せられる人材の育成、採用、3) 他の顧客との優先度や各チームのリソース配分調整など課題はいくつかあります。Key Account Managementについては別のnoteで詳細に(かなり詳細に、、!)触れているので、参照していただければと思います。

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Key Account Managementの話はこちら


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